春夏秋冬そして春(SPRING, SUMMER, FALL, WINTER... AND SPRING)
| （2003年 韓国・ドイツ）（上映時間１時間42分） 監督・出演：キム・ギドク 出演：オ・ヨンス、キム・ジョンホ、ソ・ジェギョン、キム・ヨンミン、ハ・ ヨジン、キム・ジョンヨン、チ・デハン、チェ・ミン ＊ＤＶＤ発売・レンタル中（エスピーオー） ホームページ http://www.kimki-duk.jp/spring/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 深い山間の湖に浮かぶ小さな寺。幼子と彼を見守る老僧が２人で暮らしている。 無邪気な子供が成長し、少年から青年、中年そして壮年期へといたる波瀾に満 ちた人生が、水上の庵の美しい季節のなかで描かれる……。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 美しすぎる水上の寺を舞台に、人間の業をソフトに描いた作品 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 世界的に注目を集める韓国の映画監督キム・ギドクの作品。 といっても、ボクが観たのは『魚と寝る女』（2000年）のみ。桟橋の釣り場で 管理人をしながら夜は釣り客相手に娼婦をしている女と、浮気をした恋人を殺 してしまい自殺の場所を求めてさまよう男が出会い、破滅へと向かう姿を描い た官能的なドラマでした。 また、2001年の『悪い男』は、愛する想いをうまく表現できないヤクザと、そ の男の策略で娼婦にされてしまった女がたどる運命を描いたショッキングな映 画。 （￣□￣；）！！ こんなふうに、世の中や人生の暗い部分を激しいタッチで描いていくのが、こ の監督の特徴。なんたってアナタ、「キム・ギドクの映画は見る人を不快な気 分にさせる」な〜んて言われてるんですから。 ところが、この映画は一見すると、これまでとはまったく違う雰囲気です。 舞台は、山奥の湖の湖面に佇む小さな寺。そこで暮らす子供と和尚の運命を自 然の四季に重ね合わせて、詩情豊かに描いた作品。 春……山の中の湖に浮かぶ小さな寺で、幼子と和尚が静かに暮らしている。無 邪気な幼子は、いたずら心から小さな生き物に石をくくりつけていたぶる。和 尚はそれをとがめ、懲らしめる。 夏……幼子は17歳に成長し、寺に養生にやってきた少女に恋をする。やがて少 女は去っていき、青年もそれを追って出て行く。 秋……寺を出奔した男が十数年ぶりに、妻を殺した殺人犯として帰って来る。 男は仏像の前で死のうとするが、和尚は般若心経を彫ることによって、怒りを 静めるように諭す。 冬……刑務所を出所し、すっかり廃墟となった寺を再訪する男。そこに老僧の 姿はもうない。男は荒廃した寺でひとり心身の鍛練に励む。そんななか、見知 らぬ女性が寺を訪れ、赤子を置いたまま寺をあとにする。 そして、また春がめぐってくる……。 とにかく美しすぎます。詩情豊かな映像が全編を彩ります。 ＼(＾▽＾)／ だが、その美しさにダマされてはいけません。ここで描かれるのは、単なる人 間讃歌でも、「ポジティブに生きよう！」という単純なメッセージでもありま せん。 寺にやってきた少女に恋をして、関係を結んだ青年に和尚が言います。「欲望 は執着を生み、執着は殺意を生む」。 この言葉に象徴されるように、この映画には、人間の罪、欲望、怒りといった 暗くて重たい内面が、大きなテーマとしてズデーンと横たわっているのです。 本来なら、生命感にあふれている若い男女の愛と性さえ、殺人という罪のプロ ローグになってしまうのだから……。 (-＿-) しかし、今までのようにグリグリと直線的に突きつけてこないので、けっして 気分が悪くなるようなことはありません。 あくまでも、山々の四季の美しい風景の中で、ワンクッション置いて描くので す。 そのおかげで、観終わって穏やかな気分になれました。「様々な業を背負いな がらも、人間は生きていかねばならないのだ」と思えたのです。 仏教が大きな位置を占めるのもこの映画の特徴。妻を殺し怒りを背負ってきた 男に、和尚は般若心経を彫ることで怒りを静めさせようとします。 また、刑期を終えて寺に戻った男は、自ら石（業）をくくりつけ、仏像を抱い て山を登ります。これも、従来のキム・ギドク作品のギトギトした雰囲気とは、 まったく異質な世界。 いったい何があって、こんなにタッチが変わったのかは知りませんが、ボク的 にはこっちのほうが素直に入っていけました。 (⌒-⌒) 美しい自然をバックにした1人の青年のドラマという形をとりながら、同時に今 まで追い求めてきたテーマも追求する。もしかしたら、キム監督は鋭さだけで なく、柔軟さも身につけたのかもしれません。 ちなみに、キム監督は、「冬」の章で自ら出演しています。その清々しくも、 達観したような顔が実に印象的。いったい彼に何があった？ 《ぽちのオススメ度》 ★★★☆☆ （詩情豊かな映像とは、こういう映像のことを言うのです。でも、ただ美しい だけでないところはさすが。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年５月ＤＶＤにて鑑賞。 |