メゾン・ド・ヒミコ
| （2005年 日本）（上映時間２時間11分） 監督：犬童一心 出演：オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯、西島秀俊、歌澤寅右衛門、青山吉 良、柳澤愼一、井上博一、森山潤久、洋ちゃん、村上大樹、高橋昌也 ＊ シネマライズ、新宿武蔵野館ほかにて公開中。順次全国公開予定 ホームページ http://himiko-movie.com/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 塗装会社の事務員、沙織（柴咲コウ）のもとに、ある日、春彦（オダギリジ ョー）という若い男が訪ねてくる。彼は、沙織の父、卑弥呼（田中泯）が開設 したゲイのための老人ホームで働かないかと誘う。卑弥呼はガンで余命いくば くもなく、愛人である晴彦が沙織を呼んでやろうとしたのだ。だが、沙織は父 を激しく憎んでいて……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 孤独と幸福が同時に刻まれた奥行きあるドラマ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 名作『ジョゼと虎と魚たち』の監督の犬童一心と脚本の渡辺あやが再びコンビ を組んだ作品。前作は大学生と足の不自由な少女との恋愛物語でしたが、今回 はゲイの老人ホームを舞台にした物語。そこで、さまざまなドラマが展開され ます。 中心となるのは、ホームの開設者の卑弥呼とその娘沙織との対立のドラマ。沙 織は、父親が自分と母親を捨ててゲイに走ったことを恨み、ゲイを嫌っている。 だが、お金に困っていることから、誘いに応じてホームにバイトに行く。そこ で、ガンで余命わずかの父と対面するが、恨みはますます募るばかりだった… …。 父と娘のドラマが物語の核とはいえ、それだけではありません。他の入居者た ちの生き様や、沙織と晴彦との微妙な関係など、いろいろなエピソードが描か れます。 だが、しかし、それらはどれも、ありがちなハッピーエンドだの、お涙頂戴の 展開ではありません。たとえば、父と娘のドラマも単純な＜対立→軟化→和解 ＞という図式にはなりません。 むしろ、そこにはちょっとさめたような、突き放した視点さえ感じられます。 「人間なんてしょせん孤独なんだ」「簡単に幸せなんか来ないんだ」。登場人 物が時折見せる、何ともやるせない表情が印象的です。 しかし、同時に、温かな視線も感じられます。この映画に登場する人たちは、 それぞれが自分なりに一生懸命に生きています。そうした人々に対する優しい まなざしが感じられるんです。 このあたりは、『ジョゼ〜』同様に、犬童監督の演出が見事。登場するすべて の人物の繊細な心のヒダを巧みにすくいとっていきます。スクリーンには、彼 らの孤独と幸福が同時に刻まれています。 ゲイの話というと特別な感じを持つかもしれませんが、どんな人の心にも響く 要素を持っている映画だと思います。観る人にあれこれ考えさせる深い内容に なっているんですよねぇ〜。ある人は、沙織の孤独を身近に感じるだろうし、 ある人は卑弥呼の人生に共感するだろうし……というように、見る人ごとにそ れぞれ違った思いにとらわれるはず。 途中では、笑えるシーンやファンタスティックなシーンなども挿入されます。 特に、沙織がゲイをバカにした男と大ゲンカした後で繰り広げられるダンス シーンは、まるでミュージカルのような楽しさ。演奏される曲も尾崎紀世彦の 「また逢う日まで」というナイスなセンス！ こういうところで、孤独だけで なく人生の楽しさ、素晴らしさを表現しているワケ。 役者の演技も印象的です。 特に沙織役の柴咲コウの仏頂面がたまりません。何もあんなにずっと不機嫌な 顔をせんでも良かろうが……てなぐらいの演技で、孤独なＯＬを表現。卑弥呼 の恋人役のオダギリジョーも父と娘の間で揺れる微妙な心理をよく見せていま した。 そして、卑弥呼役の田中泯さんの気品ある演技が見事。この人、もともと舞踏 家で、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』で役者としても大注目された人です が、今回の演技も素晴らしかったなぁ〜。 それぞれのエピソードをキッチリ追っているわけではないので、観る人によっ ては中途半端な感じがするかもしれません。単純な感動や涙を期待する人もガ ッカリします。 その代わり、深い奥行きを持った映画なのは確か。『ジョゼ〜』もそうでした が、時間が経てば経つほど心に残る映画です。 ラストは何となくホッとする雰囲気で、明日への希望が感じられます。そうで す。人間は孤独だけど、けっして一人ぼっちじゃないんですねぇ〜。 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆（＋1／2★） （奥行きのある人間ドラマで、期待を裏切らない出来。できれば、このコンビ でもう１本お願い！） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年９月10日（土）池袋シネマサンシャインにて。午後４時20分の回。 |