至福のとき(幸福時光)
（2002年 中国）（上映時間１時間37分）
監督：チャン・イーモウ
出演：ドン・ジエ、チャオ・ベンシャン、フー・ピアオ、リー・シュエチエン
、ニウ・ベン
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＜ストーリー＞
自分は旅館の社長だとウソをついた中年男チャオ（チャオ・ベンシャン）は、
見合い相手の義理の娘ウー（ドン・ジエ）を押し付けられる。本当は失業中の
彼は、マッサージが得意なウーのためにニセの按摩室を用意して友人たちに客
を装わせるのだが……。
＜レビュー＞
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典型的な人情喜劇。チャン・イーモウ作品でなければそれなりに満足だが
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かつては『黄色い大地』『紅いコーリャン』、最近では『初恋のきた道』『あ
の子を探して』などでおなじみの中国の名匠チャン・イーモウ監督の最新作。
ただねぇ、チャン・イーモウの映画だと思って観ると、ガックシきちゃうかも
しれません。
失業中の中年男チャオはホラ吹きだが、お人好しで根っからの善人。彼はとに
かく結婚したい一心で見合い相手に、「自分は旅館の社長だ」とウソをつく。
相手の女性は２度結婚に失敗し、実の息子の他に、前夫の連れ子の義理の娘ウ
ーがいる。彼女は病気で盲目になっていた。チャオが社長だと聞いた彼女は、
「それなら旅館で働かせてくれ」とウーを押し付ける……。
もうチャオさんったら、ホントいい人なんだからぁ〜。一生懸命見合い相手に
気に入られようとして、いい年をして右往左往する姿がとってもおかしい。お
まけに、シタタカな見合い相手にスッカリ手玉に取られて、盲目の少女を押し
付けられてしまいます。
いくら自分のウソが招いたこととはいえ、普通はテキトーにあしらっとくでし
ょう。なんたって自分は失業中なんだからサ。
でも、善人のチャオさんはそんなことは絶対にしません。少女の心を傷つけま
いと、休業中の工場にニセの按摩室をつくってそこで働いてもらいます。
それに協力するのが太目のフーおじさん（ちょっと伊集院光似！？）をはじめ
とするチャオさんの同僚たち。この人たちもみんな根っからの善人なんです。
チャオさんに協力して按摩室を作ってあげただけでなく、ニセのお客として毎
日そこに通います。彼らが少女に渡す心付けはチャオさんが渡していたんです
が、さすがにすぐにお金がなくなり、みんなで出し合う相談までします。
いないよなぁ〜。これだけ親切な人たちは。天然記念物もんだゾ！(＊^。^＊)
というわけで、はっきり言って、現実感ゼロの絵空事の人情話。それでも、観
ていてそんなにシラケないのはさすがというところ。
なにしろチャオさんと仲間たちの演技が、なんともいい感じで自然に笑えるん
ですよね。けっこうオバカっぽいシーンもあって、特にチャオさんと仲間が金
を稼ごうとして、廃車のバスの内部をピンクに塗りたくって若いカップルに使
わせようとするところなんか爆笑もの。 (＾0＾)
それに、盲目の少女役のドン・ジエが素晴らしいんです！ 『初恋のきた道』
でいまやハリウッドにも進出したチャン・ツィイーを発掘したイーモウ監督だ
けに、今回の彼女もキラキラ耀く素質を持っています。心を閉ざしている時の
表情と、心を開いた時の笑顔の落差がとってもいい。盲目の演技も、実際に目
の不自由な人と暮らして学んだというだけに、実に自然です。
ラストは感動のシーンが用意されています。それまでとは一転してかなりシビ
アな現実が突きつけられる。ウーに対するチャオさんの思いやりと、彼に対す
るウーの感謝の気持が交差して観客の涙を誘います。 (T^T)
要するに、楽しく笑ってホロッとできる人情喜劇なんですね。その点では、な
かなか良くてきた映画だと思います。
ただねぇ、チャン・イーモウ監督の映画だから、どうしてもそれ以上のものを
期待しちゃうんですよね。その点では物足りないなぁ〜。なんか薄っぺらな感
じなの。
まず、映像はそこそこきれいだけど、これまでの芸術的なまでの色彩感覚は感
じられない。
それにドラマ的にも深いものがない。チャオさんが最初からいい人なので、先
が見えちゃうんですよね。登場人物が最初から最後まで変化しないからつまら
ない。心にググッと迫るものがないんです。 (´ヘ｀;)
おまけに、失業問題も背景としてチョコッと出てくるものの、社会問題をクッ
キリ描き出すところまでは行かず。これまでの映画だと、都市と農村の落差や
抑圧された人々といった社会的な問題がしっかり描き出されて、そのおかげで
ドラマに厚みが出ていたんですが、今回はそれがありません。これもまた全体
を薄っぺらな感じにしちゃっている原因だと思います。
そういうわけで、どうやらチャン・イーモウ監督のファンからはあんまり評判
が良くないようです。特に昔からのファンにとっては、「らしさ」がないのが
ガマンならないみたい。
でも、まあ、フツーの人情喜劇として観れば、なかなかのもんだと思いますヨ
。何もファンのためだけに映画を作る必要なんてないんだしさ。
チャン・イーモウ監督の作品だというのを忘れて気楽に観ましょう。そうすれ
ば、楽しく笑えて、ホロッとできるはず。ホントに良いお話なのは間違いない
ですから。
《ぽちのオススメ度》
★★☆☆☆（+1／2★）
（チャン・イーモウ監督の映画だけにあえて厳しめに採点しましたが、人情喜
劇としての水準は十分にクリアしているのではないでしょうか。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2002年11月12日（火）ル・シネマにて。午後12時45分の回。