三文役者
(2000年 日本)(上映時間２時間６分)
監督：新藤兼人
出演：竹中直人、荻野目慶子、吉田日出子、乙羽信子
＜ストーリー＞
「三文役者」を自称して、どんな仕事も引き受ける「タイちゃん」こと俳優・
殿山泰司（竹中直人）。ある日、まだ少女のキミエ（荻野目慶子）と知り合い
結婚を申し込む。だが、彼にはすでにアサ子（吉田日出子）という内縁の妻が
いた。アサ子に別れてくれるように頼むタイちゃんだったが、断られたばかり
か籍まで入れられてしまう。２人の女性の間をただウロウロするタイちゃんだ
ったが……。
＜レビュー＞
デタラメで、どうしようもないヤツなんだけど、どこか憎めない。
いくら迷惑をかけられても、冷たく突き放すことができない。
そんな人がいるものだ。
この映画の主人公、「タイちゃん」こと俳優・殿山泰司はまさにそんな人。
鎌倉の本妻がいるのに、若い女に手を出して"結婚"する。
２人の間をウロウロしながら、また別の女にも手を出す。
お酒に溺れ、撮影中の現場から蒸発する。
オイオイ、いい加減にしなさい！！ (゜゜;)＼(--;)
って感じで、とにかく困った人。
それなのに、どういうわけかみんなに愛されて、死ぬ直前まで俳優としての仕
事を続けることができたんだよネ。
彼のことを知らない人も多いだろうけど、あのスキンヘッドと、ちょっと不気
味な感じの笑顔を見れば、「ああ、あの人！」って思うはず。
映画やテレビで、脇役として強烈な個性を発揮していたタイちゃんの人生は、
まるで映画のように波乱万丈で、底抜けにおかしい。
それをそのままスクリーンの中に閉じ込めたんだから、そりゃあ楽しいのは当
然でしょう。 （⌒^⌒）
おまけに、それを演じているのは怪優（？）竹中直人。
これがホントにそっくりなんだなぁ〜。
しゃべり方といい、しぐさといい、本人の魂が乗り移ったような演技。
その昔、俳優として売れる前に、ブルース・リーや松田優作のモノマネで活躍
していた頃の彼を思い出しちゃいましたヨ。
役になりきるのは俳優にとって当たり前のことだろうけど、ここまでなりきれ
てしまうのはスゴイ！ その才能に改めて驚かされました。
この映画は、タイちゃんが"赤坂の側近"キミエと出会ってから死ぬまでを描い
た一種の伝記映画。
ドラマ部分を中心に、彼が出演した昔の作品や、映画での共演が多かった乙羽
信子の証言を織り交ぜながら構成されている。
ビックリしたのは、死んでからだいぶ経っている乙羽信子が、映画の流れにピ
ッタリ合うような形で証言していること。それだけ前から、製作の準備を進め
ていたんだろう。そういう意味でも、新藤兼人監督はじめスタッフのタイちゃ
んへの思い入れが感じられる映画だ。
実は、はっきり言って、僕は最近の新藤監督の作品は？？？
「巨匠も衰えたなぁ〜」って感じだった。なんたって今年で88歳だからねぇ。
評価の高かった『午後の遺言状』（1195年）にしても、どこがいいのか全然わ
からなかった。セリフがつまらないし、映像だって魅力ナシ。
この映画に出てくる『裸の島』（1960年）のような昔の作品を見ると、ますま
すそんな思いが強くなる。
「昔はいい映画をたくさんつくったのにねぇ〜」
だけど、この作品はバツグンにおもしろい。 (＾0＾)
最初から最後まで笑えて、そしてチョッピリ悲しい……。 (T^T)
それは、竹中直人というめったにない才能の持ち主が演じる、殿山泰司という
めったにないユニークな俳優のおかげ。
監督もそれをわかっていたんだろう。あまりよけいなことをしないで、比較的
淡々と彼の人生を描いている。そこは評価してもいいと思う。
それにしても、うらやましいよなぁ。タイちゃん。
あれだけのことをやって、それでもみんなに愛されてる。
僕もけっこうムチャなことしてますが、彼に比べれば足元にも及びません。
それで、みんなにも嫌われてるしサ……。 (＾0＾)
考えてみたら、タイちゃんって、その場その場で、自分に正直に生きているん
だよネ。けっして自分にウソはついていない。
そのおかげで、事態は泥沼になっていくけど、優しい人だからそこで非情にな
れない。はたから見れば優柔不断にも思える態度を続けるから、ますます収拾
がつかなくなってくる。
人間は誰でも、自分に正直に生きたいと願う気持ちがある。
でも、現実にはどこかで妥協しなくちゃ生きていけない。
そんな中で、タイちゃんみたいな奔放な生き方を見ると、自然にうらやましく
思えるのかもしれない。
だから、彼は誰からも愛されたんじゃないかな〜。
幸せな人デス。まったく。
竹中直人に引っ張られたのか、その他の役者もみんな輝いている。
"赤坂の側近"キミエ役の荻野目慶子はいつも通りの体当たりの熱演。「キミに
は、それしかないのかぁ〜」って気もするけど、ここまでくればリッパなもん
だろう。体当たりも、最近は威力満点のブチかましになってきた感じだゾ。
そして、"鎌倉の本妻"アサ子役の吉田日出子がまたいいんだワ。例のノホホン
って雰囲気でタイちゃんを自由に泳がせてるけど、肝心のところではガッチリ
手綱を引っ張る。その押し引きがとってもいい。
キミエとの"妻"同士の対決は、２人が直接顔を合わせないだけになおさら迫力
があります。
それ以外にも、超豪華な俳優たちが続々登場。みんな、ほんのワンシーン程度
の出演だけど、しっかり存在感を見せている。どんな人が出演しているかは、
自分の目で確かめてネ。（ケチッ！！）
スタッフや役者さんたちのタイちゃんへの愛を感じる映画です。
タイちゃんを知らない人でも楽しめますヨ。
《ぽちのオススメ度》
★★★+1／2★
（「三文役者」を自称してどんな仕事も引き受けたタイちゃん。「三文ライタ
ー」を自称してどんな仕事も引き受ける＜ぽち＞。そこだけは似てるけど、あ
のモテモテぶりはとてもマネできんなぁ〜。）
＜ぽち＞