SWEET SIXTEEN(SWEET SIXTEEN)


(2002年 イギリス・ドイツ・スペイン)(上映時間1時間46分)
監督:ケン・ローチ
出演:マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、アンマリー・フルトン
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
15歳のリアムは、学校にも行かず親友のピンボールとともにタバコを売って小
遣いを稼いでいた。目下の彼の夢は、自分の誕生日に刑務所から出所する予定
の母親と新生活を始めること。そのために湖畔のトレーラーハウスを購入しよ
うとドラッグの密売に手を出すが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
少年にとって過酷すぎる社会への怒りを、抑えたタッチで表現
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
イギリス出身のベテラン監督ケン・ローチは、社会の矛盾や不公正さをストレ
ートに告発するのではなく、人間ドラマを通して浮き上がらせてきました。
この映画もまた、社会の底辺にいる若者の姿をリアルに描くことで、今の世の
中の矛盾を浮き彫りにしています。
いまどき、これほどまっとうで、気マジメな映画は珍しいんじゃないでしょう
か。

主人公は15歳の少年リアム。イギリスの下層社会に育った彼は、学校にも行か
ずにタバコを売って小銭を稼ぎ、街でイタズラを働く毎日。
まあ、いわゆるワルガキではあるんですが、けっして根っからのワルではない
。むしろスッゴク純粋なヤツです。
でも、家庭環境はヒドイ。父親はなく、母親と祖父、そして未婚の母の姉がい
るもののほとんど一家離散状態。母親はダメ男に翻弄されて刑務所に入り、姉
は家を出ている。リアムは祖父と母の恋人と暮らすが、この2人がどうしよう
もないヤツ。まともな暮らしなんかできやしない。

そんな中、リアムは刑務所に入った母を慕い、間近に迫った出所後は親子での
新生活を夢見ている。
そのために彼は湖畔のトレーラーハウスを購入しようとする。そして手を出し
たのがドラッグの密売。

貧困とドラッグに囲まれた環境から脱却したいと願い、愛する家族との新生活
を夢見るリアム。でも、そのために彼にできるのは犯罪に手を染めて金を稼ぐ
こと。この悲しい現実がせつないなぁ〜。 (T^T)
しかも、リアムは頭がいい。だから、犯罪にも才能を発揮してますます深みに
はまっていく。そしてやがて大きな悲劇が訪れるんです。

リアムがもしも裕福な家庭に生まれていたなら、犯罪に関わることなく普通の
生活を送っていたに違いありません。ところが、貧困と犯罪の渦巻く世界で生
まれ育っただけで、まったく違う人生を送ることになってしまう。
このドラマの背後には、そんなバカヤローな世の中への強い怒りがはっきりと
感じられます。 (>_<)

でも、それをけっして前面に出すことなく、誰もが共感できる1人の若者の人
間ドラマとして描いています。
例えば、リアムと母親との関係。リアムの母親に対する思いは純粋すぎて、生
身の母親との間には大きなギャップがある。リアムの姉はそれに気づいて忠告
するのだが、幼いリアムは耳を貸さない。
このあたりの母子関係の微妙なズレは、普遍的なテーマとして誰もが共感する
に違いありません。

こういうようにイギリスの底辺層の話というだけでなく、登場人物に自分を重
ね合わせることができる青春ドラマとして観ることができるんです。おかげで
気マジメな映画なのに、それほど息苦しい感じはしませんでした。

そして、リアルで生き生きとした描写もこの映画の大きな特徴。
リアムをはじめとするワルガキたちやリアムの母、姉などがいずれも等身大の
姿で描かれます。ほとんど無名の役者を多く使ったことも良い効果を生んでい
ます。(リアム役の青年はプロ・サッカー選手だとか。)

ラストはさすがにグッとくるものがあります。わずかに16歳になったばかりの
若者が、こんな過酷な運命に遭遇してしまうというやりきれなさ。これはたま
りませんねぇ〜。 ('_`)
タイトルの「SWEET」というのがなんとも皮肉です。

「やっぱりこういう世の中はおかしいゾ!」
観終わって強くそう思いました。それこそがローチ監督の狙いだったのかもし
れません。
声高なシュプレヒコールやデモ行進なんかよりも、もっともっと強烈で熱いメ
ッセージが余韻とともにジワーッとしみ込んできました。

迫力のアクションシーンもなければ、ロマンチックなラブシーンもない。とに
かく地味だし、暗い映画。なのでシンプルな感動を求める方にはオススメでき
ません。
その代わり、より大きな余韻を求める方やありきたりのエンタメ映画に飽きた
方はぜひどうぞ。
こういう映画、個人的にはけっこう好きです。今年観た映画のベスト1だッ!
(て、まだ3本しか観てないけど(笑))

《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
(ケン・ローチの偉大さを再認識。特に青春モノ、それも残酷さや甘酸っぱさ
を描いた映画が好きな人にはオススメです。)
                              <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2003年1月15日(水)銀座シネ・ラ・セットにて。午後4時45分の回。


[レビュートップページ][「す」のページ][アルファベットのページ]