疾走
| （2005年 日本）（上映時間 ２時間５分） 監督・脚本：ＳＡＢＵ 出演：手越祐也、韓英恵、中谷美紀、豊川悦司、大杉漣、寺島進、加瀬亮、菅 田俊、高橋ひとみ、平泉成、柄本佑 ＊シネスイッチ銀座、池袋シネマサンシャインほかにて先行上映、2006年1月 より全国順次公開。 ホームページ http://www.shissou.com/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ＜ストーリー＞ 「浜」と呼ばれる街で両親、兄と暮らすシュウジ（手越祐也）は、幼い頃に、 干拓地の「沖」で、ヤクザ者の鬼ケン（寺島進）と彼の愛人アカネ（中谷美 紀）と出会い、彼らの優しさに触れる。やがて、中学生になったシュウジは 「沖」にできた教会に通うようになる。そこには両親を自殺で亡くした孤独な 同級生エリ（韓英恵）の姿があった。そして、神父（豊川悦司）には忌まわし い過去があった。そんな中、「沖」では一大リゾート開発計画が持ち上がり… …。 ＜レビュー＞ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 青春の苦悩と破滅を描いたズシリとくる重たい人間ドラマ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 日本の若手で評価の高い監督の一人ＳＡＢＵ監督（もともとは役者）。これま では、『ＤＲＩＶＥ ドライブ』 （2001年）などコミカルなタッチの映画が 多かったのですが、重松清の小説を映画化したこの作品は、まったく違う作風 に仕上がっています。 重たいといえばあまりにも重たい映画です。両親、兄と暮らすシュウジという 少年が成長し、苦悩し、死と向き合い、そして悲劇へと突入していくドラマ。 ドラマの展開だけ見れば、暗くて、悲しくて、つい目を背けたくなります。 しかし、それでもスクリーンから目が離せません。胸をグイグイ締め付けられ、 時には息苦しささえ感じながら、その悲劇に見入ってしまうのです。なぜなら、 そこにはシュウジを中心とした登場人物たちの悩み、苦しみがすさまじい緊張 感とともに焼き付けられているから。 特に印象的なのは、シュウジやエリがタイトル通りに「疾走」するシーン。た だ全力で走ることに、彼らのやり場のない思いが込められたシーンです。田園 風景など、叙情的で美しい映像も印象的。 シュウジは自分が住む「浜」という地域から差別される「沖」という場所に出 かけ、そこで恐いヤクザと情婦アカネ、両親が心中した生き残りの少女エリ、 殺人事件に関係があるらしい神父などと出会い、多くのことを学び、考え、悩 んで成長します。 しかし、思わぬことから、彼の家族の歯車が狂い、ドラマは破滅へ向かってど んどん加速していきます。 ドラマの中には、差別、いじめ、非行、管理教育、自殺、暴力など、多くの テーマが登場します。それらが結びついて浮き上がる最も大きなテーマは 「死」。人間はどうして死ぬのか。どうして死のうとしても死ねないのか？ 運命とは？ 宿命とは？ すぐに答えなど出るはずのない問いが真摯に投げか けられています。 後半はとんでもない事件が起きて衝撃の結末へと向かいます。そのあたりはや やバタバタした感じもしましたが、全編を貫く緊張感は少しも途切れません。 そして、最後のエピローグ的なラストでは、一筋の希望の光が灯されます。真 っ青な空を背景に咲くヒマワリの黄色が目にしみます。 主人公シュウジを演じるのは、ジャニーズ系グループ「ＮＥＷＳ」の手越祐也。 素朴な演技が主人公のキャラクターにピッタリ。 そして、ボクがイチオシなのが、孤独な少女エリ役の韓英恵。10歳で鈴木清順 監督の『ピストルオペラ』でデビュー。是枝裕和監督の『誰も知らない』でも 印象的な演技でしたが、今回もバツグンの存在感。繊細でクセのある少女の役 がハマリ過ぎなんだよなぁ〜。 とにかくすさまじい悲劇で、重たい映画です。しかし、それでもスクリーンか ら目が離せません。しかも、後味はけっして悪くない。そのあたりは、『誰も 知らない』や塩田明彦監督の『害虫』、あるいはかなり古いけど、長谷川和彦 監督の『青春の殺人者』あたりと共通する雰囲気が感じとれました。 「死にたい」と思いながらも、「誰かと一緒に生きたい」とも思う、今にも擦 り切れそうな繊細な心の若者たち。その思いは世代を超えて、あらゆる人の胸 を突き刺すことでしょう。歯ごたえのある人間ドラマで必見！ 《ぽちのオススメ度》 ★★★★☆ （ヘビー級の重さを持つ悲劇。だけど後味は悪くない。とはいえ、手越クンの 主演映画ということで、ウキウキ気分で出かけると痛い目にあうかも……。） ＜ぽち＞ 〔鑑賞データ〕 2005年12月21日（水）シネスイッチ銀座にて。午後１時45分の回 |