世界(THE WORLD)
| （2004年 日本・フランス・中国）（上映時間２時間13分） 監督・脚本：ジャ・ジャンクー 出演：チャオ・タオ、チェン・タイシェン、ジン・ジュエ、チャン・チョンウ ェイ、シャン・ワン、リュウ・チュエン、ワン・ホンウェイ ＊銀座テアトルシネマ−ほかにて公開。順次全国公開 ホームページ http://www.bitters.co.jp/sekai/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 北京郊外にあるアミューズメント・パーク「世界公園」でダンサーとして働く タオ（チャオ・タオ）は、職場では同僚たちから慕われ、プライベートでは警 備主任として働くタイシェン（チェン・タイシェン）という恋人もいるものの、 将来に対する漠然とした不安を抱えている。やがてタイシェンとの関係にも影 が差し始め……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 不安を抱えながら生きていくダンサーの愛と焦燥 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ジャ・ジャンクー監督のデビュー作『一瞬の夢』を観たときにはブッ飛びまし た。経済発展を遂げる現在の中国で、身の置き所がない若者の姿をリアルに活 写した、実に鮮烈な映画でした。 Ｗ(゜Ｏ゜)Ｗ それ以降も『プラットホーム』『青い稲妻』と時代に翻弄される若者たちの姿 を描いてきたジャンクー監督。中国国内では上映が許可されないものの、各地 の映画祭で賞を取るなど国際的な評価はどんどん高まっていったのでした。 今回の新作も若者を時代とリンクさせて描く視点は同じ。 舞台となるのは、北京に実在する「世界公園」なるアミューズメントパーク。 これがビックリなんですよ。エッフェル塔やピラミッド、タージ・マハールや 五重塔といった世界の名所旧跡が10分の１程度に縮小されて再現。ちょうど日 本の東武ワールドスクエアをスケールアップした感じ（？）。こんなものが北 京にあるとは知りませんでしたねぇ〜。 ここでダンサーとして働くタオという女性が主人公。彼女と警備主任のタイシ ェンとの愛の物語を中心に、その周辺の人々の姿もあわせて描いていきます。 タオは、あでやかな衣装を身にまとって舞台に立ち、プライベートもそれなり に充実しているものの、将来に対して漠然とした不安を抱えています。そんな 中、彼女の昔の恋人の出現に嫉妬するタイシェン。だが、やがて彼のほうが年 上の女性に心を動かされ始めます。 こう書くと、ありきたりの男女のスレ違いのように聞こえますが、そこはジャ ンクー監督。細かな説明は一切ナシ。極端にそぎ落とされたセリフと淡々とし た描写、長まわしの映像などで、けっして感情に溺れず、冷徹にタオとタイシ ェンを描写していきます。まるでドキュメンタリーのように、彼らのリアルな 姿が見えてくるのです。 そうした視線は、周囲の人々に対しても貫かれています。より多くのお金を稼 ぐために転職する友人、意外な事件から恋人との結婚を決意する同僚、出稼ぎ にきたロシア人ダンサー、女を利用してキャリアアップを狙う後輩、地方から 建設現場で働くためにやってきた人々などなど。 それを通して、伝わってくるのは、五輪を前にして沸き立つ北京の街で焦燥を 感じている若者たちの姿。地方からやってきてそれなりの生活をしているもの の、この先どうなるんだろうという不安を持ち、さらにもっと広い場所で自由 に羽ばたきたいとは思うものの、今の場所から飛び立てない。そんなジリジリ した気持ちがリアルに伝わってきました。北京にいながらにして世界を旅でき る世界公園は、今の彼らにとっては皮肉な存在。本当に世界を旅したくても、 それは実際はかなわないことなのです。 （−△−）。。。 タオとタイシェンの恋はグラグラと揺れ動き、意外な方向へと進んでいきます。 年中ケンカしている同僚カップルと、タオとタイシェンのカップルの対比が見 事。 ラストは唐突にも思える衝撃的なもの。ジャンクー作品を見慣れているボクに はそれほど驚きはなかったけれど、初めて観る人はとまどうかもしれません。 しかし、やっぱりあの結末以外には考えられない妥当なものだと思います。 説明的要素がないし、途中まではさして大きな事件も起きないジャンクー映画。 けっして観客に親切な映画ではありません。しかし、今回はユニークなアミ ューズメントパークが舞台ということで、華やかだったり、美しかったりする シーンが多いので、過去の作品よりは親しみやすいのでは？ ところどころでアニメを挟み込む構成も、全体のアクセントになって効果的。 主演のチャオ・タオはジャンクー作品の常連。最初はあんまり魅力を感じてい なかったものの、観なれてくるとなかなかのもの。一風変わった存在感を発揮 しています。 若者の姿をリアルに描くジャンクー監督の描写力は相変わらず見事。細かなと ころで進化も見られるだけに、一見の価値はある映画だと思います。 なお、この映画はジャンクー作品として初めて中国で上映が可能になったそう です。中国の映画文化も進歩したのかしら……。 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆（＋1／2★） （ハリウッド的な喜怒哀楽をはっきりさせた映画ではないので、誰にでもオス スメできるわけではありませんが、若者のリアルな姿、そして今の中国を知る 意味では必見の映画。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年11月１日（火）銀座テアトルシネマにて。午後１時の回 |