キングダム・オブ・ヘブン(KINGDAM OF HEAVEN)
| （2005年 アメリカ）（上映時間２時間25分） 監督・製作：リドリー・スコット 出演：オーランド・ブルーム、エヴァ・グリーン、ジェレミー・アイアンズ、 デヴィッド・シューリス、ブレンダン・グリーソン、マートン・ソーカス、 リーアム・ニーソン、ハッサン・マスード、エドワード・ノートン ＊日劇１ほかにて全国公開 ホームページ http://www.foxjapan.com/movies/kingdomofheaven/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 12世紀。妻子を一度に失った鍛冶屋のバリアン（オーランド・ブルーム）の前 に、十字軍の英雄ゴッドフリー（リーアム・ニーソン）が現れ、父だと名乗る。 ２人は聖地エルサレムへ向かう。そこでは、サラディン率いるイスラム教徒と、 ボードワン４世を王とするキリスト教徒の間に、かろうじて平和的なバランス が築かれていたのだが……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 現代にも通じる硬派な時代劇。リドリー・スコット久々の快心作かも 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 リドリー・スコットはやっぱり時代劇が似合うよなぁ〜。いつもの懲りすぎの 映像美は、現代劇だと、時々カラ回りしちゃうのだ。『グラディエーター』も、 ドラマの中身はともかく、雰囲気はかなりイケてましたからねぇ〜。 てことで、今回の映画の舞台は中世のエルサレム。エルサレムをめぐる攻防で 十字軍が大活躍するハリウッド映画と聞いて、「キリスト教徒がイスラム教徒 をやっつける映画か？」な〜んて思ったりもしたのだが、そんな単純な話では ありませんでした。 まず驚いたのが、オーランド・ブルーム演じる主人公が屈折しまくり！ 妻子を失い悲嘆にくれる彼の前に、突然十字軍のリーダーが現れ、「自分が父 親だ」と告げる。しかも、「エルサレムまで着いてこい」という父の誘いを断 ったものの、はずみで司祭を殺し、仕方なくエルサレムに向かう……。 その父親がまた不思議な人物なんだなぁ〜。 (´へ｀; 十字軍なんていうと、キリスト教のために異教徒を叩きのめすイメージがある けど、この人は違います。「キリスト教徒とイスラム教徒が共存できる世の中 をつくりたい」と願っているのです。これこそが「キングダム・オブ・ヘブン ＝天国の王国」ってワケ。 さらに、その父親が仕えるエルサレム王（エドワード・ノートンの顔を出さな い演技が印象的）も、似たような考えの持ち主で、サラディン率いるイスラム 教徒とバランスを保って平和を維持しているのだ。 その後、父が死に主人公バリアンはその跡を継ぐ。 ところが、エルサレム王が死んだことでバランスが崩れ、イスラム教徒とキリ スト教徒の血みどろの戦いへと突入だ〜〜ッ！！！ ∋──ヽ(￣∀￣ヽ) てことで、バリアンも否応なく戦いに引きずり込まれていくのだが、それは信 仰や愛などのためではなく、ただ無力な市民を守るため。しかも、父と同様に 「キングダム・オブ・ヘブン」を夢見る彼には、イスラム教徒を殲滅する意思 など少しもない。最後の決戦でさえ、和平に持ち込むことを目的にした戦いな のだ。 戦争の映画なのに高揚感はほとんどナシ。むしろ悲壮感や虚無感さえ漂います。 アメリカ人の好きな善悪クッキリの展開ではないし、宗教に対する批判的な精 神までプンプン漂ってきます。 な〜んて言うと、地味でダラダラ流れていく映画かと思うかもしれませんが、 そうではありません。 なにせ映像派リドリー・スコットですもの。すさまじい数の兵士がバトルをく り広げるシーンなど映像がド迫力。セットの隅々まで気を配るこだわりぶりも 健在で、その美しさはハンパでない。 主人公と王女とのロマンスも取り込んで、見せる工夫はキチンとしています。 だけど、やっぱり印象深いのは屈折の度合いの深さ。およそハリウッドのエン タメ映画とは思えない悲壮感や重みが、最後まで心を捉えて離しません。 その思いはラストでさらに強まります。劇中のドラマをちゃんと現在につなげ ているんですよね。つまり、今のイスラエルとパレスチナをめぐる紛争を視野 に入れて、それが過去の人間たちの愚かな行為の積み重ねによって生まれたも のであること。そして、そんな中でも、バリアンたちのように、寛容の精神で 異教徒同士の共存を目指す人々がいたことをキッパリと主張しているのです。 屈折しまくりの主人公を演じたオーランド・ブルームはじめ、リーアム・ニー ソン、ジェレミー・アイアンズなど脇役陣の充実ぶりも見事。 多少理想主義的過ぎるところが鼻につくものの、それ以外は大満足。 うーむ、リドリー・スコットにこんなに硬派な映画がつくれるとは知らなんだ。 ああ、恥ずかしい。 (*^。^*) 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆（＋1／2★） （単純明快なヒーローものをお望みの方にはオススメできませんが、硬派で重 たいドラマ＋スペクタクルでかなりお得な映画だと思いますヨ。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年５月15日（日）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後４時の回。 |