白い刻印 (ＡＦＦＬＩＣＴＩＯＮ)
(1997年 アメリカ)(上映時間１時間54分)
監督・脚本：ポール・シュレーダー
出演：ニック・ノルティ、ジェームズ・コバーン、ウィレム・デフォー、シシ
ー・スペイシク、メアリー・ベス・ハート
＜ストーリー＞
小さな田舎町の警官ウェイド・ホワイトハウスのもとに、離婚した妻と暮らす
一人娘がハロウィンを過ごすために訪れる。だが、彼女はウェイドを嫌い、す
ぐに帰ってしまう。そんなある日、州の組合幹部が狩りの最中に事故死。ウェ
イドはその背後に陰謀があると疑うのだが……。
＜レビュー＞
酒びたりで暴力的な父親のもとで育った男の悲劇、ってとこでしょうか。
主人公がだんだん壊れていくんですぅ〜。どこにも救いがないんですぅ〜。破
滅への道をまっしぐらに転がっていくだけ。ゴロゴロゴロ………。（スイカじ
ゃないゾ）
なんだかスゴク暗いし、ツライ映画ですねぇ。
アメリカって、こういう映画もつくっちゃうんですねぇ。
(´ヘ｀；)ハァ
主人公は、雪深い静かな田舎町に住む警官ウェイド・ホワイトハウス（ニック
・ノルティ）。離婚した妻（けっこう金持ちらしい男と再婚済み）に引き取ら
れている一人娘を呼び寄せ、ハロウィンを一緒に過ごそうとする。だが、娘は
早く家に帰りたがって、勝手に母親に電話をかけて迎えにきてもらう。
そこから、彼の人生は破滅への第一歩を踏み出していく……。
ニック・ノルティ、老けたなぁ〜。
最初に顔を見た時に思わずそうつぶやいちゃった。
それぐらい見事に、人生に疲れた中年男を演じきっていた。おまけに、ときど
き顔をのぞかせる暴力性がコワイ。最初のうちは、そんなにキレた感じではな
いけれど、だんだん壊れていく姿に背筋がゾクッ！ (><)
やがて、町で事件が起きる。
州の組合幹部が鹿狩りの最中に銃弾を受けて死んだのだ。案内した青年は、男
が事故で自分を撃ってしまったと主張した。だが、ウェイドは、もしかしたら
その青年が男を射殺したのではないかと疑う……。
この謎の事件を追及するうちに、ウェイドは事件の背後に大きな陰謀があると
感じるようになる。
そこに彼自身の私生活に関するいくつもの難問が加わって、やがて一気に大噴
火しちゃうわけだ。ドッカーン！！
その難問の１つは、さっきも触れた一人娘の問題。離婚なんか今時珍しくもな
いし、ウェイドだって行きつけの店のウェイトレス、マージ（シシー・スペイ
シク）とうまいことやっている。でも、彼にとって一人娘が自分になついてく
れないのは、どうしても許せないこと。だから、彼女の親権を取り戻す裁判を
起こそうとする。
そして、もう１つの大きな問題は父親（ジェームズ・コバーン）との葛藤だ。
アル中で暴力をふるう父に、子供の頃のウェイドはいつもおびえていた。その
恐怖感は今も記憶の中に残り、ときどきよみがえっては彼を苦しめる。
その父親は、今は母親とともに町はずれて暮らしていた。だが、しばらくぶり
にウェイドが訪ねて行くと、なんと母親は凍死。ウェイドとマージは仕方なく
父親を引き取るのだが、それがまた大きな重荷になる。父親は昔のまんまの大
酒飲みのバカ親父で、二人をあれこれと困らせる。
そして、この映画にはもう一人重要な人物が登場する。ウェイドの弟ロルフ（
ウィレム・デフォー）だ。彼のモノローグという形で物語が進められていく。
実際の登場場面は少ないけれど、なかなか存在感のある役どころ。
だけどさぁ、ニック・ノルティとウィレム・デフォーの兄弟、全然似てへんゾ!! (＾0＾)
まあ、デフォーとジェームズ・コバーンは、どっちもゴツい顔だから、親子に
見えないこともないけどサ。ニック・ノルティはちょっとなぁ〜。ひょっとし
て腹違いの兄弟か？
で、物語がどうなったかっていうと、やがて、例の謎の事件の真相（といって
も本当の真相は不明なのだが……）を知ったウェイドは大ギレ！
そして、彼が親権訴訟を起こすと知った元妻がマジギレ！
そんでもって、せっかく連れてきた一人娘も例によって「おウチ帰る〜！」と
騒ぎ立て、マージもバカ親父にあきれて家出……。
そんなこんなで、みんな揃ってキレまくったおかげで、ウェイドは超ウルトラ
級のブチキレだぁ〜！！ w(☆o◎)w
（あの……、別にコメディじゃないスからね。誤解のないように）
この映画の脚本・監督は、デ・ニーロ主演『タクシードライバー』(1976年)や、
最近ではニコラス・ケイジ主演『救命士』などの脚本家として有名なポール
・シュレーダー。
ね？ アメリカ社会の暗部を描くことにかけては、バツグンの力量の持ち主っ
てわけ。彼が、ラッセル・バンクスの『狩猟期』を原作に、またしてもアメリ
カの闇を描いたのがこの映画なんですネ。
ただし、この映画のテーマはアメリカだけじゃなくて、国や時代を越えて普遍
的に通用するものだと思う。暴力、それも親の暴力がどんな悲劇を巻き起こす
のか。それを何の飾りもなく、赤裸々に描き出している。
児童虐待を行う親は、自分も親から虐待されたケースが多いという。父親の暴
力を恐れ、それを嫌い、自分はああなるまいと誓ったはずのウェイドが、いつ
のまにか父親と同じ暴力性を見せ始める姿は、何とも悲しく、やるせない。
(T^T)
もしかしたら、敏感な一人娘は早くからそれに気づいて、彼を嫌っていたのか
も……。
現代社会の病巣を鋭く描いた問題作。
エンターティメント映画がドトーのように押し寄せる中、こういう映画をつく
った心意気はホント素晴らしいゾ。ホメてあげます。アンタはエライ！！！
だ〜が、残念だけど映画としては２つの大きな欠点がある。
まず、せっかく謎の銃暴発事件を物語の大きな柱にしているのに、その展開が
あまりにつまらないんだなぁ。 (-_-)
ウェイドが疑惑を強めるのは、弟のロルフの推理を聞かされたのがきっかけ。
そして、大きな陰謀があると確信するのも、町の開発に関する情報を人から聞
かされたから。つまり、自分で動き回って真相に迫ったんじゃなくて、ただ人
から話を聞いて、「ああ、そうなんだ。こりゃ許せません！」となっちゃうわ
け。いくらお人好しでも、そりゃないっしょ……。
もっとサスペンスタッチでジワジワと真相に迫りながら、それにつれてウェイ
ドがキレて行く展開にしたほうが、絶対におもしろかったと思うなぁ。
そして、２つ目の欠点は、ウェイドが最初からちょっとヘンなこと。オープニ
ングの娘との会話からして、なんだか狂気がチラチラと顔をのぞかせている。
だから、彼がそのうちにキレて行っても、あんまり驚かないし、「アイツなら
そうだよなぁ」とミョーに納得しちゃうのだ。
父親の暴力の影響や妻との離婚といった心の傷があるわけだから、最初からま
ったくフツーってわけにはいかないにしても、最初のうちはもう少し抑え気味
にしてジリジリとキレさせたほうがよかったんじゃないの？ そしたら、もっ
ともっとスリリングで観客をスクリーンに引き込めたんじゃないでしょーか。
そういえば、フツーの人がどんどん狂っちゃう映画では、マイケル・ダグラス
主演『フォーリング・ダウン』（1993年）のように、キョーレツな暑さと熱気
が効果的に使われるケースが多い。
でも、この映画の舞台は雪の中。せっかくの狂気も寒さに凍えて迫力不足!?
{{ (>_<) }} 寒いーッ!!
てなわけで、ドラマ的にはかなり物足りなさが残ります。
でも、アカデミー助演男優賞を受賞したジェームズ・コバーンと主演男優賞に
ノミネートされたニック・ノルティの狂暴親子コンビ（？）の熱演を見るだけ
でも、けっこう見応えがあると思う。
《ぽちのおススメ度》
★★＋1／2★
（さすがにジミな映画だけあって、ようやく今頃、単館に近い形で公開ですも
んね。お近くで上映のない方はビデオ化を待ちましょうゼ。）
＜ぽち＞