イン・ザ・ベッドルーム（IN THE BEDROOM）
（2001年 アメリカ）（２時間11分）
監督・脚本：トッド・フィールド
出演：トム・ウィルキンソン、シシー・スペイセク、ニック・スタール、マリ
サ・トメイ、ウィリアム・マポーザー、カレン・アレン
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＜ストーリー＞
医者のマット（トム・ウィルキンソン）と妻のルース（シシー・スペイセク）
の一人息子フランクが三角関係のもつれで恋人の元夫に射殺されてしまう。深
い悲しみに沈む夫妻は、周囲の助けもあって事件前の日常を取り戻しかける。
だが、犯人が保釈され、大した罪になりそうもないとわかった２人は……。
＜レビュー＞
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静けさの中に見え隠れする深い絶望と怒り。世の中ってヤツはまったく！
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ボクは死刑には反対です。基本的には。
でも、犯罪で肉親を殺された人が「犯人に死刑になって欲しい！」と願う気持
はよく理解できるし、そういう人たちの前で「死刑反対！」なんて叫ぶ気には
なりません。
世の中には、こういう難しい問題がたくさんあります。良い解決法はなかなか
見つからないけれど、それでもちゃんと考えていかなければいけない。そのこ
とをあらためて感じさせてくれる映画です。
医者のマットと妻のルースのファウラー夫妻の一人息子フランクは、年上の女
性ナタリーとつきあっていた。彼女には離婚歴があり、子供もいた。しかも、
元の夫リチャードが最近になって執拗に復縁を迫っていた。
そんなある日、身の危険を感じたナタリーからの電話で彼女の家に駆けつけた
フランクは、リチャードによって射殺されてしまう。
突然、一人息子を亡くして深い悲しみに沈む夫妻。犯人のリチャードは夫妻の
願いもむなしくすぐに保釈され、裁判でも大した罪になりそうもない。弁護士
も頼りにはならない。
何とか悲しみを乗り越えようとする夫妻だが、２人の間にはどんどん溝が広が
っていく……。
素材だけでやるせないんですよねぇ〜。あれこれ説明されなくても夫妻の心情
が痛いほどわかってしまう。一人息子を亡くした悲しみ、苦しみ、絶望感、そ
して犯人に対する憤り。
そういうものを激情に走ることなく、静かに抑制的に描いているんです。凝っ
た仕掛けもまったくナシ。たけど、それがよけいに観ているボクらの感情を刺
激してきます。 (T.T)
子供を亡くしても大げさに泣きわめくことなく、淡々と生きようとする夫妻。
ビール片手に仲間とポーカーをするマット。合唱の指導を続けるルース。事件
前と同じ生活を送ろうとするものの、それはやはり前とは違う毎日。そこがと
ってもツライんだなぁ〜。 (´ヘ｀;)
特に印象的なのが、夫妻が友人宅に招かれて食事をともにした時。みんな何事
もなかったかのように楽しく語らうんです。でも、どこかがおかしい。何とな
くギクシャクしている。そのビミョーな空気で、夫妻の感情の揺れを見事にあ
ぶり出しています。
中途半端に投げ出したように、シーンをぶつ切りにして暗転させるところも、
夫妻の心の闇を象徴するようで興味深い演出でした。
ただでさえツライ夫妻なのに、やがて犯人が保釈され、刑もそれほど重くなり
そうもないと知って、ますます絶望感が深まります。小さい町だから、犯人と
偶然に会っちゃったりするんですよ。たまんないですよねぇ〜。 (・・,)
それに奥さんの方は、息子の恋人だったナタリーにも敵意を持っている。「ア
ンタなんかとつきあわなければ息子は殺されなかったのよ！」ってわけです。
この感情は夫のルースにはあまりありません。それがまた夫婦の溝を広げてい
く１つの要素になる。
後半は、それまでお互いに感情を抑えていた夫妻が、もうどうにもガマンしき
れなくなって爆発します。そして、それがある事件へとつながっていく……。
この意外な展開にはちょっとビックリでした。それまでの静かな人間ドラマか
ら見れば、やや唐突な印象もぬぐえません。 (？_？)
ただし、犯罪被害者の肉親の感情からすればああいう結末しかなかったのかな
、という気はします。そこに至るまでの感情の変化もきちんと描かれているの
で、納得できる結末には違いありません。
それに、脚本や演出が、一方的に肉親側に肩入れしていないところも好感が持
てました。あくまでも問題提起にとどめているんですよね。「犯罪者なんかや
っつけちゃえ！」な〜んてアクション映画のような姿勢とはまったく異質。そ
の分、観終わったあとのカタルシスはないので、スカッとした気分にはなれま
せんが……。
この映画で突きつけられるのは、犯罪被害者の問題だけではありません。家族
とは？ 親子とは？ 友情とは？などなど様々なことを考えさせてくれます。
主人公親子って、一見普通の親子なんだけど、一皮むけばアレアレってところ
もあるんですよね。そういうところの見せ方もうまい。
夫婦役のトム・ウィルキンソンとシシー・スペイセクの演技がずば抜けて光っ
ています。ごく普通の行動の中で、チラチラと激情を見せる演技に脱帽。息子
の恋人役のマリサ・トメイも存在感がありましたね。
欠点といえば、前半、息子が死んだ後しばらくは、これといった大きな出来事
は起きないし、あまりにも正攻法から描いているために、ちょっと間延びした
感じがする点でしょうか。人によっては途中で飽きちゃうかもしれません。
それとラストの出来事に関しては、もうひとヒネリあってもおもしろかったか
なぁ〜、という感じもします。まあ、あんまりやり過ぎると、ただのエンタメ
系サスペンスになっちゃいますけどネ。
抑制的な表現で、子供を亡くした夫妻の底知れぬ絶望や、やり場のない怒りを
描き出した作品。涙ボロボロの感動物語にも、わかりやすいサスペンスにもし
なかったところがよかった。
アメリカ・インディーズ映画の底力が感じられる映画だと思います。
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（＋1／2★）
（「泣ける」だけじゃない、重い問題を提起した人間ドラマ。それだけに、観
終わってモヤモヤッとしたものが残るので、誰にでもオススメできるわけでは
ありませんけれど……。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2002年８月８日（木）シャンテ・シネにて。午前10時40分の回。