ただいま(過年回家)


(1999年 中国・イタリア)(上映時間1時間29分)
監督:チャン・ユアン
出演:リウ・リン、リー・ビンビン、リー・イエッピン、リアン・ソン

<ストーリー>
16歳の少女タウ・ランは、血のつながらない姉を発作的に殺し刑務所に入る。
それから17年後の旧正月、家族と過ごすために仮出所が認められたタウ・ラン
だったが、そこに家族の出迎えはなく……。

<レビュー>
★ぽち:男。「Cinemaの王国」編集発行人兼ライター。
☆もも:女。「Cinemaの王国」ライター。

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派手な演出もなく淡々と話が進んでいく
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★ぽち:バトルトークで中国映画を取り上げるのは初めてだよね。それにして
    は、ずいぶん地味な映画を取り上げちゃったなぁ。

☆もも:全体に淡々と流れていくよね。ドラマ的にこれといった盛り上がりも
    ないし……。

★ぽち:話のきっかけは衝撃的なんだ。16歳の少女タウ・ランが義理の姉を殺
    しちゃう。たった5元の金を盗んだ罪をかぶせられて逆上して、棒で
    なぐっちゃうんだ。

☆もも:2人はそれぞれ両親の連れ子。母親の連れ子が父親の連れ子を殺しち
    ゃったわけ。あの設定は効果的だったと思う。それだけ家族の心の傷
    が大きいもん。

★ぽち:だけど、あの殺害場面もホントあっさりしてたよね。この映画で唯一
    のショッキングなシーンなのに……。後ろからボコッて感じでなぐっ
    てそれで終わり。血の一滴も流れない。北野武監督やクエンティン・
    タランティーノ監督に見せてあげたいくらいデス。 (^0^)

☆もも:それで、彼女は逮捕されて刑務所に入る。で、いきなり時間はビュー
    ンと17年後に飛んで、模範囚の彼女が旧正月だけ仮釈放されることに
    なる。

★ぽち:でも、どうやってタウ・ランの犯行だってわかったのさ? 誰も目撃
    者がいなかったじゃん。ドラマのセオリーからいえば、ちゃんとそう
    いうところを見せるだろ?

☆もも:ていうか、事件はどうでもよかったんだよ、きっと。描きたかったの
    は、17年後に仮出獄になった時の彼女と家族の姿なんだもん。

★ぽち:それにしても、なんか話がスイスイと進みすぎちゃって……。僕なん
    か、中国の女子刑務所の様子とか、そんなのばっかりに興味を引かれ
    ちゃいましたぁ〜。「実録ドキュメント 中国女子刑務所の24時間!!
    」。

☆もも:それじゃテレビの改編期の特番だよ。でも、ドキュメンタリー風なの
    は確か。あれ、きっと意識的にやってるんだね。これといって派手な
    演出もナシに淡々と話を進めていく。それによって逆に、家族に起き
    た現実をリアルに突きつけているんじゃない?

★ぽち:うーん、そういわれれば……。ま、チャン・ユアン監督は、これまで
    も知的障害とか、同性愛とか、社会的なネタを扱ってきた人だから、
    現実感を重視するタイプの監督なのかもね。

☆もも:同性愛っていえば、刑務所で主任が囚人に規則を唱えさせるけど、あ
    の中に「同性愛は禁止」っていうのがあったじゃん。私、あれを見て
    タウ・ランと主任が、なんかそういう雰囲気の関係になるの???
    なんて思っちゃった。主任役の女優がキリッとした美女で、髪をまと
    めた制服姿なんて、どうかすると宝塚の男役みたいに見えるんだもん
    。 ``r(^^;)ポリポリ

★ぽち:おいおい! 普通そんなこと考えないヨ。相変わらず深読みする人だ
    なぁ〜。でも、あの主任が最後まで重要な役割を果たすんだよね。

☆もも:うん。仮出所したタウ・ランが家族の出迎えもなくてどうしようか迷
    っている時に、ちょうど主任が通りかかる。彼女も正月休みで家に帰
    ることになって、家が同じ地区だからって送っていくことになるわけ
    。

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監督が本当に描きたかったのは変わり行く中国の現実!?
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★ぽち:あそこからは一種のロードムービーみたいになるよね。タウ・ランの
    実家が移転してて、おまけに正月休みでなかなかスムーズに移動でき
    ない。だから、家族に会うまでにスゴク時間がかかっちゃう。その間
    のタウ・ランと主任のやりとりがズーッと続いていく……。

☆もも:あの2人の対比が絶妙! タウ・ランは17年間も刑務所にいて、すっ
    かりオバサンになっちゃってる。無表情で、自分では何もできなくて
    、主任の命令どおりに動く。それに対して、主任は若くて、美人で、
    生き生きとしている。だから、よけいにタウ・ランの哀れさが際立つ
    のよね。

★ぽち:そうだね。2人のキャスティングは見事。ただ、それにしても家にた
    どりつくまでが長すぎるゾ。まるでプチ旅行やん。

☆もも:だから、監督はホントはそこが描きたかったんじゃない?

★ぽち:ん? どういうこと? (・_・")?

☆もも:タウ・ランが17年ぶりに見た刑務所の外は大きく変わってた。実家が
    あった場所も取り壊されちゃって高層ビルなんかも建ってる。自動車
    も増えてうまく道路が横断できない。途中で乗った輪タクの運転手は
    「収入は2倍になった。今頃工場で働いてたらリストラされてたかも
    ……」なんていう。そういうふうに、17年の間に中国は大変化しちゃ
    ったわけ。監督が描きたかったのは実はそこだったりして。

★ぽち:「ある家族の感動の物語」と思わせておいて、実は中国社会の現実を
    リアルに描写したってわけか。そういえば、チャン監督の作品は、デ
    ビュー作をはじめほとんどが当局の検閲にバッチシ引っかかっちゃっ
    て、中国国内では上映できなかったらしい。そういう経験を通して、
    今度は中国の社会をストレートに描くんじゃなくて変化球を使って描
    いたのかもネ。

☆もも:その厳しい社会の変化と、過酷な運命に翻弄された家族の変化をシン
    クロさせて描いたんだと思う。

★ぽち:それにしても、途中で彼女たちが食べた屋台の水餃子がうまそうだっ
    たなぁ〜。 (*^。^*)

☆もも:あれは私もそう思った。寒い中で食べるホカホカ湯気が出てる水餃子
    。ああ、食べてみたい!

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これは観客の想像力が試される映画かも……
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★ぽち:そうこうするうちに、ようやくタウ・ランの実家にたどりつく。

☆もも:だけど、彼女1人では家に入れなくて、結局、主任についてきてもら
    う。タウ・ラン役の女優さん、セリフがほとんどないのに表情だけで
    うまく演技していた。若い時とまったく顔が違うところもスゴイ。

★ぽち:だから、いってるでしょうが。女は魔物。昨日と今日じゃ顔が違うっ
    て。

☆もも:ていうか、やっぱりあの設定はムゴいんだよね。少女から女に変わる
    一番輝く時を刑務所で過ごして、オバサンになって出てくるなんて。

★ぽち:でもって、両親登場!! いやあ、こっちもさすがに17年ぶりだけに
    老けてたなぁ〜。だけど、どうしてあの2人まだ一緒にいる? 母親
    の連れ子が父親の連れ子を殺しちゃったわけだろ? それがずっと心
    の傷になってたんだから。普通は、とっくに別れてるでしょーが!!

☆もも:夫婦っていうのは色々あるの。そんな単純なもんじゃないのだよ。 
   ( ̄^ ̄)

★ぽち:夫婦なんかやったことないくせに、わかったようなことを……。やれ
    やれ  ┐(´-`)┌

☆もも:映画の冒頭から、あの両親は仲良く自転車に乗って買い物から帰って
    きたのに、家に着いたらいきなりケンカを始める。しかも、母親がと
    んでもなく威張ってて。それでいて夜になると外に声が聞こえてくる
    くらい激しいのよね。あそこって、声と音だけなんだけど、そういう
    のを姉娘がタライで足を洗いながら聞いている。なんか妙に生々しい
    シーンだったな。まあ、要するにあの両親は男と女なのよね。

★ぽち:ま、両親が別れてたら、物語がとんでもない方向に行っちゃうからし
    ょうがないんだけどサ。

☆もも:とにかく、ここから家族の間でギクシャクした会話が始まるわけ。両
    親とタウ・ラン、それに主任との間に独特の雰囲気が漂っている。微
    妙な間があるよね。

★ぽち:ヴェネチア映画祭でウケたのって、案外あのへんかも。外国の人って
    こういう間が好きじゃん。

☆もも:それに、両親は新築のアパートに住んでるわけだけど、その部屋の様
    子とか小道具を時間の経過に使っていてウマイ。かまどがガスになっ
    てたり、タライで行水していたのが今やシャワー。だけど両親とタウ
    ・ランの心だけは17年前のまま。大きく変わったものと変わらないも
    のの対比が鮮やかだった。それから、バックで聞こえる旧正月の爆竹
    も効果的。あの爆竹の音は、家族の心の中の音だったのかも……。

★ぽち:ただなぁ、その後のラストはちょっと大甘って感じだゾ。いかにも涙
    を誘うって感じがしちゃってサ。 (`ヘ´)

☆もも:最後は家族の再生へと向かっていくんだよね。確かにテレビドラマな
    んかでよく見るパターンだった。

★ぽち:17年間の葛藤をあんなにあっさり乗り越えられても……。

☆もも:完全に乗り越えたわけじゃないよ。まだまだ波風はあるけど、とりあ
    えず1つの決着をつけたって感じ。それより、あの家族の過去の葛藤
    ってあんまり出ていないよね。特に実の娘を殺された父親の葛藤が…
    …。異常なくらいかわいがってたのにネ。

★ぽち:母親の気持ちだって、よくわかんないよ。娘の犯罪に対する負い目み
    たいなものは多少感じられるけど。

☆もも:そのへんはすっ飛ばしちゃってるから、観客が想像するしかない。そ
    ういう意味じゃ、観客の想像力が試される映画かもしれないなぁ。

★ぽち:ほほぉ〜、さすがに新年第一弾。珍しく良いことをいいますなぁ〜。

☆もも:「珍しく」は余計だぁーい!! O(・_・)○ ボカッ

★ぽち:ギャッ! 今年も、強烈パンチは健在なのね〜。 (><)

《もものオススメ度》
★★+1/2★
(それにしても欧米の映画と違って、アジア映画ってその国の今がすごく出て
る。そう感じるのは私たちが欧米映画にあまりに慣れすぎちゃったから?)

《ぽちのオススメ度》
★★+1/2★
(中国の現状を投影させたおもしろい映画だとは思うけど、あまりにも同じ調
子が続くから眠くなっちゃいました。)


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