ペイ・フォワード／可能の王国(PAY IT FORWARD)
（2000年 アメリカ）（上映時間２時間３分）
監督：ミミ・レダー
出演：ケビン・スペイシー、ヘレン・ハント、ハーレイ・ジョエル・オスメント、
ジェイ・モアー、ジェイムズ・カビーゼル
＜ストーリー＞
中学校の社会科教師シモネット（ケビン・スペイシー）は、生徒たちに「自分
の手で世界を変える。それが君たちの課題だ」と話す。そこで、アル中の母ア
ーリーン（ヘレン・ハント）と暮らすトレバー少年（ハーレイ・ジョエル・オ
スメント）は、自分が受けた親切を３人の人に贈る「ペイ・フォワード」とい
うシステムを考え出すが……。
＜レビュー＞
ペイ・フォワード。先へ贈る……。
ある人が３人の人に何かいいことをしてあげる。するとその３人は、また次の
３人に何かいいことをしてあげる。そして、その３人がまた次の３人へ……。
ま、要するに「善意のネズミ講」、あるいは「逆・不幸の手紙」ってところで
しょうか。 (＾0＾)
なかなかユニークな発想ですねぇ〜。まさに逆転の発想。
社会科教師シモネットが、生徒たちに「世界を変える」という課題を与え、そ
の方法を問う。
で、トレバー少年は「ペイ・フォワード」を考え出して、その手始めにホーム
レスに愛の手を差し伸べる。
ところが、アル中のシングルマザーの母親がそれに激怒して……。
初めの方の、中学校の授業シーンがとってもいい。
「君たちはニュースを見ているか？ 世界のことを考えているか？ さあ、み
んなで世界を変えるんだ！」
そんな調子でシモネット先生が呼びかける。
「ケケケ……。なぁーに、青クサイこと言ってんだヨ〜」と言いたいところだ
けど、ケビン・スペイシーのバツグンの演技力のおかげで、それがけっしてお
説教クサくない。生徒たちの心の中にジワジワとしみ込んでいく。
「お？ なんかおもしろいこと言ってんじゃん。こういう先生が、ホントにい
たら楽しいのに」
観ている方もそんなふうに思ってしまうのだ。 (^-^)
ところが、その後の展開にはちょっとガッカリ。 (｀ヘ´)
だって、シモネット先生とトレバー少年のママのアーリーンとのラブ・ロマン
スが、延々と続くんだもん。
つまり、トレバー少年は、ペイ・フォワードのターゲットの１人として、シモ
ネット先生をセレクト。で、自分の母親と先生をくっつけようとするワケ。
おいおい、なんでそれが善意なんだ？ 自分が寂しくてやってるだけじゃない
のか？ そういうのを善意の押し売りっていうんだゾ！
おまけに、先生とアーリーンがどうして相手を好きになるのかよくわからん。
(・_・")？
最初はケンカしてたんだから、ひとめボレってワケでもないだろうしサ。
そのへんは、完璧にスッ飛ばしちゃってる感じ。
ケビンとヘレンの貫禄十分の演技のおかげで、雰囲気はそれなりに漂っている
ものの、やっぱり、もうちょっとていねいに描いてくれないと……。
だいたい、わからないといえば、トレバー少年がペイ・フォワードを考え出す
動機も説得力不足だよ〜。自分で「この世の中がクソッたれだから！」って説
明するんだけどサ……。
母がアル中、父親は暴力オヤジで家出、まわりにはイジメられっ子やホームレ
スがウジャウジャ……。なるほど、そりゃあ大変でしょう。
でもねぇ、そういうのがセリフで説明されてるだけだったりして、リアリティ
があんまりないんだよね。もっと納得できるように描いてくれないと、彼のむ
なしさや嘆きが伝わってこないゾー！！
そんな物語も、後半になるとだいぶ動いてくる。
家出したトレバー少年の父が帰ってくることになり、それがきっかけでシモネ
ット先生の過去の秘密が明らかになる……。
ここでは父親役のジョン・ボン・ジョヴィがいい味出してますが、ロック・ス
ター＝アル中の暴力夫って図式はどうなんでしょう？ だいたいあの人、極悪
非道が勢ぞろいのロック・スターの中じゃ、珍しく善人キャラで売ってるわけ
ですからねぇ〜。 (＾。^/)
ま、それはともかく、後半もあんまりパッとしません。
いかにも、ありがちなパターンって感じ。
ペイ・フォワードの話は背景として描かれているだけで、ちゃんと本筋に絡ん
でこないんですよ。
いきなり「ロスをはじめ全米に広まり……」なんて話が出ても、「おいおい、
いつの間にそんなことになっとったんじゃ？」って思っちゃいますもん。
ただ、ラストは、いいですねぇ。
いかにもハリウッド流の終わり方にしなかったことで、それまでリアリティに
欠けていた話がグッと現実味を帯びてくる。
「世の中を変えるために、みんなでいいことをしょうぜ〜」なんて、お気楽な
ことだけじゃなくて、その難しさもちゃんと示したのは正解だと思う。
とまあアレコレ文句を言っちゃいましたけど、コレ、良い映画だと思います。
（今まで言ってきたことと全然違うじゃないかぁ〜！！）
いえいえ、確かに脚本や演出に欠点はたくさんあるけれど、製作者たちの姿勢
が素晴らしい！！
「クソッたれの世の中でも、あきらめちゃダメだ。少しでもいい方向に世の中
を変えようじゃないか！」
いまどき、これだけの強いメッセージを商業映画の中に持ち込むなんて、はっ
きり言って無謀ですヨ。
「どうせ世の中なんて変わんないよ」
そんなシラケた風潮に押し流されて、大コケする可能性もあるわけだから。
アル中、シングルマザー、ドラッグ、ホームレス、家庭内暴力。そういうアメ
リカが抱える負の部分も、それなりに入れ込んでいたしね。
その勇気には、大きな大きな二重丸をあげちゃいま〜す。◎
(^-^)//""パチパチ
それに、俳優たちの演技だけでも観る価値アリ。
特にオスメントくんは、『シックス・センス』よりさらにウマくなってる。こ
りゃあ、「えなりかずき」ともども将来が怖い！？（スイマセン。また、急に
スケールが小さくなって。今週は頭の目盛りが狂ってるんです。）
《ぽちのオススメ度》
★★★
（『ディープ・インパクト』やテレビの『ＥＲ』シリーズでおなじみのミミ・
レダー監督が、まさかこんな映画をつくるとは……）
＜ぽち＞