オアシス(OASIS)
| （2002年 韓国）（上映時間２時間12分） 監督・脚本：イ・チャンドン 出演：ソル・ギョング、ムン・ソリ、アン・ネサン、チュ・グィジョン、リ ュ・スンワン ＊ 2004年２月日本公開 ホームページ http://www.cqn.co.jp/oasis/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ ひき逃げによる過失致死で2年6ケ月の刑期を終えて出所したジョンドゥ（ソ ル・ギョング）。家族は彼を厄介者扱いした。ある日、被害者遺族を訪れたジ ョンドウは、重度の脳性麻痺のため手足が不自由で、言葉もうまく話せないコ ンジュ（ムン・ソリ）という女性と知り合う。兄夫婦が訪れる時以外はひとり ぼっちの彼女は、最初はジョンドウを警戒するが、やがて少しずつ心を開いて いく……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 さめた演出と鬼気迫る演技が切なさをかきたてる障害者と健常者のピュアな愛 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 健常者と障害を持つ人の恋愛というのは、犬童一心監督の『ジョゼと虎と魚た ち』（2003年）と共通するネタ。 とはいえ、こちらはコンジュという女性が脳性麻痺で手足が不自由、言葉もな かなかうまく話せないという過酷な境遇。 一方、ジョンドウという健常者の男も、何度も刑務所に入り、デタラメな生活 を送り、家族から厄介者扱いされている。 つまり、２人とも社会から阻害されたカップルなのです。 そんな２人が知り合って、やがて愛を深めていくようすを『ペパーミント・キ ャンディー』のイ・チャンドン監督が、さめた語り口で淡々と描いていきます。 その絶妙なタッチのおかげで、ただでさえ切ない愛がより切なく映し出されま す。 ２人の愛はとにかく不器用。 最初、ジョンドゥは彼女をどう愛せばいいかわからず、暴力的に犯そうとしま す。しかし、その後は実に優しく彼女に接します。 そんな彼に次第に好意を持つようになったコンジュの生活は、それまでの殻に 閉じこもった毎日から一変して、明るく開放的になっていきます。 こうして困難な生活の中、愛だけが２人にとって唯一のオアシスになっていく ワケ。 だけど、世の中そう甘いもんじゃありません。差別と偏見に満ち満ちた世界の 中で、２人の愛は激しい逆風にさらされます。 普通のカップルのようにデート中にレストランで食事しようとしたら、店から 追い出されてしまう２人。 さらに、ジョンドゥの服役にはある秘密があって、それが明るみに出ることを 危惧した兄弟が、母親の誕生パーティーにコンジュを連れて来たジョンドゥを 強く非難します。 そんな涙を誘うような悲しい出来事も、相変わらずさめたタッチで描写してい くイ・チャンドン監督。 ファンタスティックなシーンも間に織り込んでいます。コンジュが空想の中で 健常者になり、ごく普通のカップルとしてジョンドゥとデートする。そんな彼 女の胸の内を思うと、自然に切なさがこみ上げてきます。 やがて衝撃の出来事が起きます。ある夜、コンジュは帰ろうとするジョンドゥ を引き止め、２人は愛し合います。 知り合ったばかりの頃と違って、ジョンドゥは優しくコンジュを気遣いながら 抱き合うのです。 しかし、次の瞬間、悲劇が起きます。周囲の無理解がとんでもない事件を起こ してしまうのです。そして、愛し合いながら引き裂かれる２人……。 というところで、悲劇のまま終わるのかと思ったのですが、その後は意外な展 開。 ジョンドゥが木を切る行為と「オアシス」の絵のエピソードをつなげたユニー クなシーン。そして、悲劇のままで終わらせず、将来に向かって余韻を残した ラストも印象的。 いったいあの後２人はどうなるのか。観客それぞれに判断をゆだねた深みのあ る終わり方。 まあ、コンジュの明るい顔を見ていると、前向きに進んでいくと信じたいとこ ろですけどね。 この映画は、2002年ヴェネチア国際映画祭で監督賞と新人賞（ムン・ソリ）を 受賞しました。なるほど、障害者を自然に演じたムン・ソリの体当たりの演技 は、文句のつけようがないほど素晴らしい。 相手役のソル・ギョングの演技も存在感があります。 痛ましくもピュアなラブ・ストーリー。考えてみたら、障害があるほど愛は燃 えるわけで、こういう愛がラブ・ストーリーとして感動を呼ぶのは当然かも。 それでも、期待に違わず、いや、それ以上に感動させてくれるのだから見事。 ストレートに盛り上げることをせずに、一歩引いた視点から描いたイ・チャン ドン監督の演出と、ムン・ソリの鬼気迫る演技が成功のカギだと思います。 『世界の中心で、愛をさけぶ』や『いま、会いにゆきます』といった、スト レートすぎる感動物語にイマイチついていけないボクにとっては、こっちのほ うが何倍も何十倍も胸にググッと迫るものがありました。 （ぽち） 《ぽちのオススメ度》 ★★★★☆ （ピュアな愛が胸にしみる。被写体に近づき過ぎない演出も好感が持てます。） ＊2005年６月ＤＶＤにて鑑賞 |