海を飛ぶ夢(THE SEA INSIDE)
(2004年 スペイン・フランス)(上映時間2時間5分) 監督:アレハンドロ・アメナーバル 出演:ハビエル・バルデム、ベレン・ルエダ、ロラ・ドゥエニャス、マベル・ リベラ、セル・ブガーリョ、クララ・セグラ、タマル・ノバス * 日比谷シャンテ・シネほかにて全国公開 ホームページ http://umi.eigafan.com/ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ <ストーリー> 25歳のときに海底で頭を強打し、首から下が不随となり、26年も寝たきりの生 活を送ってきたラモン(ハビエル・バルデム)は、「尊厳のない生に絶望し た」と死を決意する。だが、自分では実行できないために、尊厳死を法的に支 援する団体や弁護士に援助してもらいながら、法廷で死の自由を勝ち取ろうと するのだが……。 <レビュー> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 尊厳死のドラマではなく1人の男の生と死を描いた情感豊かな人間ドラマ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 後にトム・クルーズ主演『バニラ・スカイ』としてリメイクされた『オープ ン・ユア・アイズ』(1997年)で注目を集め、ニコール・キッドマン主演のゴ シック・ホラー『アザーズ』(2001年)でハリウッドにも進出したアレハンド ロ・アメナーバル監督が、スペインで実際に起きた出来事をもとにつくった映 画。アカデミー外国語映画賞を受賞しました。 元船乗りで、世界中を旅していたラモンが、引き潮の海に飛び込んで海底で頭 を強打し、首から下が動かなくなり寝たきりに。それから26年経って、自殺を 決意した彼と、家族など周囲の人々の心の揺れ動きを追った物語。 尊厳死という素材はヘヴィーだが、安易な感傷やお手軽な結論に流されること なく、1人の男の人生を生き生きと切り取った人間ドラマとして描いています。 このテの物語は、主人公が次第に生きる希望を見出していったりするケースが 多いわけですが、この映画にはそんなポジティブな展開はありません。 かといって、彼が死を選ぶ必然性を明らかにして、「尊厳死を認めるべき だ!」と主張しているわけでもありません。 いや、むしろ監督の視点は、尊厳死を選ぶ主人公の側にも、それを認めたくな い家族の側にも寄り添わず、登場人物すべての心理をそのまま受け止め、情感 豊かに描き出すことに集中しています。 要するに、この映画は、尊厳死というテーマを真正面に据えた社会派の映画で はないのです。当然ながら、「主人公と同じ立場の人は死を選ぶべきだ」など と言っているのでもありません。 主人公ラモンのドラマとして、大きな要素を占めるのが女性との関係。彼に共 感していく担当弁護士のフリアと、テレビで彼を見て死を思いとどまらせよう とするロサという2人の女性との関係が、ときにはラブ・コメまがいのユーモ ラスな展開も含めて描かれていきます。 (*´エ`*) こうして「愛の物語」という砂糖をまぶしたおかげで、尊厳死という素材の重 さを感じさせない映画になっています。 また、『アザーズ』でも観られた鮮烈な映像も、このテの映画にありがちな重 たさを消しています。オープニングの美しい海の映像から、どれも印象的な シーンの連続。特に寝たきりのラモンが、夢の中で海を飛ぶシーンは筆舌に尽 くしがたいほどの美しさ。 (⌒▽⌒;) 主人公ラモンがとても自殺なんかしそうにないキャラなのも、いいですねぇ〜。 首から上しか動かないというのに、ユーモアたっぷりの口調で明るく元気に話 すんだもん。(もちろん、その裏にはスサマジイ絶望があるのだが……) ところどころに笑えるシーンもあって、尊厳死を素材にした映画とは思えない 雰囲気です。 それでも、ラモンの決意は最後まで変わりません。その事実はやっぱり重たい もの。いくら、正面に据えていないとはいえ、生と死の問題が身近な問題とし て迫ってきます。 自分がラモンの立場だったら、あるいは家族の立場だったら、いったいどうい う行動を取るのか。それを観客に突きつけてきます。 (-_-)うーむ ラモンの選択と、担当弁護士の選択を対比させるかのようなラストも印象的。 ここでもまたアメナバール監督自身は、どちらかの選択が正しいと言い切るこ とはありません。判断は観客に委ねられています。 さらに言えば、監督は、尊厳死の是非とは別に、生きることの素晴らしさを訴 えているようにも思えます。死の迎え方は人それぞれでも、生きている間は誰 もが輝けるのだと……。 首から上だけの演技、しかも、特殊メイクで、実際の自分より20歳以上年上の 主人公になりきったハビエル・バルデムの演技が見事(実際の彼はかなりのイ ケ面)。弁護士役のベレン・ルエダも魅力的でした。 重たい素材を重たくなく描き、そしてきちんと問題も突きつけてくる。単純な 感動作や社会派映画とは違う奥の深い映画です。アメちゃん、さすがッ!! (アメちゃん、て……(笑)) 《ぽちのオススメ度》 ★★★★☆ (尊厳死を描いたということで、もっとヘヴィーな映画かと思ったら全然違い ました。尊厳死にそれほど興味がなくても、深い人間ドラマが好きな人なら満 足できるはず。) <ぽち> 〔鑑賞データ〕 2005年5月9日(月)新宿武蔵野館にて。午後1時50分の回。 |