深呼吸の必要
（2004年 日本）（上映時間２時間３分）
監督：篠原哲雄
出演：香里奈、谷原章介、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、長澤まさみ、
大森南朋、北村三郎、吉田妙子
＊東劇ほか松竹系にて全国公開
ホームページ http://shinkokyu.jp/pc/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
沖縄の離島に「きび刈り隊」募集に応募した５人の若者がやってくる。ふだん
は派遣社員として東京で働いているひなみ（香里奈）をはじめ個性的な面々は
、寝食をともにし、さとうきび刈りに励む。畑にある７万本のさとうきびを35
日で刈り取らなければいけないのだった……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
沖縄のノンビリした空気を生かした控えめな演出が印象的な青春映画
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「きび刈り隊」なんて知りませんでした。八重山列島の波照間島，西表島など
で実際に行われている、サトウキビ収穫時のアルバイトだそうです。
そのきび刈り隊に応募して、本州からやってきた若い男女が、初めて体験する
キビ刈りに悪戦苦闘しつつ、35日間で７万本というノルマ（それを過ぎると製
糖工場が閉まってアウト！）を達成するべく汗を流すという話。
まず印象的なのが、控えめな演出です。青春映画なので、グラグラと熱い血潮
をたぎらせるような熱気あふれる演出をするかと思いきや、過剰なことを一切
せずに、沖縄のノンビリした空気や穏やかな日常生活の流れに身を任せたよう
な、自然体の姿勢で映像を焼き付けていく。そんな篠原哲雄監督の演出に、と
ても好感が持てました。 (*^。^*)
サトウキビ刈りという設定も素晴らしいですよね。広い畑の膨大な数のサトウ
キビが、少しずつ刈られていくようすと、若者たちの成長とをうま〜くリンク
させているんです。
さすがに映画なので、少しは劇的なことも起きるけれど、基本はごくありふれ
た毎日の積み重ね。それを丹念に描写していくことで、若者たちがどう変わっ
ていったかが自然に伝わってきます。
ま、このテの映画でありがちなように、集ってくる若者たちには、何かしら背
負ったものがあるようなんですね。実際に、野球に挫折した元甲子園球児とか
、医者の仕事に疲れた男とか、過去が明らかになる若者もいます。
でもねぇ、全員に心の傷を背負わせて、それを安易に解決させたりはしないん
です。なんたって、主人公でふだんは派遣社員として働いているひなみ、ブラ
ンド品で派手に着飾った悦子という女性陣２人は、どうしてここに来たのかさ
え明確にされないんですから。もう１人の女性である女子高生の加奈子にして
も、リストカットの跡をチラッと見せる程度で、泣き叫んで心の傷を披露させ
るようなことはしません。
そういうありがちな展開を避けて、等身大の若者たちをそのまま描いているの
で、けっしてウソくさく感じたり、感動の押し売りに悩まされることはありま
せん。
若い男女が集まって、とくれば恋愛話も定番なワケですが、それさえ封印して
しまっているんです。
ある意味、ドキュメンタリー的ともいえるこのタッチが、見事に成功していま
す。最初はギクシャクしていた若者たちが、サトウキビの収穫とともに打ち解
けて、前向きに生きていこうとする。その流れがとても自然なのですヨ。
(*^。^*)
香里奈、谷原章介、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、長澤まさみといった
若い俳優たちの自然な演技も心にしみます。そういえば長澤まさみチャンは『
世界の中心で、愛をさけぶ』でもみずみずしい演技を披露してましたね。
先輩格の大森南朋も含めて、役者たち自身も映画とともに成長している感じが
しました。
そして彼らの支柱になっていたのが、おじぃ役の北村三郎、おばぁ役の吉田妙
子。沖縄のおじぃ、おばぁって、みんなあんなふうなの？ おおらかで、温か
で、絶対に怒らない。いつも「なんとかなるさ」（もちろん沖縄言葉ですが）
と笑っている。いいよなぁ〜。
ラストは長くもなく短くもなく、ピシッと収穫を表現して、余韻まで残す。実
に温かな結末でした。
ま、都合良すぎのところ（大ケガ→看護婦＋医者がいた！ とか）や、パター
ン的なキャラなどにやや不満は残るんですけどね。
それでも、観ているうちに、そんなに気にならなくなってきます。
のんびりした空気の中で、サトウキビ刈りと若者たちの成長を見事にリンクさ
せて描いた青春映画の秀作です。温かで前向きな気持になりたい方にはピッタ
リ。 (^。^;)
別にわざとらしいドラマや、ヘンに凝った演出をしなくても、これだけ心にし
みる映画がつくれるのです。それを証明したような映画でした。
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（+1／2★）【かなりオススメ。観たほうがいいんじゃない？】
（篠原監督の映画手法が好きなので、ちょっと高めの点数です。さわやかな風
が通り過ぎていくような映画。人生に深呼吸は絶対に必要なのですよ。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2004年６月１日（火）シネ・リーブル池袋にて。午後２時25分の回。