リチャード・ニクソン暗殺を企てた男(ASSASINATION OF RICHARD NIXON)
| （2004年 アメリカ）（上映時間１時間47分） 監督・脚本：ニルス・ミュラー 出演：ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ドン・チードル、ジャック・トンプ ソン ＊ テアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマほかにて全国公開 ホームページ http://www.wisepolicy.com/the_assassination_of_richard_nixon/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 1974年、サム・ビック（ショーン・ペン）という男が、ホワイトハウスに突入 してニクソン大統領を暗殺するため、旅客機を乗っ取る事件が起きる。事務用 家具のセールスマンをしていた彼は、正直過ぎて売り上げが伸びず、上司にハ ッパをかけられていた。同時に、別居中の妻子との関係もうまくいかず、憔悴 していく……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ショーン・ペン渾身の演技で描くある男の転落の悲劇。胸が苦しい…… 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 うーむ、この息苦しさは何なのだろう。観ていて、主人公の気持ちがヒシヒシ と伝わってきて、胸が押しつぶされるような感じがしたのだ。 (−。−；) 早い話が暗殺者の実録モノです。 1974年に、飛行機をハイジャックして、ニクソン大統領を暗殺しようとした男 がいて、その男がどうして犯行を決断するに至ったかを明らかにしていきます。 彼が敬愛する音楽家のレナード・バーンスタインに宛てた録音テープというス タイルをとりつつ、セールスマンとして成功しようとするものの、上司の言動 についていけず徐々に落伍していくようすが描かれます。 同時に、別居中の妻子に相手にされず、ストーカーのような行為までして嫌わ れる姿が描かれます。 さらに、友人とビジネスを始めるべく、最後の望みをかけた融資話の行く末も ……。 要するに、この人、小心者で、生きるのがド下手。暗殺者というイメージとは 裏腹に、何とも情けない人物なのです。 普通ならこんな人物に感情移入しろというのが無理な話。 ┐(￣ヘ￣）┌ おまけに、主人公を追い詰める会社の上司や、別居中の妻などをヒドイ人間と して描いていないからなおのこと。 たとえば、上司は口うるさくてアレコレと干渉する嫌なヤツ。売上げアップの ために客をだますのなんて平気。だけど、そんなヤツはどこにでもいるわけで、 イチイチ反発していたら、この世の中で生きていけないよねぇ〜。 別居中の妻にしたって、すでに心が離れているから冷たくするわけで、無理に 復縁しようとする主人公のほうがムチャというもの。 つまり、考えようによっては、主人公はただの大バカモノにしか見えないのだ。 しかし、それでもけっしてシラケないのは、主人公もまたどこにでもいる普通 の人間として描いているから。 彼の望みは、仕事での成功であり、家族との幸せであり、世の中の正義。それ は誰もが持つ願いであり、特にアメリカ人ならアメリカン・ドリームとして賞 賛されるはず。 そんな普通の人間が、周囲との摩擦の中で神経をすり減らし、ついにブチギレ て、とんでもない行為に及ぶ。そのリアルさがこの映画の真骨頂なのです。 ＼(＾▽＾)／ しかも、演じているのがショーン・ペンですからねぇ〜。 迫真の演技は見事としか言いようがありません。時には大げさすぎる彼の演技 だけど、こういう役はピッタリで鼻につきません。最初はただの不器用な男だ ったのが、少しずつキレていく演技は絶品。おお、コワ〜〜〜〜！！ そんな主人公の心理を象徴するような暗めで、不安定な映像も印象的。ウォー ターゲート事件をはじめ、当時の世相を簡潔に見せて、どうして主人公がニク ソンをターゲットにしていったかを示すところも納得の演出。 妻役のナオミ・ワッツ、友人役のドン・チードル、上司役のジャック・トンプ ソンも好演しています。 ラストに行くにしたがって、緊迫感と息苦しさが頂点に達していきます。生き 方が不器用なだけの男が、あんなふうになってしまうコワサがヒシヒシと伝わ ってきます。 アメリカン・ドリームが賞賛される陰で、主人公のような多くの敗北者が生ま れ、どんどん落ちていく。そんなアメリカの闇を感じてしまいました。 これは1970年代の話ですが、現在のアメリカにも通じる話でしょう。いや、ア メリカに限らず、世界中どこの国でも……。そういう恐ろしさを実感させる映 画でした。 この映画の製作には、アルフォンソ・キュアロン監督（『天国の口、終りの楽 園。』）、アレクサンダー・ペイン監督（『サイドウェイ』）、そしてあのレ オナルド・ディカプリオまでが名前を連ねています。そうした面々が関わりた くなるのが、よーくわかるヘビー級の存在感を持つ映画でした。 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆（＋1／2★） （けっして楽しい映画ではありません。観ているうちに息苦しくて、イライラ してきます。しかし、見応えはタップリ。特にショーン・ペンの演技は必見で す。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年６月11日（土）ワーナー・マイカルシネマズ板橋にて。午後５時15分の回。 |