ノイズ (ＴＨＥ ＡＳＴＲＯＮＡＵＴ'Ｓ ＷＩＦＥ)
(1999年 アメリカ)
監督・脚本：ランド・ラビッチ
出演：ジョニー・デップ、シャーリズ・セロン、ジョー・モートン、クレア・
デュバル
＜ストーリー＞
NASAの宇宙飛行士スペンサー・アマコストは、スペースシャトルに乗り込み宇
宙空間で船外活動中に、同僚のアレックスとともに爆発事故に遭遇。ヒュース
トンとシャトルとの交信は突然途絶え、2分間の空白が生じる。２人はどうにか
地球に帰還するが、スペンサーの妻ジリアンは、夫の変化を本能的に感じてし
まう。やがて、アレックスが変死。それに続いて彼の妻も「私の中に彼がいる
…」という言葉を残し、バスタブの中でラジオによって感電死。そんな中、ジ
リアンが双子を妊娠し、夫に対する疑念と恐怖感が次第にふくれあがっていく。
＜レビュー＞
最初に断っておきますが、主演はジョニー・デップじゃありません(笑)。
いや、一応クレジットではそうなっているけれど、ストーリー上はシャーリズ
・セロン演じるジリアンが主人公です。
ほら、原題も「宇宙飛行士の妻」でしょ？
というわけで、宇宙飛行士の妻の恐怖を描いたホラー・サスペンスです。
絵に描いたように円満な若い夫婦。
だが、夫が宇宙空間で謎の事故にあう。かろうじて帰還できたものの、妻は夫
の中に微妙な変化が起きていることに気づく……。
ウーン、前半はちょっと苦しいッス。(^。^;)
まあ、こういうサスペンスのお決まりのパターンなんだけど、謎だけをポンポ
ンと投げ出していくわけ。
でも、なんかちょっと物足りない。
ポイントになる宇宙での事故の様子も、初めはサラッと触れるだけ。
「おいしいものはあとで食べよう」っていう気持もわかるけど、あそこまで出
し惜しみしなくてもよかったんじゃない？
最大の問題点は、夫スペンサーに対する妻ジリアンの疑念がリアルに伝わって
こないこと。
たしかに急に転職を決めたりするスペンサーだけど、そんなに変わったってい
う感じでもない。ジリアンはいったいどこで、夫の変化を感じ取ったのだろう。
まさか、ヘンな人を演じたら世界一（？）のジョニー・デップの演技のせいだ
っていうんじゃないでしょうネ。(＾0＾)
愛があるから何となく感じ取ったっていうんじゃ、都合よすぎるしサ。
たとえば、嫌いだったセロリをおいしそうに食べたとか、エイリアンの映画ば
っかり観るようになったとか、そういう目に見える変化があればわかりやすい
んですけど……。
前半でいちばんおもしろかったのは、NASAの送別パーティーだ。巨大なテント
みたいなところで華々しくやるんだけど、出席者が「マイ・ウエイ」（といっ
ても、Ｆ・シナトラじゃなくてセックス・ピストルズのパンクバージョン）を
合唱する。これにはビックリしたゼ。なんで、こんなとこでセックス・ピスト
ルズなんだ？
それはともかく、そのパーティーで、一緒に事故にあった同僚が変死。続いて、
その妻も自宅で変死したことが、ジリアンの恐怖感を高めていく。
やがて、ニューヨークの会社に転職してロケット開発に従事するスペンサー。
その歓迎パーティーの最中（こっちはＮＡＳＡのバカ騒ぎと違ってお上品なパ
ーティーざます）、ジリアンが宇宙での空白の２分間について問い詰めると、
スペンサーはいきなり会場の片隅で立ったままエッチを始めちゃいました！
「おい、そんなとこでしてると見つかるぞ！」と忠告してあげたいところです
が、ジッとガマン。そうです、この時のエッチで例の双子ができちゃったんで
すね（たぶん）。
あ、これ、別にコメディー映画じゃないんで、誤解のないように。
ここからはホラーとして、なかなかおもしろくなります。ホント。
夫の態度に不安を感じたジリアンの前に、やがて元ＮＡＳＡの調査員リースが
現われる。彼は、あの宇宙空間での事故に疑問を持ち、独自に調査を進めて解
雇されていた。
自分がつきとめた空白の2分間の謎を知らせようとするリース。
だが、そこにスペンサーが登場し、彼を連れ去ってしまう……。
（リースさん、かわいそうに行方不明になって、最後まで消息がわかりません。
(;_;)シクシク）
リースが残したビデオテープによって、ジリアンは空白の２分間に記録されて
いた「ノイズ」の正体を知る（そうです。日本タイトル「ノイズ」ってこのこ
とです）。
彼女の恐怖は頂点に達し、衝撃の結末へと向かうのだ！
このあたりのジリアンの恐怖感の高まりは、けっこう迫力がある。
「自分のお腹の中の子は、もしかしたら夫の子供ではなくて、なにかエイリア
ンと関係があるのではないか」
精神的に追いつめられて、思い悩んでいく様子がとてもよく描かれている。
映像面でも、フラッシュバックを多用したり、夢の中のシーンを出したり、い
ろいろと工夫してなかなか見応えあり。テンポもいいからどんどんスクリーン
に引き込まれる。
ジョニー・デップならではの不気味な演技も、妻の恐怖感をますますリアルに
感じさせるゾ。
ただ、残念なのは、せっかくジリアンに「うつ病」の病歴があることを明かし
ながら、その使い方が中途半端なこと。
「夫にはエリイアンが入りこんでいる。お腹の子はエイリアンの子」
そんな彼女の恐怖に対して、「それはもしかしたら彼女の妄想に過ぎないので
はないか」と観客に思わせて混乱させれば、ラストに向かう緊迫感がもっと強
くなったように思う。
ところで、同じように、お腹の赤ちゃんが普通の子じゃないという恐怖におび
える妊婦を描いたホラー映画があります。それはなんでしょう？
そうです。ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年
アメリカ)です。ミア・ファローが鬼気迫る演技を見せていましたね。もっとも
あの時はエイリアンじゃなくて、悪魔の子供でしたけど。
そして、いよいよラストです。
でも、もちろんここでは詳しいことは内緒（ケチなんていわないでね）。
ただし、僕はココで笑っちゃいました。だって、ＳＦＸが『ゴーストバスター
ズ』みたいなんだもん。(＾0＾)
姿なきエイリアンの存在を表現するのが難しいのはわかるけどサ。もうちょっ
となんとかならなかったものだろうか。
だいたい、あの結末はあっけなさ過ぎるゾ。「あれあれ」って感じたものな。
別に意外な結末ってワケじゃないけど、最後のほうの展開があんまり急過ぎて
余韻が残らない。
みんな本編が終わったら、さっさと席を立っていました。
「終わった、終わった。マクドナルドの半額バーガーでも食べに行こ！」って
なもんか。
役者では、妻ジリアンを演じたシャーリズ・セロンが大熱演。キアヌ・リーヴ
ス、アル・パチ―ノの『ディアボロス』にも出演していましたが、今回の追い
つめられる妊婦の演技は、彼女の新境地になるかも。
（ただし、この人、シャーリーズとか、チャーリズとなっているケースもある。
いったいどれが正しいんだ？）
一方、ジョニー・デップは比較的抑えた演技ですが、それがかえってスゴミを
出している。
ちょっと彼の演技に頼りすぎて、演出が甘い印象も持ってしまいました。
でも、やっぱりこの人、『シザー・ハンズ』なんかのエキセントリックな演技
のほうが似合いますね。
まあ、今回も普通の人とはいえ、エイリアンに乗っ取られちゃったかもしれな
いわけですから。この際、ズバリ宇宙人になっちゃったほうが、彼の「変人キ
ャリア」に輝かしい１ページが加わったかも！？
結論です。
お腹の子におびえるという古典的な心理ホラーのパターンとＳＦをうまく組み
合わせた作品。
平均点はあげられるけど、宇宙を使ったわりにはスケールが小さい。
全編スクリーンに引きこまれっぱなし、とはいきませんでした。
《ぽちのおすすめ度》
★★★
（妊婦の方は見ないほうがいいですよ。エイリアンが生まれてきても知らない
から！）
＜ぽち＞