美術館の隣の動物園
(1998年 韓国)(上映時間１時間48分)
監督：イ・ジョンヒャン
出演：シム・ウナ、イ・ソンジェ、アン・ソンギ、ソン・ソンミ
＜ストーリー＞
結婚式のビデオカメラマンのチュニ（シム・ウナ）は、式場で見かける代議士
秘書インゴン（アン・ソンギ）に片思い中。シナリオライターを目指す彼女は
、彼への気持ちを込めてコンクールに応募するラブ・ストーリーのシナリオを
書いていた。そんな彼女のアパートに、前の住人だったタヘ（ソン・ソンミ）
の元恋人チョルス（イ・ソンジェ）が入り込む。彼は、タヘが引っ越したこと
を知らなかったのだ。兵役休暇中のチョルスとチュニは10日間の期限付き同居
をすることになるが……。
＜レビュー＞
最近、よく韓国映画を観るなぁ〜。
ていうか、前は全然公開されてなかったもんなァ。東京なら、キネカ大森あた
りで細々とやってる程度でサ。
一気に公開され始めたのは、やっぱ『シュリ』の影響でしょうねぇ。
ただサ、１つの作品が当たると、何でもかんでも公開するっていうのはどうな
んでしょう？
なかには、しょーもない映画もあると思うんだけど……。
なになに？ 今回の映画は『美術館の隣の動物園』？ 『八月のクリスマス』
のシム・ウナ主演のラブ・ストーリーだと？
どれどれ、しょーもない映画だったら怒るかんネ！！
あらあら、話のきっかけからつまんないじゃん。
恋人が引っ越したのを知らずにアパートを訪ねた男。合鍵で部屋に入っている
と、そこに住む新しい住人の女性が帰ってくる。それが２人の出会い……。
て、どっかで聞いたような話だなぁ。ラブ・ストーリーの出だしとしちゃ、ど
うってことないよなぁ。
かといって、現実には絶対に起こりそうもない設定だし。
うーん、先が思いやられる。 ／(-_-)＼
え！？ どうして２人は同居しちゃうの？ んなアホな！
いきなりそんなことにゃならんでしょうが、普通は。
いくら何でも強引すぎる展開だゾ。ダメだこりゃ。
と、いきなりダメ出しをする＜ぽち＞……。
ＢＵＴ！！
その先は意外におもしろかったんだ、これが……。 (＾-＾)
２人の男女の会話がバツグンに楽しいんだよネ。
掃除も料理もしない、化粧もロクにしないガサツな女チュニ。それにイチイチ
文句をつける男チョルス。でも、チュニも負けていないでバリバリ言い返す。
ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。「丁々発止」ってのはまさにこう
いうこと。
そのセリフのやりとりがとにかく楽しい。ヘタな夫婦漫才なんかよりよっぽど
笑える。細かなニュアンスまでセリフがきちんと練られているなぁ。
（もっとも、韓国語だからわかんないところもあるんだけど。）
ただ楽しいだけじゃなくて、「愛ってなに？」みたいなかなり深い真実も散り
ばめられてるから、「うんうん」「そうそう」って、うなずいちゃう人も多い
んじゃない？
そして、会話とともにおもしろかったのが全体の構成。
チュニがコンクールに応募しようと思っているシナリオに、チョルスも口を出
す。２人はそのドラマの中の男女に、自分が思いを寄せる相手を投影させる。
その２人の恋のドラマが、現実の２人のドラマと同時進行していくんだよネ。
ちょっとわかりにくいかな？
つまり、こういうこと。
・現実の恋……男チョルス×女チュニ
・シナリオの中の恋……男インゴン（チュニが好きな相手）×女タヘ（チョル
スがフラレた相手）
この２つの恋が同時進行していくわけ。
主人公たちの恋とシナリオの中の恋という、２つのラブ・ストーリーをうま〜
くリンクさせているところがスゴク効果的です。映画全体にとてもいいリズム
をつくり出している。
（そのシナリオのタイトルが『美術館の隣の動物園』っていうんです。）
物語は、期間限定で同居するハメになったチュニとチョルスのそれぞれの恋の
行方と、２人がシナリオを共作していく過程で、お互いにひかれ合っていくよ
うすが描かれていく。
ほとんどが２人の会話で進行していき、それ以外の要素はできるだけカットさ
れている。
これといって大事件も起きないし、劇的な場面もほとんどない。
それでも観させてしまうのだからエライ！！
考えてみたら、ラブ・ストーリーなんてそんなにドキドキハラハラばっかりじ
ゃないよネ。
恋のパターンなんてどれも似たり寄ったり。設定は変わっても、「どこかで見
たような……」って感じになりがちだもん。
それをどうやって魅力的にしていくかっていうと、会話の楽しさとか、巧みな
構成だとか、主人公たちのキャラなんかにかかってくると思う。
そういう点で、この映画は「これぞラブ・ストーリーの極意！！」ってものが
、きちんと盛り込まれている気がするな。
不満といえば、２人がひかれ合う過程がイマイチちゃんと描ききれていないこ
と。雰囲気的にはわかるんだけど、もう少していねいに描いて欲しかった。
チョルスのキャラを、もっと極端にしちゃってもよかったんじゃないかなぁ。
一応、料理もできて掃除もできて、っていうキャラにはなってるんだけど、も
っとそれをはっきりさせたほうがよかったと思う。そうすれば、ガサツな女チ
ュニとのコントラストがはっきりして、２人がひかれ合う構図がはっきり見え
てきた気がする。
実際の恋でも、自分と正反対の相手を好きになるケースが多いでしょ？
ラストも定番って感じでどうってことないんだけどネ。
でも、ここは全体の流れから言ってＯＫ。ヘンにシンミリしたり、涙ウルウル
になったりしないのがいい。最後まで、明るく、キュートな感じのさわやか〜
なラブ・ストーリーで貫き通してるから。
まあ、とにかく主演のシム・ウナがいいワ。
初めてキスされた時の、うれしいような、恥ずかしいような、何ともいえない
顔がたまらんなぁ。
『八月のクリスマス』の時もそうだったけど、スッピンの表情がとっても魅力
的なんだ。この女優さん。ヨッ、化粧いらず！！！
相手役のイ・ソンジェはまあまあって感じかな。
それよりも素晴らしかったのが、チュニが思いを寄せる代議士秘書で、シナリ
オのドラマの中では動物園の獣医を演じるアン・ソンギ。わたしゃ、勝手にこ
の人を「韓国の役所広司」ハン・ソッキュに対抗して「韓国の大杉漣」と呼ん
でるんですが（笑）、今回もスゴイ存在感でした。黙ってても絵になるなぁ、
この人。
そして、チョルスの元恋人で、シナリオの中では美術館員を演じるソン・ソン
ミもかわいくてよかったデス。
とにかく、さわやかで、明るくて、キュートなラブ・ストーリー。
ジトジト、ベタベタ、涙ウルウルの恋の話が苦手な人におすすめします。
《ぽちのオススメ度》
★★★
(監督のイ・ジョンヒャンは韓国でもまだ少ない女性監督。で、若い！ これ
がデビュー作なので、今後が期待できますゾ。)
＜ぽち＞