二重スパイ


(2003年 韓国)(上映時間2時間3分)
監督:キム・ヒョンジョン
出演:ハン・ソッキュ、コ・ソヨン、チョン・ホジン、ソン・ジェホ
*丸の内東映ほか東映系にて全国公開中
ホームページ http://www.2-spy.jp/
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<ストーリー>
1980年、東西冷戦下の東ベルリンで、北朝鮮のイン・ビョンホ(ハン・ソッキ
ュ)という男が西側への亡命を果たす。しかし、実は彼は北朝鮮が送り込んだ
工作員だった。韓国の国家安全企画部による厳しい拷問を耐え抜き、団長に身
柄を預けられ、上層部の信頼を獲得していくビョンホ。そんな中、彼は女性ア
ナウンサーのユン・スミ(コ・ソヨン)と接触する……。

<レビュー>
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権力に翻弄される人々の悲劇を描いたスパイ映画。鈍い緊張感が全編を貫く
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『シュリ』(1999)や『JSA』(2000)と並ぶ作品としてPRされている韓
国映画の大作。でも、スペクタクル満載だった『シュリ』ほどエンターティメ
ント性は高くありません。むしろ全編を貫く鈍い緊張感は、『JSA』と共通
するところがあるかもしれません。

時代は1980年頃。
東ベルリンで、北朝鮮の工作員ビョンホが西側に亡命。やがて彼は韓国で、国
家安全企画部による厳しい拷問を受ける。それを耐え抜き国家安全企画部の団
長に身柄を預けられ、今度は韓国の情報機関のために働く。だが、実は彼は北
朝鮮によって送り込まれた二重スパイだった。

そんな彼に北からの指令が下る。「DJに接触せよ」。放送局を訪ねたビョン
ホに女性アナウンサーのユン・スミが接触する。彼女もまた北のスパイだった
。2人は恋人同士を装いながら何度も接触を重ねる……。

これは南北分断という現実を背景に、非情な権力に翻弄される男女の悲劇を描
いたドラマです。
まず、最初に好感が持てるのが、南、つまり韓国側の残虐な拷問をきちんと描
いて、北だけでなく南北双方の権力の恐ろしさを描き出したところ。もちろん
これは過去の話ですが、自国の恥とも言える部分を避けずに描写するのは、な
かなか勇気がいることだと思います。

てことで、この映画、当然ながら最近の日本の「北朝鮮がみんな悪いんだぁ〜
!! 北朝鮮をぶっ潰せ〜!!」みたいな世論には、ちっとも応えておりませ
ん。そういうことには期待しないように。

事はそんなに単純ではないのです。善悪がハッキリした映画でもありません。
でも、その分、ハリウッド的な底の浅いスパイものと違って、深みと重みのあ
る人間ドラマがつくり出されています。 (~ヘ~;)

物語の基本はスパイ・サスペンス。ただし、最初から「二重スパイ」というカ
ラクリがバレているわけで、そういう謎解きの楽しさはありません。その代わ
り、2人のスパイに起きる様々な出来事を丹念に、そして感情を抑えながら描
くことで、全編に鈍い緊張感を漂わせています。

また、中盤以降、韓国に潜伏していた大物スパイが捕まって、それをきっかけ
に主人公たちが追い詰められていくあたりは、フツーのサスペンスとしてもけ
っこうスリリング。 o(^o^)o

一方、この映画では主人公と女スパイとのラブ・ストーリーも大きなテーマ。
密命を帯びたスパイにとって、恋愛関係など許されるはずがない。それでも、
気持は抑えられず……てな胸にググッとくる感じは、残念ながらあまりありま
せんでした。2人の関係が変化していく描写が、ちょっと雑。そこをていねい
に描いてくれたら、ラストに向けての感動ももっと大きかったことでしょう。

まあ、そのへんはラストシーンで、ありがちな悲劇のシーンを登場させて、一
応ググッと感動させてくれるんですけどね。でも、そこだけじゃあねぇ〜。

それに全体にやや唐突な展開が目立つのも欠点。もう少しきめ細かに描いてく
れたら、スパイ映画としてのおもしろさもさらに倍増した気がします。

しかし、そういう欠点を隠してくれるのが、『八月のクリスマス』(1998)『
シュリ』などでおなじみのハン・ソッキュ(韓国の役所広司と呼んでいるのは
ボクだけ?)の演技です。いつも巧いですねぇ。この人。さすがに存在感のあ
る演技でした。
また、相手役の『エンジェル・スノー』(2001)のコ・ソヨンも、暗い雰囲気
がなかなか良い感じでした。

というわけで、いくつかの欠点は気になりましたが、それを上回る深みと重み
を感じさせる映画でした。南北分断の悲劇と、それが南北の人々をいかに苦し
めているかが、よーくわかる映画です。映画は過去の物語だけれども、今も基
本的な構図は変わらないわけで、現在にそのまま通じるドラマだと思います。

これを見れば、韓国の人たちが単純に「北朝鮮を潰せ〜」なんて言えない理由
がよくわかりますね。歴史とは実に残酷なものです。

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆(+1/2★)【かなりオススメ。観たほうがいいんじゃない?】
(『シュリ』のようなハデさを期待すると裏切られますが、深く重みのある映
画。製作者たちのマジメさが伝わってきます。そこを評価しました。)
                           <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2003年6月10日(火)シネマサンシャインにて。午後3時30分の回。


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