故郷の香り
（暖〜ヌアン(原題)）
（2003年 中国）（上映時間１時間49分）
監督：フォ・ジェンチー
出演：グオ・シャオドン、リー・ジア、香川照之
＊第16回東京国際映画祭コンペティション部門出品（グランプリ受賞）
＊2005年1月29日より、銀座テアトルシネマほかにて公開。
ホームページ http://www.furusatono.com/
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＜ストーリー＞
10年ぶりに故郷を訪れた青年は、そこでかつて恋人だった女性ヌアンと再会す
る。自分が都会の大学に行っている間に音信不通になった彼女は、７年前にろ
うあ者の男と結婚し、２人の間には６歳の娘がいた。彼女の家に遊びに行った
青年は、彼女との過去に思いをはせる……。
＜レビュー＞
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イヤになるぐらい見事な情感の描写。も〜〜、切な過ぎて涙ポロッ
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『山の郵便配達』（1999）が日本でヒットしたフォ・ジェンチー監督の新作映
画。中国を代表する作家モー・イエンの短編小説を映画化したそうです。
（なお、ジェンチー監督は、この作品の前に『ションヤンの酒家』という作品
があって、こちらは2004年初頭公開予定です。）
いやぁ〜、『山の郵便配達』もそうだったんですが、この監督ったら、登場人
物の情感のとらえ方が、信じられないぐらいうまいんですよ〜〜〜！！
なんなんでしょ。この才能。うらやましすぎるぜ。情感のカケラもとらえられ
ん、どっかのヘボ監督に見せてやりたい映画です。
都会の大学に進学して、そのまま都会で役人になっている青年が10年ぶりに帰
郷。そこには、別な町に嫁に行ったとばかり思っていたかつての恋人が、ろう
あ者の男と結婚して暮らしていた。久々に再会した２人の胸に複雑な思いが去
来する……。
最初に感心したのは、２人が再会するシーン。爽やか〜な青年と、まるで老婆
のようにボロボロのヌアンとの対比が印象的です。
描かれるのは、そこから１日ちょっとの出来事。
青年がヌアンの家に遊びに行って、ヌアンと夫、娘とともに食事をする。その
現在と過去とが同時並行的に描かれていく。どうってことのない話なんですけ
どね。
でも、“情感の魔術師”ジェンチー監督の手にかかると、このどうってことの
ない話が大変身。 (＾o＾)／
セリフじゃなくて、登場人物のしぐさや表情なんかで、彼らの胸の奥底のいろ
んな思いを漂わせていくんです。
再会した２人の複雑な気持。青年の後悔、罪悪感。ヌアンのとまどい、今も残
る青年への思い。そして、夫の嫉妬。そういう気持をジワジワと染み込ませる
ように描きます。
特に４人の食事シーンは圧巻。青年と夫が酒を飲み、それをヌアンと娘が見て
いる。それだけで４人の気持をリアルに表現しちゃうんですから。
過去のシーンもこれまた見事。
ヌアンが村に来た京劇の役者に惚れたときの、その感情の表し方。役者がただ
黙ってヌアンに京劇のメイクをする。それだけで、ヌアンの気持をすべて表現
しちゃうんですもん。
そして、２人の関係を知ったときの青年のツライ気持。たまらんですわ。わか
るよなぁ〜、好きな人が別の人を好きになるそのツラサ。 (~ヘ~;)
２人にとって重要な意味を持つブランコの使い方も効果的です。それがある意
味、２人の人生を大きく変えていくわけです。
やれやれ、青年、ヌアン、そしてその夫。登場人物の気持ちがグイグイと迫っ
てきて、たまりません。切なすぎます。思わず涙がウル。 (T^T)
だってさぁ、みんな経験があることじゃないですか。初恋って。それもたいて
い実らない恋だからねぇ。だから、よけいに共感しちゃうんですヨ。
『山の郵便配達』でもそうでしたが、美しい自然の描写もいいんです。田舎の
心洗われる風景が、物語に深い余韻を与えています。ろうあのヤバ役の香川照
之曰く「中国の大地のパワー」ってヤツが、スクリーンのこちら側にもしっか
りと伝わってきます。
ヌアン役のリー・ジアは、初めのボロボロの姿がどんどんキレイになるところ
が印象的。青年役のグオ・シャオドンも、明るさの中の陰をうまく出していた
と思う。
最初はなんでなの？ と思った香川照之の起用。たぶん日本資本が入っている
せいだと思うけれど、結果的には正解でしたね。本人も言っていたけれど、中
国語がわからないことで、ろうあの夫そのままの気持で演じることができたと
思う。最後の「妻と娘を連れて行ってくれ！」という叫びにはググッときてし
まいした。
ややナレーションが多すぎるのが気になったのですが、それ以外は文句の付け
ようがない映画でした。
ありがちな話で結末も予想がつく、それなのに全然飽きさせない。押し付けの
描写ではなく、さりげない描写で、観ている人の胸に強く訴えかけてくる。初
恋のせつなさや人生の皮肉なめぐり合わせを描いた秀作です！
はたして、ボクが初恋の人、もしくは好きだったのにサヨナラした人と再会し
たら、いったいどーなるのか？ 青春ってホロ苦いなぁ〜。な〜んてことを帰
り道で考えてしまったのでした。 (*^^*ゞ
《ぽちのオススメ度》
★★★★☆【絶対にオススメ！ みんな観てねぇ〜】
（うまい。ただただうまい。『山の郵便配達』を気に入った人なら、絶対に気
に入るはず。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2003年11月４日（火）オーチャードホールにて。午前11時50分。
（このレビューは東京国際映画祭にて上映時のものです。）