顔
(1999年 日本)(上映時間２時間３分)
監督：阪本順治
出演：藤山直美、豊川悦史、國村隼、大楠道代、牧瀬里穂、中村勘九郎、岸部
一徳、佐藤浩市
＜ストーリー＞
内向的な性格で、幼い頃から家に閉じこもってきた吉村正子（藤山直美）。ク
リーニング店を営む母の元で、洋服のかけはぎをしながらひっそりと暮らして
いた。だが、ある日、母が急死。その直後、ふとしたことから仲の悪かった妹
・由香里（牧瀬里穂）を殺害し、香典を持って逃亡生活を始めるが……。
＜レビュー＞
この映画、なんや大阪のほうではエラい盛り上がってるようでんな。
監督が『どついたるねん』の阪本順治、主演が関西お笑い界の重鎮、故藤山寛
美の娘の藤山直美とくれば、こりゃあヒットせんほうがおかしい。
大阪人なら、みんな見なアカンで。阪神タイガース同様、応援したってや！
とまあ、いい加減な大阪弁で始めちゃいましたけど、実際はそんなに「大阪ク
サイ！」映画じゃあ〜りませんデシタ。
あふれるようなバイタリティーも、強烈なパワーも感じられなかったし、笑い
の質も吉本的な「何が何でも笑わせたる！」光線じゃなくて、控え目な「よか
ったらクスッと笑ってネ」光線を発射する程度。
だから、「コテコテの大阪の風にドップリつかるゾ！」な〜んて気持ちで映画
館に行くと、見事に期待を裏切られちゃうかもネ。
主人公は内向的な性格で、ブサイクな顔をした中年女性の正子。ほとんど家に
閉じこもっていた彼女が、ふとしたことから仲の悪い妹を殺して指名手配され
、逃亡の旅に出る。
最初に落ち着いたのは、阪神大震災直後のラブホテル。経営者（岸部一徳）は
多額の借金を抱えて、やがて首吊り自殺する。
続いて九州の別府に逃亡した正子は、そこで偶然知り合ったスナックのママ（
大楠道代）の店でホステスをする。そして、逃亡前に見かけてひと目ボレした
池田（佐藤浩市）と再会し、恋心を覚える。
そんな逃亡劇の途中で、彼女はいろんな人物に出会い、いろんな体験をする。
その中には池田への恋といった心トキメク出来事もあるのだが、どちらかとい
えば、つらく、悲惨な体験のほうが多い。
酔っ払いにレイプされたり（レイプ男はなんと中村勘九郎！ 歌舞伎の親玉・
松竹が製作に絡んだ映画だから、こういう役をやってもＯＫだったのか！？）
、罪の意識から死んだ妹の亡霊を見たり、自殺しようとして死に切れなかった
り、スナックのママの弟によって客に体を売らされたり……。
妹殺しのうえに、こんなヒドイ運命のテンコ盛りだったら、普通はめげちゃう
よなぁ。地底深くまで落ち込んじゃうよなぁ……。 (T^T)
でも、正子さんはその現実を受け止めて、どんどん前向きになっていっちゃう
んデス。内向的な性格がみるみるまに積極的になり、生き生きとしていく。表
情も明るくなって、以前とは別人のようになっちゃう。 (＊^。^＊)
それは初めて男を知って変わったとか、不幸のドン底で開き直ったとか、そう
いう次元とはかなり違うポジティブさ。
いったいなぜ？ (・_・？)
きっと彼女は、生まれて初めて「生きてる！」って実感できたんだと思う。
家に閉じこもっていたころの彼女は外の世界との接触がほとんどなくて、傷つ
いたり、苦しんだりすることもあまりなかった。でも、同時に心から喜んだり
、ハッピーな気分になることもなかった。つまり、どこにも進めないで、同じ
場所でずっとイジイジしていたわけだ。
それが、思わぬことから外に放り出されて、いろんな出来事に出会ってしまっ
た。たとえ、それがヒドイ出来事でも、新たな道が開けてすっごくハッピーな
経験もできた。そして、彼女はどんどん変身していったのだ。以前は想像もで
きなかったステキな自分に……。
そこで彼女は、ようやく自分の存在意義を見出したんじゃないかな？
外の世界に飛び出して、初めて自分を輝かせることができたんだヨ。
そのきっかけが殺人だったっていうのは、とんでもなく皮肉なことではあるけ
れど……。
というわけで、どんどんポジティブになっちゃう正子さんを描いているだけに
、この映画全体の雰囲気もとてもポジティブで明るい。
「殺人犯の逃亡劇」なんていうと、いかにも暗くてギトギトした情念タップリ
のドラマを思い浮かべがちだけど、そんなところはまったくナシ。
なんと問題の妹殺しの場面も、犯行そのものはカットしてその前後だけをサラ
ッと描いているだけ。
唯一の凄惨な場面ともいえるトヨエツが殺されるシーンだって、何だか夢の中
の出来事のようで、あんまりエゲツナイ感じでもない。
いやぁ〜、観ているうちにようやく気づいちゃいましたネ。 (＾-＾)
この映画って、犯罪映画っていうよりもファンタジー映画なんだ、きっと。
１人の女性がそれまでのつらい過去を棄てて、美しく変身していくシンデレラ
ストーリー。いかにもありそうな材料を使っているけど、完成した料理は現実
からかなり離れた夢物語ってわけ。
ラストもいかにもファンタジーらしい終わり方。
あまりにも現実離れしていて、「ちょっとなぁ〜」って気もするけどサ、まあ
ファンタジーとして考えたら、ああいう終わり方しかないんでしょうネ。
さてと、この映画の最大のみどころはタイトルにある「顔」。
藤山直美演じる正子の顔が、映画が進むうちにどんどん変わっていく。
最初は、病的なぐらい内向的で喜怒哀楽に欠けた表情が、やがて生き生きとし
た表情へと変化していく。その変貌ぶりにはただビックリ。 (
゜＿゜；)
別に整形したワケじゃないから、顔そのものがそんなに変わるはずはないけれ
ど、服装や髪型、話し方や行動、すべてが少しずつ、確実に変わっていく。
もともと演技力には定評のあった女優さんだけど、阪本監督によってまた別の
魅力が引き出されている。基本的に二世タレントは嫌いな＜ぽち＞も、今回の
演技には参りましたァ〜。 (_ _,)/~~
んでもって、脇役陣もこれまた超スゴいっス！
レイプ男の勘九郎さんでしょ。スナックママの大楠道代でしょ。その弟のヤク
ザがトヨエツでしょ（この人、こういうムチャな男の役はハマリすぎだワ）。
スナックのスケベ客の國村隼でしょ。正子の妹役の牧瀬里穂でしょ（しかし、
どう考えてもこの姉妹、少しも似てないゾ！）。正子が恋する相手・池田役の
佐藤浩市でしょ。借金苦で自殺するラブホ経営者の岸部一徳でしょ……。
こんだけ揃えてつまんなかったら、先生許しません！！！ って感じ。
ホント、みんないい演技してますよ。
おまけに全部の配役がピタッとハマってんだからサ。
まあとにかく、全編がクスッと笑えて、楽しく鑑賞できる映画。犯罪が素材で
も、全然暗くないし、よけいな力も入っていないから、２時間以上の映画なの
にラクに観られます。気になるところもいくつかあるけれど、難しいことを考
えずに娯楽作品として見れば文句ナシ！
ただなぁ、もうちょっとドキドキするところとか、心に引っかかるところがあ
ってもよかった気がするなぁ。あんまりサラッとし過ぎてる……。
それと監督が何が言いたかったのかよくわかんないゾ！
人生はやり直しがきくってことを言いたかったのか？
家に閉じこもるのはよくないって言いたかったのか？
女は魔物だって言いたかったのか？ (＾。^/)
もうちょっと、わかりやすいメッセージがあってもよかったと思うのだが。
《ぽちのおススメ度》
★★★
（観客の年齢層が高いなぁ。でも、映画が始まってから隣でタクワン食うのは
やめてくれ！！）
＜ぽち＞