シュリ
(1999年 韓国)
監督・脚本：カン・ジェギュ
出演：ハン・ソッキュ、キム・ユンジン、チェ・ミンシク、ソン・ガンホ、パ
ク・ヨンウ、パク・ウンスク
＜ストーリー＞
北朝鮮の女スパイを追う韓国の情報部員ユ・ジュンウォン。必死の追跡にもか
かわらず、液体爆弾ＣＴＸをテロ組織に奪われてしまう。自分の命が狙われて
いることを知った彼は、フィアンセのイ・ミョンヒョンをホテルにかくまうが、
彼女の態度はそれまでと明らかに違っていた。やがて、ＣＴＸによるソウル
内10カ所での爆破が予告され、必死の捜索にも関わらず高層ビルで爆破事件が
発生。それをきっかけに銃撃戦が起きる。そこで、負傷した女スパイを尾行し
たジュンウォンは、衝撃の事実を知ってしまう……。
＜レビュー＞
こりゃ、ハリウッド映画だわ（笑）。
ハリウッドのアクション映画の舞台を、ロスやＮ．Ｙ．からソウルに持ってき
たって感じデス。もちろん敵役の旧ソ連やイラクあたりの工作員は、北朝鮮の
テロ部隊になってるけど……。
爆発で炎上する車からの決死のダイブ。ガラスを割るド派手なジャンプ。市街
戦。カーアクション。巨大スタジアムでの攻防……。
ほら、みんなハリウッドのアクション映画で見たようなシーンでしょ？
銃弾が雨アラレと降り注いでも、主人公が絶対に死なないところも同じ（笑）。
ストーリーは２つの物語が同時進行していく。
１つは、主人公と北朝鮮のテロ部隊との戦い。そこでカギを握るのがある女ス
パイの存在。そしてもう１つは、主人公と恋人とのラヴ・ストーリーだ。この
２つの物語がクロスし、悲しくて切ないエンディングへとつながっていく。
１つめの主人公と北朝鮮のテロ部隊との戦いは、文句ナシに面白い。アクショ
ンシーンが迫力十分で、緊迫感がスクリーンを通してズンズンと伝わってくる。
どこかの国の（って、日本だよ）Ｖシネマなんかのセコいアクションシーン
とはスケールが違うゾ。
だから大丈夫。安心して楽しめます。これでつまらないはずがない！
それにしても、けっこうお金をかけている感じ。やっぱり最近の韓国って景気
いいんだろうか。なんかウラヤマシイなぁ。
さて、２つめのラヴ・ストーリーだけど、これはちょっと物足りなかった。二
人の愛の描き方がどうも底が浅いのだ。パターン的で深みがない。二人がどこ
に惹かれ合っているのかも、あんまりよくわからなかった。ストーリー展開の
うえで重要な意味を持つ熱帯魚なんかが、小道具としてうまく使われてはいる
けれど、もう少し深みのある描き方ができなかったものだろうか。
そして、もう１つ大きな問題点がある。恋人の正体がかなり重要なポイントを
占めるのだが、それが初めからバレバレってこと。だから、主人公がその正体
を知った時の衝撃も素直に伝わらなかったのだ。
「そんなこと今頃気づいたの？ お前、情報部員だろ」
思わずそうつぶやいてしまったのは僕で〜す（笑）。
だから、この二人、最後には切なく悲しい結末を迎えるのだが、残念ながら、
ラストでグッと胸に込み上げるところまではいかなかった。
"おすぎ"さんみたいに、「愛」を連呼する気分にはなれなかったです。ハイ。
でも、実はこの映画には、「男女の愛」以外にも大きな愛が描かれている。そ
れは、朝鮮半島の南北分断という悲劇によって阻まれている「民族愛」。それ
が、この映画の深みを増している。
同じ民族同士が敵味方に分かれるというのは、これはもう経験した人でないと
わからない痛みだ。ハリウッド映画でアメリカ人が、旧ソ連やイラクあたりを
敵に回すのとは、まったく次元の違う話なのだ。
一部のマスコミでは、「北朝鮮によるテロを描いた」なんてとらえ方もあった
けど、そんなに単純な映画じゃない。
たとえば、ここで出てくるテロは国家ぐるみのテロじゃない。まだ見ていない
人に悪いから、あまり詳しくは言わないが、テロは北朝鮮指導部の策謀として
は描かれていないのだ。
おまけに、テロの動機は、けっして国家に洗脳されたとか、ただ命令を遂行す
るためといったことではなくて、とてもヒューマンなものだ。彼らも、実は韓
国の普通の人と同じように心優しく、不正に厳しい。それなのに、それが間違
った方向に進んだところに悲劇が生まれる。そんな監督の視点がよくわかる。
だから、なおさら分断という現実が悲しい……。
ハリウッドのこの手の映画は、はっきり勝者と敗者が分かれることが多いが（
白黒をつけないと気が済まないアメリカ人の特質か？）、この映画には勝者も
敗者もない。いや、ある意味で全員が分断という現実に敗れた敗者なのだ。
一見、ハリウッド映画のように見えても、そこが決定的に違う。
それが、この映画のすごいところだと思う。
主演のハン・ソッキュは「八月のクリスマス」などでおなじみの韓国を代表す
る俳優。何でもこなしてしまうのは、さすがだけど、国家のためなら友人でも
殺しかねない情報部員の非情さを出すのは、ちょっと苦しかったかな。
一方、相手役のキム・ユンジンは、ニューヨークで育ち、ブロードウェイの舞
台に立ったり、TVドラマにも出演していたという実力派。まだ若いけれどスケ
ールの大きさを感じさせる女優さんだ。ヒロインの中にひそむ暗さをうまく表
現している。
そうそう、北朝鮮のテロ部隊の隊長役の俳優さんも、石橋凌みたいな感じでス
ゴミがあってよかったデス。
さて、結論。
エンターティメント性あふれるハリウッド顔負けのアクション大作。
だが、それはけっして絵空事ではない。
南北分断という現実がこの映画をリアルで、そして深いものにしている。
あ、でも、いくらリアルって言っても、本当にこんなこと起きてるわけじゃな
いですから。
「へぇー、ソウルって毎日、戦争みたいなことをしてるんだ」なんて思わない
ようにね。
《ぽちのおすすめ度》
★★★＋２分の１★
（イギリスのジャズ・シンガー、キャロル・キッドが歌う主題歌「When
I Dre
am」もスゴクいいです。）
＜ぽち＞