シッピング・ニュース(THE SHIPPING NEWS)
（2001年 アメリカ）（上映時間１時間52分）
監督：ラッセ・ハルストレム
出演：ケヴィン・スペイシー、ジュリアン・ムーア、ジュディ・デンチ、ケイ
ト・ブランシェット、ビート・ポスルスウェイト、スコット・グレン、リス・エヴァンス
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
自分を捨てて男と逃げた妻（ケイト・ブランシェット）が事故死し、深く傷つ
いたクオイル（ケヴィン・スペイシー）。叔母アグニス（ジュディ・デンチ）
のあとをついて、幼い娘とともに一族の故郷ニューファンドランド島に移り住
み、地元新聞の記者になり船をめぐるコラムを書き始める。子連れの未亡人ウ
ェイヴィ（ジュリアン・ムーア）とも知り合い、少しずつ島の生活に慣れてい
くが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再生する人間をシミジミと描いたハルストレム監督お得意の世界
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
心に傷を負った人は、現実から目を背けたくなるもの。その傷が深ければ深い
ほど、どんどん現実から離れて自分の殻に閉じこもってしまうものです。
ボクもさぁ〜、心がボロボロでさぁ〜。（て、アンタのことなんか聞いてませ
ん！）
この映画の主人公クオイルも心に深い傷を負っています。 (>_<")
子供の頃に、父親から「泳ぎを覚えろ！」と池に突き落とされてからは、典型
的な負け犬人生。仕事を転々とし、今は新聞社のインク係をしている。
電撃的に出会った妻のペタルは、子供をほったらかして他の男と遊び歩く。だ
が、クオイルは現実を見ないで彼女の乱行にも目をつぶる。そのあげくに、ペ
タルは男と逃げ出し事故死してしまう。
失意のクオイルは娘バニーとともに、叔母アグニスに連れられてカナダ東岸沖
のニューファンドランド島へやってくる。そこは、祖先の地であり、過酷で厳
しい自然に包まれた土地。
地元の新聞社に就職した彼は、ひょんなことから新聞記者に採用され、やがて
船についてのコラムを書くようになる。
同時に、子連れの未亡人ウェイヴィに惹かれていくようになるのだが……。
「おいおい、またかよ〜！」と思わず叫んでしまいました。 (｀ヘ´)
挫折したり自分の殻に閉じこもった人が、少しずつ再生し自立していく。
これはもうラッセ・ハルストレム監督が得意とするパターン。ワンパターンに
は違いないんですけど、ここまでくるともう確立されたハルストレム・ワール
ドですからねぇ。まあ、そこは勘弁してあげますか。 (＾。^/)
ピューリッツァー賞受賞の小説を映画化したこの作品でも、これまで同様に温
かな語り口で再生の物語をつむぎ出します。
クオイルの再生の原動力になるのは、新聞記者としての活躍。それまでのイン
ク係から一転、小さな地元紙とはいえコラムニストとしてメキメキ腕を上げ、
自信を持ち始める。
同時に、子連れの未亡人ウェイヴィとのロマンスもまた、彼を少しずつ変えて
いく。 (* ^)(*^-^*)ゞ
だけど、それだけではありません。同時に、島における先祖のおぞましい過去
、若かりし頃のアグニスに起きた衝撃の出来事、そしてウェイヴィが隠すある
秘密。そういった様々なエピソードを通じて、クオイルの再生までの道のりを
丹念に描いています。登場人物の心の中を深〜く洞察することで、静かな感動
を呼び起こしてくれるんですねぇ〜。その細やかな筆致が実にお見事！
温かな雰囲気もいつも通りです。なんとなくおとぎ話みたいなんですよね。ハ
ルストレム監督の語り口って。
だから、少しぐらいムチャな話でも気にならないんです。今回も、途中で幽霊
話なんかが飛び出すけれど、そんなに浮いた感じはしません。
おまけに、今回はニューファンドランド島の荒々しい大自然が力強く描かれま
す。これがまたスッゴク効果的。
一種の閉塞された空間で、しかもまるで神話の中の世界のような場所。そこに
舞台を持ってくることで、クオイルが自分と向き合い始める様子がより説得力
を持って見られるようになっています。 (^-^)
クオイル役はケヴィン・スペイシー。屈折しまくりの役がハマリすぎ。さすが
オスカー俳優！ ただし、最初のオーバーアクション気味の屈折ぶりが、いつ
のまにか理由もナシに消えてしまったのはなぜ？ そこはちょっと不自然。
それよりも脇役ですよぉ〜。アグニス役のジュディ・デンチはさすがに貫録の
演技。ほとんどスッピンで田舎の純朴な主婦を演じたウェイヴィ役のジュリア
ン・ムーアも熱演でした。ケイト・ブランシェットの不良妻ぶりも楽しい。な
んでしょう、あのケバい顔は。ホラー映画じゃないっつうの。 (＾0＾)
そんな中、個人的にいちばん気になったのが、リス・エヴァンス。「ヒューマ
ンネイチュア」でサル人間を演じてた彼です。なんと今回はフツーの人間。い
やぁ〜、映画の最中いつサルに変身するかと、そればっかり気になっちゃいま
したよぉ〜。 ♪ d(⌒o⌒)b♪
この映画の欠点といえば、「うわ〜ん、感動したヨ〜」てな泣かせどころがな
いところでしょうか。（それってわざとハズシているんだと思うけど……）
物語にそれほど起伏がないし、同じタッチが延々と続くから、ドラマとしての
おもしろさはイマイチですね。『サイダーハウス・ルール』や『ショコラ』と
いった過去の作品の方が、物語としての魅力は上回っていたかもしれません。
どっかでもっとハジケて、胸にグリグリ迫ってくるところが一ヵ所ぐらいあっ
てもよかった気がします。 (｀ヘ´)
それでも、ハルストレム監督らしさは十分に伝わってきました。
１人の男の再生の物語を通じて、シミジミ〜とした感動が伝わってくる秀作。
う〜ん、このホンワカしたポジティブさがたまらんですなぁ〜。
でも、劇的感動を期待しちゃうと裏切られますゾ。あくまでもシミジミ〜な感
動なので、そこんとこは間違わないでね！ (＾o＾)／
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（＋1／2★）
（「泣ける」ことを、感動の基準にしている人には物足りないものがあるかも
ね。僕はそうでもないんで、入場料分ぐらいは満足できましたけど。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2002年３月26日（火）池袋シネマ・ロサにて。午前11時30分の回。