アリ(ＡＬＩ)
（2001年 アメリカ）（上映時間２時間37分）
監督・脚本：マイケル・マン
出演：ウィル・スミス、ジェイミー・フォックス、ジョン・ボイト、マリオ・
ヴァン・ピープルス、ロン・シルバー、ジェフリー・ライト
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＜ストーリー＞
1964年、黒人ボクサーのカシアス・クレイ（ウィル・スミス）がヘビー級王座
を獲得する。黒人イスラム教団体に入信した彼は、モハメド・アリと名を変え
無敵を誇るが、ベトナム戦争の徴兵を拒否したことから状況は一変。世間の風
あたりが強まり、王座まで剥奪されてしまう……。
＜レビュー＞
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徹底したドキュメンタリー・タッチで迫る異色の伝記映画
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その強さだけでなく、特異のキャラクターからも歴史に名を残すヘビー級ボク
サー、モハメド・アリ。そんな彼の人生を『ヒート』や『インサイダー』など
の骨太ドラマで知られるマイケル・マン監督が描いた映画。
「きっと、フツーの偉人伝にはならないだろうなぁ〜」「“感動の人間ドラマ
”なんてＰＲコピーは信じないゾ！」と思ったら案の定。従来の伝記映画には
見られない異色の作品でした。 (#^.^#)
物語は、1964年、伝説的な黒人歌手サム・クックの熱〜いステージからスター
ト。
「え？ どうして」と思っていると、そこにアリが冬の街頭をランニングして
いるシーンが重なる。パトカーがやってきて、彼にイチャモンをつけようとす
る白人警官。
続いて父親が描くキリストの絵を見つめるアリ。そして黒人イスラム教の指導
者マルコムＸの演説を聞くアリの姿。
このオープニングが素晴らしい！ (^-^)//""パチパチ
よけいなことは一切ナシ。当時の黒人の置かれた状況やアリに大きな影響を与
えた宗教問題などを、クドクドと語ることなく短いシーンを重ねることで、簡
潔に表現しています。
アリはヘビー級チャンピオンを獲得！ (＾o＾)／
イスラム教に改宗しモハメド・アリと名前を変え、リングで敵を倒し続ける。
ひたすら大口を叩くユニークなキャラも話題を集めて人気者になるが、やがて
ベトナム戦争の徴兵を拒否したことからボクサー資格を剥奪され、裁判にかけ
られる。経済的にも困窮するどん底の生活。
それでもけっして体制に屈せず、ついに伝説的なキンシャサ（ザイール）の戦
いで復活を遂げる……。
ここまでがこの映画で描かれるアリの人生。
ただし、感動ウルウルのヒーロー物語ではなく、徹底したドキュメンタリー・
タッチで描かれているのが特徴。手持ちカメラを多用し、極端なアップを使っ
たりして、限りなくドキュメンタリーに近い映像をつくり出しています。
登場人物の感情を、セリフでアレコレと説明するような場面はほとんどありま
せん。当時の社会や時代背景、あるいはアリを取り巻く人間関係などの説明も
一切排除。
被写体から距離を置いて、淡々と、そしてリアルに、まるでニュース映像のよ
うなシーンが展開されていきます。
ボクシング場面も異色です。スポ根ものにありがちな大げさな盛り上げはまっ
たくナシ。スローモーションをやたらに使ったりするでしょ？ アニメの『巨
人の星』で星飛雄馬が１球投げるのに15分ぐらいかけたりしてサ……。
そういうことをしないで、ホンモノの試合の迫力を生み出しているんです。
一番印象的なエピソードは、やっぱり徴兵拒否の話。彼は当時のアメリカ政府
に対して堂々とケンカを売ってしまう。それは宗教的な理由というよりは、「
自由に生きたい！」という１人の人間としての素直な気持ちからだと思う。
「どうして貧しいベトナム人を殺さなくちゃいけないんだ？」「理想を追求し
てなぜ悪い？」「俺は自分にウソをつきたくない！」
そんな気持ちから徴兵を拒否して、どん底に突き落とされてしまうのだ。
もちろんこの映画では、そういうメッセージを観客にグイグイ押しつけたりは
していません。
いや、それどころかアリをヒーローに描いていない。ふだんの彼はビッグマウ
スはリング上と同じでも、それ以外は全然輝いていない。政府を相手に闘って
いる時でも、何度もくじけそうになるし、不安だらけの日々。女性関係も複雑
だったりするし、人格的欠点も多い生身の人間なんです。
ラストはキンシャサの闘い。ここだけはちょっぴりスローモーションを使った
りして、盛り上げモードに入っています。
ただし、その闘いに関わったドン・キングやザイールの大統領に対するアリの
複雑な思いを、彼の視線だけでチラッと見せるあたりは最後まで徹底していま
す。
主演のウィル・スミスの成りきりぶりもかなりのもの。肉体改造したというだ
けに、リング上での迫力はスゴイ。リング外での弱さや情けなさもそれなりに
表現していたと思う。
それに、白人ながら彼の理解者であるキャスターを演じたジョン・ボイトの演
技も印象に残りました。
観客に対するサービス精神もなく、ひたすらドキュメンタリー・タッチに徹し
たマン監督。ボクはけっこうこういう演出が好きだし、この映画のテーマにも
合っていると思う。２時間37分がちっとも長くありませんでした。
でも、もっとメリハリのあるドラマや感動の物語、ヒーロー伝説なんかを期待
する人は不満に思うかもネ。特に後半のアリの私生活の混乱ぶりは見たくない
人も多いことでしょう。まあ、そこは好みの問題なので……。
それに時代背景なんかの説明がほとんどないので、予備知識のない人にはちょ
っとツライ部分があるかもしれません。
それとさぁ、ロマンスのシーンが全然つまんないのはどうしてだ？？？ そこ
だけ急に普通の映画みたいになっちゃうんだもん。マン監督、恋愛は苦手か？
なんにしても、政府に文句を言ったりすると袋叩きにあいそうな今のアメリカ
で、こういう映画がつくられたのはかなり意義深いことのような気がします。
長いものに巻かれるばっかりじゃ、どうしようもないですもんねぇ〜。
《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
（同じ伝記映画でも『ビューティフル・マインド』なんかとはまったく違うタ
イプ。個人的にはこちらの方が好きですが、一般ウケはしないような気が……
。星は４つでも、誰にでもオススメできる映画ではありません。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2002年５月30日（木）シネマサンシャインにて。午前10時20分の回。