タイタス (ＴＩＴＵＳ)
(1999年 アメリカ)(上映時間２時間42分)
監督：ジュリー・テイモア
出演：アンソニー・ホプキンス、ジェシカ・ラング、ジョナサン・リース・マ
イヤーズ、マシュー・リース、ハリー・レニックス
＜ストーリー＞
古代ローマの武将タイタス（アンソニー・ホプキンス）は、ゴート族との戦い
に勝利。女王タモラ（ジェシカ・ラング）とその息子たちを捕虜にしてローマ
に凱旋する。戦死した息子の霊を慰めるため、タモラの命乞いも無視して彼女
の長男をいけにえにするタイタス。だが、やがて新皇帝が誕生しタモラを王妃
にしたことから、彼女のタイタスへの復讐劇が始まる……。
＜レビュー＞
映画っていうよりも、どっちかっていうと舞台劇を観ている感じだなぁ……。
役者たちの仰々しいセリフ回しといい、大げさな演技といい、どっかの大劇場
で演じられるような超豪華な舞台劇を連想してしまいました。
まあ、それも当然で、原作はシェークスピアの書いた戯曲「タイタス・アンド
ロニカス」。シェークスピアの作品中ではほとんど知られていない作品だ。
ストーリー展開や重要なセリフなんかは、その原作に割りと忠実に描かれてい
るみたい。だから、自然に舞台劇の雰囲気が漂ってくるんだろう。
ストーリーはシンプル。
古代ローマを舞台に、武将タイタスによって息子をいけにえにされたゴート族
の女王タモラが、やがて王妃に成り上がって復讐を進める。
一方、タモラの復讐によって息子を殺され、娘をボロボロにされたタイタスは
、周到な計画を立てて逆にタモラに復讐しようとする。
お互いに子供を亡くした２人が対決する、血で血を洗うドロドロの復讐劇だゾ
〜。 {{ (>_<) }}
でも、実はこの映画、かなり大胆にアレンジされている。
古代ローマ帝国を舞台にした映画と聞いて、史実に忠実な歴史劇を思い浮かべ
る人も多いだろう。でも、それは大間違い！！
なんたって時代考証がムチャクチャなのだ。
まずは、ローマ時代だというのに、皇帝の息子が自動車に乗って登場だぁ！
「ヘェー、あんな昔にも自動車があったんだ……」って驚いてる彼女。んなワ
ケがないでしょう！！
その後も、オートバイや現代の戦車なんかが、当たり前のような顔をして現わ
れる。
衣装もデタラメ。ローマの護民官はキリッとネクタイを締めてるし、皇帝はパ
リコレから借りてきたような服を着てる。そして、パーティーの出席者はカク
テルドレスを着て、ブギーに合わせてダンス！ ダンス！ ダンス！
それどころか、ゲーセンのゲーム機やビリヤードまで出てくるんだもん。
まったくどうなっているのやら。やれやれ ┐(´-｀)┌
だけど、もちろんこれはわざと仕組んだこと。
ユニークで華麗な装飾、衣装、メイクで観客を楽しませるのと同時に、現代的
なアイテムを登場させることで、この古典劇がけっしてカビの生えたものでは
なく、現代にも通じるものであることを証明しようとしたんだと思う。
そういう点では、計算されたハチャメチャさといえるかも……。
何しろ監督は、あの『ライオン・キング』の演出家ジュリー・テイモアですか
らねぇ。
役者に動物のお面をかぶらせるという奇抜なアイデアで、観客をビックリさせ
た人。それだけに、今回もずいぶんとブッ飛んでくれました。
ここまでポップでアバンギャルドに仕上がったシェイクスピア劇は、これまで
にはなかったんじゃないでしょうか。
とにかく映像がいいよなぁ。 (*^。^*)
どの場面を切り取ってもそのまま絵画になりそうだもん。
鮮烈で、華麗で、時にはグロテスク。そしてとってもパワフル。
それに引っ張られてどんどん深みにハマッちゃう。
時代考証のムチャクチャさにも、だんだん違和感を感じなくなっていくゾ。
復讐の過程では、レイプや処刑、手首の切断、生首、果ては人肉パイ！！
まで登場するのだが、そういうエグい要素も、映像美とポップな感覚によって
かき消されちゃう。あんまり残虐に感じられないんだよネ。
うん？ ちょっと待てよ。
てことは、ドラマ的には物足りないってことじゃないのか？
そうなんです！！
スケールの大きさと映像のパワフルさに比べて、ドラマの本質部分が軽くて、
スーッと流れて行っちゃう感じ。復讐劇としての盛り上がりに欠ける気がする
のだ。
その場、その場では印象的で、とっても美しい映像が展開されるけど、それが
全体としてつながっていかない。子供を殺された親の怨念とか、復讐にかける
執念とか、そういう感情がヒシヒシと伝わってこない。
アンソニー・ホプキンスをはじめ実力派の役者がそれらしく演じているけど、
復讐のドラマとしての魅力があんまり感じられないんだなぁ。
テイモア監督は、一面的に悪人と善人を分けて描くのではなく、どんな人間だ
って、悪人にも善人にもなる可能性があるように描いたとか。
確かに、そういう意図は伝わってくる。武将タイタスも、女王タモラも、善人
でもあり悪人でもある。
だけど、その心の変化を観客がガッチリとキャッチできるような描き方をして
くれないから、心に迫ってくるものがない。見終わっても何も残らない。
最初から最後まで、延々と復讐の炎を燃やされてもねぇ〜。 (~ヘ~)
うーん。
これって結局、ジュリー・テイモア監督が、シェイクスピア劇を使って遊んだ
だけなんじゃないのか？？？
「シェイクスピア戯曲の素晴らしさをみんなに伝えたいッ！」
そんな監督の意図はよくわかる。
でも、そのためにアレコレ細工をしすぎて、かえってドラマとしての魅力をな
くしてしまった気がするな……。
あ、でも見応えはある映画ですヨ。確かに。（と一応フォロー！？）
特に役者たちがワンダフル！！
今さら言ってもしょうがないけど、タイタス役のアンソニー・ホプキンスはス
ゴイ。特に、狂気を帯びた演技はバツグンだ。さすがはレクター博士。『ハン
ニバル』も期待できそう。 O(^-^)O
それに対する女王タモラ役のジェシカ・ラングも背筋ゾクゾクものの演技。
な、なんだ！？ あの残虐ぶりは。子を失った母の恨みを超越した、オゾマシ
ささえ感じさせる演技デス。
結論。
大胆にデフォルメしたローマ史劇。そのポップでアバンギャルドな映像にはた
だ感服。
でも、スケールの大きさに比べてどこか軽い。心に残るものがない。そこが致
命的だなぁ。
《ぽちのオススメ度》
★★★
(料金分楽しめるという点では★３つあげてもいいかと……。２時間42分、最後
まで飽きなかったしネ。)