イギリスから来た男（ＴＨＥ ＬＩＭＥＹ）
(1999年 アメリカ)(上映時間１時間29分)
監督：スティーヴン・ソダーバーグ
出演：テレンス・スタンプ、レスリー＝アン・ウォーレン、ルイス・ガズマン
、バリー・ニューマン、ピーター・フォンダ
＜ストーリー＞
９年間の刑務所暮らしを終えて出所したウィルソン（テレンス・スタンプ）。
娘がロスで事故死したと知った彼はアメリカに渡り、知らせをくれた男エドゥ
アルド（ルイス・ガズマン）を訪ねる。そして、娘の死がただの事故死ではな
いと感じた彼は、娘がつきあっていた音楽プロモーターのテリー（ピ−タ−・
フォンダ）に接近を試みるが……。
＜レビュー＞
これはまぎれもなくロックな映画だ！！ (^-^)/
といっても、別に『ザ・バント／ラスト・ワルツ』とか、『レッド・ツェッペ
リン／狂熱のライブ』みたいなロック・ドキュメントじゃないけどサ。ノリっ
ていうか、全体のタッチが間違いなくロックなんだなぁ〜。
過去の出来事や思い出なんかをフラッシュバックさせるだけでなく、時間を前
後させたり、同じシーンをいろんな角度から撮影したり、コマ落としの映像を
使ったり……。
細かなテクニックを駆使したポップで新鮮な映像が、独特のテンポのよさと緊
迫感を生み出している。
セリフも必要最小限に抑えられていて、とってもクール！ なんだかゾクゾク
してきちゃう。 {{ (>_<) }}
ただし、ストーリーは単純デス。
娘を殺された刑務所帰りのイギリス人が、アメリカで復讐を企むという物語。
ただ、それだけ……。
娘の死を知らせる手紙を送った黒人男性や、豪邸で若い女を囲う音楽プロデュ
ーサー、テレビ映画の女優、麻薬捜査官。いわくありげな人物たちが次々に登
場するものの、ビックリするような仕掛けはな〜んもナシ。
事故の背景にあるらしい麻薬シンジケートの話だって、表面的に描かれている
だけ。
ありきたりで、スッゴクつまんないストーリーなのだ。 (｀ヘ´)
いや、つまんないっていうより、はっきり言ってムチャクチャだな。だって、
初めのほうで主人公がシンジケートの男たちを射殺しちゃうのに、そのあとも
ノープロブレムで堂々と復讐計画を進めるんだから。生き残ったヤツがいるん
だし、フツーはそいつの証言で捕まっちゃうでしょうが！！（ちなみにこの射
殺場面、音だけでとってもカッコいい。）
まあ、犯人側が自分たちの悪事がバレるのを恐れて、警察に秘密にしなきゃい
けないっていう設定だから多少のムチャは見逃すけど、それにしてもねぇ……
。 (´ヘ｀；)
そんなつまんない、ムチャクチャな話を魅力的に変身させてるのは、さっき言
ったユニークでテンポのある映像の魔力。
そして、それ以上にポイントが高いのが主演のテレンス・スタンプなのだァァ
ァァ〜！！！ (*^。^*)
「シブい！ ダンディ！ とってもナイスガイ！」
「でも、キレたら何するかわかんないかんね。フ、フ、フ……。」
そんなスゴミを漂わせた雰囲気がなんともいえないんだなぁ。
屈折した娘への愛情をどこに持って行ったらいいかわからない。やり場のない
激情が何度も暴発しかける。その思いが、ビシバシとこちらに伝わってくる。
けっしてうまい演技だとは思えないけど、ズシリとくる存在感にギブアップ。
現在61歳のこのオジサン、若い頃には、巨匠ウィリアム・ワイラー監督の傑作
サイコ・スリラー『コレクター』でカンヌ映画祭主演男優賞を獲得するなど大
活躍、超美形で、しかもちょっとストイックな魅力で人気を集めたイギリス人
俳優だ。
でも、こういう美形役者って、その後がけっこう大変。この人もジミな脇役が
続いてたんだけど、1994年の『プリシラ』では、なんとドラッグクイーン役を
演じて大評判に。ただの美形役者じゃない個性派ぶりを発揮したのだった。
そんな彼に目をつけたのが、『セックスと嘘とビデオテープ』でカンヌ映画祭
グランプリを獲得し、最近では『エリン・ブロコビッチ』をヒットさせたステ
ィーヴン・ソダーバーグ監督。
「テレンスのために映画を作りたい！」ということで、1967年のケン・ローチ
監督の長編デビュー作『夜空に星のあるように』をちょっと拝借。ウィルソン
というのは、そこでテレンスが演じた役柄で、その30年後という設定でこの映
画を撮ったんですねぇ。
そして、前作の映像も登場させて、若き日のテレンスと現在のテレンスが共演
するユニークな映画が誕生したってワケ。
つまり、この映画は、ソダーバーグ監督がテレンスのために撮ったプロモーシ
ョンビデオのようなもの。物語はつまんないけど、テレンスの魅力がタップリ
だし、もうそれでＯＫじゃん。＜ぽち＞的には合格点あげちゃうぜ！
おっとっと、うっかり忘れるところだった。もう１人のキレたオジサンのこと
を。
そうです！ ピーター・フォンダです。1969年の『イージー・ライダー』で大
ブレーク、一躍アメリカン・ニューシネマのヒーローになったこのオジサンが
、この映画ではテレンスがつけねらうカタキ役を演じている。
60年代に活躍したロックのプロモーターという設定には笑っちゃうけど、こち
らも堂々たる個性派ぶりを発揮。若い女性をメロメロにするナイスな笑顔を振
りまきながら、その陰では何をやっているかわからないというアブなさが、と
てもタ・マ・ラ・ン。ああ、クセになりそう……。 (＾。^/)
実はテレンスもピーターも同い年で、しかも昔からのダチなんだとか。昔は２
人で相当に悪いこともしたらしい。
「かつての不良がいい感じで年をとったなぁ。ワシも年とったらああなりたい
わい」な〜んて思っちゃうほど魅力的な２人。ホント、この２人のための映画
で、それ以上のことを期待しちゃいけません。これから観る方は、そこをくれ
ぐれもお間違えのないよーに。
ジュード・ロウとか、ユアン・マクレガーとか、若手スターにキャー、キャー
言ってるアナタ。たまには、こういうオジサンたちのシブくて、深みのある演
技を味わってみましょう。そこには長い人生経験から生まれた年輪っつうもん
があるわけですから。ネ！
「なんだジジイの映画か！」なんてバカにしちゃダメよ！！！
《ぽちのおススメ度》
★★★
（それにしても日本じゃ、こういう映画ってないなあ。最近チョイ役ばっかり
の元美形役者とかいっぱいいるのにサ……。あえて実名は伏せますが（笑））
＜ぽち＞