季節の中で (THREE SEASONS)
(1999年 アメリカ)(上映時間１時間44分)
監督：トニー・ブイ
出演：ドン・ズオン、グエン・ゴック・ヒエップ、チャン・マイン・クオン、
ハーヴィ・カイテル、ゾーイ・ブイ
＜ストーリー＞
ハス摘みの仕事に雇われた少女キエン・アン(グエン・ゴック・ヒエップ)は、
ハンセン氏病のために指を失ったダオ先生(チャン・マイン・クオン)に代わっ
て詩を口述筆記する。
シクロの運転手ハイ(ドン・ズオン)は、客にからまれていた若い娼婦ラン(ゾー
イ・ブイ)を助け彼女に恋をする。
肩にかついだ木箱に詰まった時計やガム、ライターなどを売る少年ウッディ(グ
エン・ヒュー・ドゥオック)は、アメリカから娘を探しにきたジェイムズ・ヘイ
ガー(ハーヴィ・カイテル)と会った直後、大切な木箱を盗まれてしまう。
激しく変貌するヴェトナムを舞台に、世代も職業も違う４人の男女がくり広げ
る群像劇。
＜レビュー＞
ヴェトナムも大変だよな〜。
戦争の痛手から立ち直ったのはいいけれど、資本主義経済を導入したおかげで
街にはコカ・コーラのような外国の看板がたくさんお目見え。豪華なホテルに
外国人観光客がやってくる一方、娼婦やストリートチルドレンが登場して貧富
の格差がハッキリ。
そんな今のヴェトナムの良いところも、悪いところも、そのまんま描き出した
のがこの作品だ。
話は大きく分けて４つ。
（１）地方からやってきたハス摘み（摘んだら街で売る）の少女キエンが、ハ
ンセン氏病にかかって世捨て人になった雇い主の詩人ダオ先生にやる気を起こ
させ、再び詩を書かせようとする。
（２）シクロ（自転車の前に客用のシートがついた乗り物）の運転手ハイが、
娼婦のランに恋をして、何とか彼女の境遇を変えようとする。
（３）物売りの少年ウッディが、大切な商売道具の詰まった木箱をなくして、
必死で探し回る。
（４）アメリカからやってきた兵士ジェイムズ・ヘイガーが、かつてヴェトナ
ム女性との間に生まれた娘を探す。
この４つの話が並行して展開される。
運転手ハイがキエンからハスの花を買ったりして、お互いに多少の接触はある
けれど、基本的にはそれぞれが独立した話だ。
それを通して、今のヴェトナムが映し出されるという仕組み。
ただ、残念なことに、それぞれの話が突っ込み不足。群像劇だから仕方ない面
もあるけれど、話によっては全然つまらないものもある。 (｀ヘ´)
特に（４）のアメリカ兵がヴェトナム女性との間に生まれた娘を探す話は、最
初から最後までおもしろくも何ともない。製作総指揮も兼ねるハーヴィ・カイ
テルが相変わらず怪しいオヤジしていい味出してるけど、ただそれだけ。
アメリカ兵とヴェトナム女性との間に生まれた子供という素材は、今のヴェト
ナムを語るのに欠かせないものなんだろうけど、もうひとひねりして欲しかっ
た。
（２）のシクロの運転手が娼婦に恋をする話は、よくありがちな物語。ただ、
運転手ハイの純情まっしぐらな行動がまるでストーカーみたいで、別な意味で
おもしろかった。運転手役と娼婦役の２人の役者の演技がいいから、それで何
となく納得しちゃう部分もある。
ただ、最後のほうで突然官能的な場面になったり、いきなり幻想的な風景に入
り込んだりするのは、いったい何なんだろう？？？
僕が４つの中で一番好きなのは、（１）のハス摘みの少女の話ですね。
「夢はきっとかなう」
雇い主で世捨て人の詩人に、そう訴えかけて再び詩をつくらせる彼女の姿に素
直に感動。彼女が唄う叙情的な歌もとてもよかった。
そういえば、この２人の関係って「美女と野獣」みたいなところもあるゾ。病
気で醜くなって姿を隠した詩人の心を美しい少女が開かせる。彼が亡くなった
あとに、若い頃のハンサムだった写真を登場させるのも心憎い演出。
この映画の最大の魅力は、ストーリーよりもその映像美かもしれない。
街の雑踏、何ともいえない風情のハス沼、赤い葉の下に立つ白い服の娼婦（ビ
デオパッケージにもなっている）。鮮やかな色彩とみずみずしい情感あふれる
映像は、ときどき芸術作品さえ連想させる。
なんでも、ブイ監督は、あの巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督に影響を受
けたとか。
わかる、わかる、鮮烈な映像は確かに共通した雰囲気をもっているもんね。
この監督さん、２歳のときにアメリカに移民して、大人になって故国ヴェトナ
ムを訪問。それで故国が大好きになっちゃったらしいんですよね。
それを聞くとかなり屈折した描き方をしているように思うけど、実際はすごく
ストレートでしかもポジティブ。
シクロの運転手が娼婦に言った「飾らずに自分らしく生きればいい」っていう
前向きな言葉は、そのままブイ監督が故郷ヴェトナムの人たちに贈る言葉かも
しれません。
《ぽちのおススメ度》
★★★
(ヴェトナム人の役者さんを見慣れないせいか、イマイチ表情が読めないんです
よ……。)
＜ぽち＞