趣味の問題 (ＵＮＥ ＡＦＦＡＩＲＥ ＤＥ ＧＯＵＴ)
(2000年 フランス)(上映時間１時間30分)
監督：ベルナール・ラップ
出演：ベルナール・ジロドー、ジャン＝ピエール・ロリ、フロランス・トマサ
ン、アルチュス・ド・バンゲルン、シャルル・ベルリング
＜ストーリー＞
レストランで働くニコラ（ジャン＝ピエール・ロリ）は、経済界の実力者フレ
デリック（ベルナール・ジロドー）から、美食家である彼の「試食係」になら
ないかと誘われる。多額の報酬に引かれてそれに応じたニコラだったが、次第
にフレデリックの奇妙な態度に混乱していく……。
＜レビュー＞
よくできた心理サスペンスだと思う。
現実にはありえない素材を扱っているのに、リアルな恐怖感が味わえる。
とても個性的で、独特の雰囲気を漂わせる映画だ。
美食家の大実業家フレデリックが、青年ニコラを試食係として雇う。
だが、彼の真の狙いは、ニコラを自分と同じ趣味を持つ人間に仕立て上げるこ
と。そのために、様々な策略を巡らす。
それを知って彼から離れようとするニコラ。だが気がついた時にはもう……。
自分と同じ趣味を持つクローンみたいな人間をつくろうとするなんて、お金持
ちの気まぐれだし、現実にはありえないこと。
でも、それは、実は人間の深い本質に根ざしている問題だと思う。
人間は基本的に自分が好きだ。
「どうせ私なんか……」
「僕ってイヤなやつ……」
そんな自己嫌悪を感じたとしても、根っこのところでは自分を愛している。
でなきゃ、こんなにやっかいな人生を切り抜けていく気になんかならないだろ
う。
そして、もう１つ、人間には不思議な特徴がある。
自分が愛する人と、自分をどうにかして融合しようとするのだ。
たとえば、相手の好きな音楽を聴くようになったり、スポーツを始めたりって
ことは、誰でも経験あるでしょう？
そうやって、生き方や趣味を合わせて、同じような人間になりたがるわけ。
もちろん、人間はひとりひとり違うわけだし、いくら愛する人でも完全に融合
することなんか不可能。それでも、どうしても「融合」への思いは断ち切れな
いんだよネ。
そんな人間の本質を見事についたのがこの映画だと思う。
実業家フレデリックは自分を愛している。自分以外の人間を愛せないといって
もいいかもしれない。だから、いつも孤独だ。
その孤独を癒し、自分への愛をさらに強めるためには、もう１人の自分がいれ
ばとても便利。そこで、ニコラという青年を見つけ出し、味覚を手始めにいろ
んな趣味を共有させようとする。
そして、ニコラが自分に似てくれば似てくるほど、彼に強い愛を感じるように
なる。
それは男と男の愛だから同性愛にとても近いけれど、やっぱりそこは微妙に違
う。自立した他人を愛するのではなく、自分の「分身」を愛しているわけだか
ら……。
分身を愛すれば愛するほど、フレデリックの心には「融合」への強い欲求が生
まれる。
ニコラにスカイダイビングをさせて、その感覚を共有しようとする。人を殴っ
た感触を説明させて、自分もその感触を想像する。
それどころか、ある女性を抱かせて「試食」させ、途中で自分がベッド・イン
する！
もうここまで行けば完全なビョーキ！！
ニコラもようやく彼の狂気に気づくけれど、今さらどうしようもないところま
で深みにハマっちゃってる。すでにニコラ自身も、フレデリックを他人とは思
えなくなっていたのだ。
そして、やがて悲劇が起きる……。
うーん、なんか今回はちょっと理屈っぽいレビューになっちゃいましたか？
(？_？)
まあ、でも観ている間は、そんなに難しいことを考えなくても楽しめるはず。
とにかく、２人の男の心理戦がおもしろい。
ニコラを自分の「分身」に仕立てようとして、アレコレと心理作戦を展開する
フレデリック。それに抵抗しながらも、ズルズルと引きずられて脱出できなく
なるニコラ。
これって、一種のマインドコントロール。コワイよなぁ。あんまり自分に自信
のない人なんか、あの迫力で迫られたら完璧にイッちゃうもん。
そういう恐怖がヒシヒシと伝わってくる映画です。
監督は、前作のテレンス・スタンプ主演『私家版』が話題になったベルナール
・ラップ。
今回は、フィリップ・バランが書いたミステリー小説を映画化。フランスコニ
ャック国際ミステリー映画祭に出品されて、ブライアン・デ・パルマ監督に激
賞されてグランプリを獲得したとか。確かに、デ・パルマが好きそうだよなぁ
。こういう心理戦って。
最初、フレデリックがニコラを雇う場面で、「もしかしたら自分の身代わりに
して殺しちゃうの？」「それとも事件の犯人にでも仕立て上げるの？」なんて
思ったんですヨ。
でも、実際はそういういかにもサスペンス風の展開にはならないし、大きな事
件も起きない。
それなのに、２人の男の心理戦だけで最後まで飽きさせない。その演出力は素
晴らしい！
俳優では、実業家フレデリック役のベルナール・ジロドーがいい。一見ただの
二枚目で、実はストイックかつ変態チックな男をうまく演じていた。
これに対して、青年ニコラ役のジャン＝ピエール・ロリはイマイチかな。追い
詰められていくジリジリした感じを、もうちょっと出して欲しかった。『ビバ
リーヒルズ青春白書』のルーク・ペリーっぽいハンサム君で、女のコには人気
が出そうだけどネ。
ただし、
けっしてスカッとしたり、な〜んも考えないで楽しめる映画じゃないんで、そ
ういうのが好きな人は観ないほうがいいですヨ。
《ぽちのオススメ度》
★★★
(フランスのサスペンスって、独特の余韻がある映画が多いなぁ。ハリウッドの
勧善懲悪みたいなのってあんまりないもんネ。)
＜ぽち＞