ナビィの恋
(1999年 日本)
監督・脚本：中江裕司
製作：竹中功、佐々木史朗
出演：西田尚美、村上淳、平良とみ、登川誠仁
＜ストーリー＞
都会に疲れ、沖縄に里帰りした奈々子（西田）を温かく迎えるおじい（登川）
とおばあ（平良）。ところが、娘が乗ってきた船には、60年前におばあと恋仲
だった紳士が乗っていたからさあ大変。
おばあのナビィの60年越しの恋の行方を、
孫の奈々子と本土から来た青年（村上）との恋を絡めながらユーモラスに描く。
＜レビュー＞
メルヘンだ。とっても素敵なメルヘンだ。
60年前の恋に身を焦がすおばあさん。それをハラハラしながらも温かく見守る
おじいさん。本土からフラリと訪れた青年に恋をする娘。
現実にはありそうもない話なのに、見ているうちに心がなごんで、何とも言え
ない良い気持ちになる。
こんな映画に会ったのは何年ぶりだろう。
何だかとっても懐かしくて、心が暖かくなってきたゾ。
いかん、いかん！
新聞等のレビューがどれもベタボメだったから、性格の歪んだ私としては、
「よーし、どっか欠点を見つけて悪口を書いてやろう」と意地悪な笑いをニタ
ニタ浮かべながら映画館に入ったのだ。
それがこのありさま。あっさり撃沈されて、なんとも情けないデス……。
たしかに、納得しがたい点もいくつかあった。
でも、全編を覆う独特の雰囲気の中で、あまり気にならない。
なんといってもメルヘンなんだし。
メインになるおばあさんの恋の結末も、メルヘンならではの展開。
「やっぱりこれしかないよな」と納得してしまう（詳しくは見てのお楽しみ）
。娘と青年の恋も、よく考えたら唐突で納得がいかないのだが、見ていると自
然に受け止めることができる。
おまけに、舞台が沖縄の青い空の下だから、ますますおおらかな気持ちになれ
る。
これが冬の北海道だったら、これはもう「鉄道員」とか「北の国から」のよう
な重た〜い物語になってしまうわけだし、大阪やったら「儲かりまっか」でメ
ルヘンにはなりようがオマヘン。
だから、沖縄の「良いとこどり」をした映画といえるかも。
もしも米軍基地でも絡んでくれば、また別の要素が入りこむのだろうが、離島
が舞台だから「重い現実」としてのしかかることもないし……。
一つぐらい文句をつけてやろうと思うのに、そういう気持ちにならないんだな
あ。これが。
何だか中江監督はじめスタッフに、「うまいことやられたな」って感じデス。
そうそう、この映画で忘れてはいけない大きなポイントが歌と踊り。沖縄民謡
はもちろん、アイルランドの音楽やオペラのカルメンなど、様々な表情の音楽
が全編に散りばめられ、それに合わせて人々が踊る。
まるでミュージカル映画のようだ。
ん？ 待てよ。
それまで普通のシーンだったのに、いきなり歌が始まり、みんなで踊り出す。
このパターンはどこかで見たことがあるゾ。
そうだ！ インドのマサラムービーだ！
もしかして、この映画は沖縄のマサラムービーか！？
ラストシーンで全員が歌い、踊りまくる場面を見て私は確信した。インドのマ
サラムービーのような派手なアクションはないけれど、歌と踊りに乗せてハー
トウォームなドラマがユーモラスに展開される。
これはただのミュージカル映画ではなくて、沖縄版マサラムービーなのだ！
小技もなかなか効いていて、おばあさんのかつての恋の経緯をトーキー仕立て
で紹介したシーンが楽しい。
また、登場人物も個性派揃いで、なかでもおじいさん役の登川誠仁が最高。妻
の老いらくの恋に、最初はジタバタしながら、やがて温かく見守るようになる
。そんな難しい心理を淡々と演じている。
毎日、楽器を手に「星条旗よ永遠なれ」を演奏しながら牛の世話に向かう場面
は、とにかく笑えます。
なんでも、この人、沖縄の民謡界の大御所とか。演技は下手ですが、それがか
えって純朴で、裏表のないおじいさんの性格をうまく表現している。
おばあさんナビィ役の平良とみの達者な演技や、孫娘役の西田尚美の伸びやか
な演技にも注目！
それにしても、いくら生木を引きはがされるように別れさせられたとはいえ、
60年も前の恋が再び蘇ることなんてあるのだろうか。
50年も一緒に暮らしてきた優しいおじいさんはどうなるんだ？
愛とはそこまで強いものなのか？
昔の恋人に対する愛情とおじいさんに対する愛情はどう違うんだ？
ナビィおばあさんが、かつての恋人に「昔と同じ匂い」なんて言うのを聞いて
、複雑な心境になってしまった。お互いに年をとって、外見はまったく変わっ
てしまっているのにネ。
女はいくつになってもやっぱり愛に生きるのだろうか。
女の気持ちがよくわからん。
おじいさんがカワイそうじゃ〜！
でも、まあ、そんなことを深刻に考えさせるわけでもなく、楽しく見させてく
れるところが、この映画の魅力。
どんなに疲れている時でも、上映時間の１時間32分間は、暖かで心地好い世界
に浸れます。
派手なアクションや爆笑ではなく、のんびりしたオキナワン・マサラムービー
で年末の慌しさを一時忘れてみてはいかが？ ＜ぽち＞