カーテンコール
| （2005年 日本）（上映時間1時間51分） 監督・脚本：佐々部清 出演：伊藤歩、藤井隆、鶴田真由、奥貫香、津田寛治、橋龍吾、田山涼成、粟 田麗、伊原剛志、黒田福美、福本清三。田村三郎、水谷妃里 ＊シスイッチ銀座ほかにて全国公開 ホームページ http://www.curtaincall-movie.jp/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 東京の出版社で契約記者として働く橋本香織（伊藤歩）は、密会スクープ写真 の撮影に成功するものの、撮影された女優が自殺未遂を起こしてしまったため、 責任を取る形で福岡のタウン誌に異動を命じられる。そこで彼女は、「懐かし マイブーム」という読者投稿コーナを取材することになる。それは、昭和30年 代末から40年代半ばまで、下関の映画館で、上映の幕間に「つなぎ」として芸 を披露していた「幕間芸人」の話題だった……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 幕間芸人と娘の葛藤を描いた佐々部監督らしい骨太のヒューマンドラマ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 『半落ち』『チルソクの夏』の佐々部清監督の新作。 昭和30年代に、下関の映画館で幕間に歌やトークを披露していた芸人さんのお 話。時代が時代だけに、若い人にはややとっつきにくい印象があるかもしれま せんが、主人公の若い女性記者・香織がタウン誌の取材で、その人物のことを 探るというスタイルをとっているので、けっこう親近感を持って観られるはず。 前半は、安川修平という男が、ひょんなことから幕間芸人になり、人気を獲得 していく姿が生き生きと描かれます。『座頭市物語』『網走番外地』など当時 の日本映画のヒット作、「いつでも夢を」などのヒット曲もたくさん登場。 やがて恋をして結婚をして娘が生まれる修平。ところがその頃から、日本の映 画産業は斜陽となる……。 (ノ△・。) このあたりまでで気になったのは、肝心の修平の芸がそれほどおもしろくない こと。せっかく芸達者の藤井隆を起用しているのだから、もう少し楽しいス テージにすればいいのに。と思ったら、どうもそれはわざとやっているらしい。 修平は特別にスゴイ芸人というわけではなくて、たまたま映画産業の隆盛によ って地元のスターとなり、その斜陽とともに苦境に陥ったというように、映画 界の興亡とリンクさせて描いているんです。そこがこの映画の大きな特徴。 回想シーンを白黒で描くのも、ありがちだけど効果的です。 後半は思いがけない展開へ突入します。在日朝鮮人の話が大きなファクターに なり、差別の話なども出てきます。このあたりは『チルソクの夏』にも登場し たテーマ。社会派の要素も盛り込んで、ただの感動物語でない、もっと深みの あるドラマにしたところに好感が持てます。 そして、それを背景に父と娘の断絶と和解というテーマが前面に出てきます。 下関から韓国・済州島へと飛びながら、老いた修平と成長した娘との微妙な関 係、それぞれの胸の内が丁寧に描かれ切なさを誘います。 (ρ゜∩゜)グスン 特に上手いのが寸止めの演出。クライマックスの劇場シーンで盛り上げるだけ 盛り上げながら、最大の見せ場はそこに持ってこない。そのあとに見せ場を持 ってくるものの、そこも最後は寸止めにする。感動の押し売りをせずに、こう やって余韻を残すような展開に持っていくのが佐々部監督の手腕。それがかえ って涙を誘うのです。 “マシュー”とは違う藤井隆の味のある演技も印象的ですが、それよりも圧倒 的に存在感があるのが藤村志保。前半の回想は彼女によって語られます。この 人、昔の写真を見るとスゴク可愛いのですが、年を取った今は実に深みのある 演技をしますねぇ〜。 後年の修平を演じた井上尭之（ギタリスト）、伊藤歩、鶴田真由、奥貫香、津 田寛治などの脇役陣も印象に残る演技。 ただし、修平と娘のドラマと並行して、香織と父のドラマも描きながら、後者 はやや舌足らずの感があるところはやや不満。冒頭の香りの挫折とかは必要な い気もするなぁ〜。 とはいうものの、一人の芸人と娘の関係を軸に、社会派の要素も盛り込まれた、 温かで感動的な映画に仕上がっています。いかにも佐々部監督らしい骨太なヒ ューマンドラマの佳作です。 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆（＋1／2★） （下関と済州島を舞台に父と娘の葛藤を描いたドラマ。最後は温かな感動に包 まれます。ただ泣けるだけでない骨太の人間ドラマが好きな方はぜひ。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年12月1日（木）シネスイッチ銀座にて。午後1時30分の回 |