玻璃〈ガラス〉の城 (CITY OF GLASS 玻璃之城)
(1998年 香港)(上映時間１時間50分)
監督：メイベル・チャン
出演：レオン・ライ、スー・チー、ニコラ・チェン、ダニエル・ン
＜ストーリー＞
1996年の大晦日。新年を祝う人々で沸き返るロンドンで車が路肩に激突。車中
のラファエルとヴィヴィアンは息絶える。翌日、ラファエルの息子デイヴィッ
ドは遺体確認のためロンドンヘ。そこに現われたのはヴィヴィアンの娘スージ
ー。互いに自分の親を奪われたという思いで反目し合う２人だが、香港でラフ
ァエルとヴィヴィアンが共同名義で家を購入していたと知り、その処分のため
に香港に向かう。そこには、数々の想い出の写真や品々が飾られていた。ラフ
ァエルとヴィヴィアンはいったいどんな関係だったのか。長年の友人デレクが
語り始める。
＜レビュー＞
かつて愛し合い別れた男女がふとしたことから再会する。今はそれぞれ家庭を
持つ身だが愛が蘇り、２人はただならぬ関係になってしまう……。
な〜んだ、ただの不倫ドラマじゃないの。(｀ヘ´)
そう思うでしょ？
でもね、これがちょっと違うんだな。
何しろ、この２人ときたらオープニングであっさり事故死しちゃうんだから。
1996年、大晦日のロンドン。１台の車が事故を起こし乗っていた２人の男女が
死亡する。２人の名はラファエルとヴィヴィアン。
翌日、事故を知ったラファエルの息子デイヴィッドが遺体を確認しにニューヨ
ークからロンドンへ。そして警察で香港から来たヴィヴィアンの娘スージーと
出会う。
不倫関係の２人が死んでしまい、その子供が親たちの過去を探っていく。
この設定がおもしろい。
おまけに、子供たちのうち、デイヴイッドがアメリカに移住して香港を嫌って
いるのに対して、スージーは香港の有名大学に通っている。
この対比は、返還を前にした香港の人たちの複雑な心情を表している。その頃
香港の人たちは、海外に移住するかそのまま残るか、厳しい選択を迫られていた。
この映画がただの不倫ドラマで終わらない最大の理由は、香港返還をはじめと
した歴史的事件を背景に描き込んでいるからだと思う。
その後、ラファエルとヴィヴィアンが香港に家を持っていたことを知った子供
たちは、処分のために香港に向かい、そこで親たちの過去を知ることになる。
２人が住んでいた家がいい家なんだわ。（＾。＾/）
外観も内部もとってもおしゃれで、おまけに海まで見える。２人は香港のエグ
ゼクティブだから、こういう別宅が構えられるんですネ。うらやまし〜い！
それはともかく、ここからは1970年代の香港大学（超エリート校らしい）を舞
台にした、甘く切ないラブ・ロマンスが展開されます。
ストーリー自体はどうってことない話だけど、それでも飽きずに観られるのは
登場する場面がどれも印象的で美しいから。
たとえば、ヴィヴィアンがラクロスの練習中に、ランニングで通りかかったラ
ファエルとフェンス越しに目が合う出会いのシーン。
ゲストを招いた厳粛な女子寮の夕食に、ラファエルが１輪のバラを手に忍び込
むシーン（アスピリンを花瓶に入れると枯れないってホント？）。
真夏に、先輩からアイスを溶けないように持って来いと命令されたヴィヴィア
ンを、ラファエルが自転車に乗せて送ってあげるシーン。
どれも心に残るいいシーンばかりデス。 (^。^;)ホッ
そして、もうひとつの大きなポイントが音楽。
２人の思い出の曲、ブラザーズ・フォーの「トライ・トゥ・リメンバー」をは
じめ、当時の音楽がたくさん使われている。
この手の青春映画で、その時代の音楽を織り込むのはお決まりのパターン。
それでも、ついつい引き込まれちゃうのが音楽の持つ魔力。
リアルタイムで体験していない僕が感動しちゃったんだから、その頃青春真っ
盛りだった人にとっては、涙が出るほどセンチメンタルになっちゃうだろうな
きっと。 (;＞_＜;）
このあたりの仕掛けがとってもうまいゾ。
ただし、このあと、どうしても理解できない場面が登場する。
ラファエルは学生運動に参加して逮捕され、それをきっかけフランスに出国。
２人は離れ離れになってしまう。
でも、なんでラファエルは香港を出るの？
釈放されてからは迫害を受けている様子もないし、愛する人を置いてまで出て
行くのはなぜなんだろう。その気持ちがよくわからないなぁ。
離れ離れになっても大丈夫だと思うほど、２人の愛に自信を持っていたのか？ （・_・？）
逮捕のきっかけになる学生運動の緊迫感がイマイチ伝わってこないから、ます
ます疑問がふくらんじゃうんだよネ。 ／(-_-)＼
もしかしたら、香港の人たちはそのあたりの事情がわかっているから、抵抗な
く受け入れられるのかもしれないけど……。
とにかく彼は外国に行っちゃいます。
出国を決意したラファエルは、自分で作った「手」の塑像をヴィヴィアンに渡
す。そこには手相すべてにヴィヴィアンの名前が刻まれていた！ w(゜o゜)w
オオー！
ここもニクイ場面だなぁ。ホンマようやるわ。とてもかないまへん（なぜか関
西弁）。
そして、このあと、香港とフランスに離れ離れになった２人の心は次第に遠の
いていく。それを余計なシーンを省いて、国際電話のやり取りだけで描いてい
くところもお見事。メリハリの効いた構成で、２人のすれ違いをうまく表現し
ている。
さて、時は流れて1992年。それぞれ別の相手と結婚したラファエルとヴィヴィ
アンは、運命の再会をする。
お互いに意識しながらも、なかなか前に進めない２人だったが、ある雨の晩、
とうとう車の中で激しく抱き合う。ワイパー越しのラブ・シーンが美しい。 （*^．^*）
やがて２人は、郊外の一軒家で一緒に暮らし始める……。
この２度目の恋に登場するのは、なんとセスナ機。これをうまく使うことで２
人の恋はまたまた輝き出す。
２人がセスナ機の操縦を習い、２機のセスナで仲良くランデブー飛行したり、
奥さんが現れたためにラファエルが飛べなくなり、ヴィヴィアンが１人で飛行
したり……。
うーん、ホントにうまいゾ、チャン監督。最敬礼します。(^o^)ゞ
このあと、あることからヴィヴィアンは２度目の別れを決意し、ロンドンへ向
かう。彼女をあきらめられないラファエルが追いかけて行って、オープニング
の事故シーンへとつながっていくわけ……。
とまあ、ラファエルとヴィヴィアンのことばかり書いてきたけれど、実はこの
映画ではもう１つの恋も描いている。２人の子供、デイヴィッドとスージーの恋。
といっても、中心はやっぱり親たちの恋だから、子供たちの恋はどうしても突
込み不足。それでも、２人の恋はこの映画に欠かせない。
だって、ラファエルとヴィヴィアンの恋は失われていく恋だけれど、デイヴィ
ッドとスージーの恋は今始まったばかりの恋だから……。
この映画はラブ・ストーリーであると同時に、失われていくものへのオマージ
ュ（賛辞）でもあると思う。
一度は失われ、そして再び燃え上がったけれど、結局この世ではかなわなかっ
たラファエルとヴィヴィアンの恋。
そして、返還によって失われていく香港の風景（スクリーンに登場する啓徳空
港も今はもうないんですよね）。
そうした時代の流れとともに失われていくものを惜しむ気持ちが、スクリーン
全体にあふれている。
でも、それはただのノスタルジアじゃない。
過去と未来をきちんと結びつけている。
その橋渡しをするのが若い２人の恋なのだ。
ラストは、香港返還記念式典のシーン。デイヴィッドとスージーはそこで打ち
上げられる花火に、ラファエルとヴィヴィアンの遺灰を入れる。
うーん、これも美しいシーンだゾ。（^。^;）ウットリ。
主演の２人、レオン・ライとスー・チーがとってもいい雰囲気。特にスー・チ
ーは若き日の可憐な姿と、不倫に悩む後年の姿をうまく演じ分けていた。これ
でまだ22歳だっていうんだからビックリ。ｗ（゜ｏ゜）ｗ
ただ、あんまり若すぎて、あんなデカいガキ（失礼、お嬢様）がいるようには
どうしても見えない！(＾0＾)
《ぽちのおすすめ度》
★★★＋1／2★
（同世代の人だったらもっともっと楽しめるんじゃないかな？）
U^ェ＾U ワン！ ＜ぽち＞