エデンより彼方に（FAR FROM HEAVEN）
（2002年 アメリカ）（上映時間１時間47分）
監督・脚本：トッド・ヘインズ
出演：ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド、デニス・ヘイスバート、パト
リシア・クラークソン、ヴァイオラ・デイビス、ジェームス・レブホーン
＊シネマライズほかにて全国公開中
ホームページ http://www.gaga.ne.jp/eden/
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＜ストーリー＞
1950年代のアメリカ・コネティカット州。重役夫人のキャシー・ウィテカー（
ジュリアン・ムーア）は裕福で満ち足りた日常を送っていた。だが、ある日、
夫フランク（デニス・クエイド）がオフィスで男とキスしているのを目撃する
。一方、キャシーは、黒人の庭師レイモンド（デニス・ヘイスバート）と出会
い打ち解けていくが、そんな彼女を見る白人社会の目は冷たかった……。
＜レビュー＞
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徹底的にこだわってつくられた50年代のメロドラマ。でも今なぜ？
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「衝撃！ 白人人妻と黒人庭師の禁断の愛！！ そして、夫にはホモ疑惑が！
？」 (゜ロ゜)
ワイドショー的に言うと、そんな感じでしょうか。
裕福で幸せな人妻に、突然夫の同性愛疑惑が持ち上がる。一方、妻は黒人庭師
と親しくなるが、当時は黒人と白人の交流はタブー。世間は当然冷たい視線を
向ける。
グラムロックのスターを描いた『ベルベット・ゴールドマイン』（1998）のト
ッド・ヘインズ監督の新作は、意外にも1950年代を舞台にした典型的なメロド
ラマです。
しかも、このメロドラマ、展開にはまったくヒネリがない。いまどきこんなス
トレートなメロドラマを、よくもまあ堂々とつくったものですねぇ〜。
ボクは基本的にこういうメロドラマがあんまり好きではない。でも、この映画
に関しては、けっこう楽しんで観てしまいました。
まず目を引くのがノスタルジックな雰囲気。
登場人物の服、髪型はもちろん、車や街並みまで当時の雰囲気を忠実に再現。
ディテールへのこだわりはハンパではありません。
いえいえ、それどころか映画全体のつくりが、完全に当時のハリウッド映画そ
のまんま。色調や演出も当時のスタイルだし、エンドタイトルの出し方まで昔
の映画風。
うーむ、ここまで徹底してこだわるとは驚きです。 Ｗ（゜Ｏ゜）Ｗ
ダラダラとシーンを垂れ流さず、比較的短めなシーンをつないでいく手法も印
象的。セリフだけでなく登場人物の表情などから、その微妙な心理を描写して
いくところも見応えがあります。メロドラマとはいっても、けっして感情過多
の押し付けがましい映画にはなっていないんですよね。
『ヴァージン・スーサイズ』のエドワード・ラックマンの撮影、『荒野の七人
』のエルマー・バーンスタインの音楽もいい雰囲気です。
そして、なんといっても素晴らしいのがジュリアン・ムーアの演技です。『め
ぐりあう時間たち』と同じ主婦役なのに、まったく違うアプローチの演技を披
露。古いモラルと人種差別の中で、自分に正直でいたいと考え苦しむ女性の姿
を、圧倒的な存在感で演じています。彼女ったら、すっかり演技派としての地
位を確立した感じですね。
また、夫役のデニス・クエイドの深みのある演技も心に残ります。
もちろんこのドラマが陳腐なメロドラマに留まらないのは、人種差別という問
題が背景に描かれているためです。しかも、白人と黒人との交流という当時の
タブーを破った行動は、白人による非難だけでなく、黒人による黒人への非難
も生み出すという複雑さが、さらにドラマに重みを与えています。
「同性愛＝病気」と見なし、必死でそれを治療するという当時の常識も、滑稽
ではあるけれど同時に悲しくもあります。
こうした様々なポイントによって、このメロドラマはただのメロドラマではな
く、立派な人間ドラマとして心を揺さぶってくれるのです。
抑制的に描かれた駅のホームでのラストシーンが、胸にグッと迫ってきました
。 (T^T)
この映画は1950年代にたくさんメロドラマをつくったダグラス・サーク監督の
『天はすべて許し給う』（1955）を下敷きにしているそうです。監督によれば
「ダグラス・サーク監督を好きな人だけのためにつくった」映画だとか。
でも、そういうことを知らなくても、十分に楽しめると思います。
ただし、いったいなぜ今の時代にダグラス・サーク監督なのか？ なぜこんな
メロドラマをつくる必要があったのか？ それは最後までナゾのまま。ただの
気まぐれなのかなぁ〜？？？ だとしたら、そんな気まぐれにつきあった観客
（含むボク）がいちばんエライ！！！ （￣＾￣）
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（+1／2★）【かなりオススメ。観たほうがいいんじゃない？】
（とにかくこだわりのメロドラマ。現代に通じるものはあまりないけれど、ジ
ュリアン・ムーアの演技だけでも観る価値はあると思います。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2003年７月17日（木）シネマライズにて。午後12時20分の回。