ヴェロニカ・ゲリン(VERONICA GUERIN)


(2003年 アメリカ)(上映時間1時間38分)
監督:ジョエル・シュマッカー
出演:ケイト・ブランシェット、ジェラルド・マクソーレイ、ブレンダ・フリ
ッカー、シアラン・ハインズ
*恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次公開
ホームページ http://www.movies.co.jp/veronica/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
アイルランド・ダブリンの新聞記者ヴェロニカ・ゲリン(ケイト・ブランシェ
ット)は、麻薬が横行する現状を憂い、麻薬犯罪の実体を追う取材を開始する。
だが、それは危険への入口だった。執拗な取材によって、麻薬売買組織のボ
スのジョン・ギリガンを追いつめるものの、彼の魔の手がヴェロニカに迫って
くる……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
事実の重さをふまえた堅実な演出とケイト・ブランシェットの演技が見もの
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

麻薬組織を追い詰めながら、彼らの銃弾によって37歳で命を落とした女性新聞
記者の実話をもとにした映画。

とはいえ、プロデューサーがガチガチのエンターティメント派ジェリー・ブラ
ッカイマー(『アルマゲドン』『パール・ハーバー』『パイレーツ・オブ・カ
リビアン』など)ときたもんだから、つくりごとばっかりの愛と感動のエンタ
ーティメント映画になっているんじゃないかと心配したのですヨ。

でも、その心配は杞憂でした。実話の重さをふまえて、エンターティメント性
と社会性を両立させ、しかもありがちな偉人伝にしていない。これは、エンタ
ーティメントから社会派まで、さまざまな映画を監督してきた"職人"ジョエル
・シュマッカー監督(『9デイズ』『タイガーランド』『評決のとき』『セン
ト・エルモス・ファイアー』など)の演出によるところが大だと思います。 

冒頭はヴェロニカが銃撃されるシーン。つまり、この物語の結末を最初にバラ
しちゃっているワケ。フィクションなら、これでお楽しみが一つ減っちゃうわ
けですが、結末のわかっている実話なので影響はナシ。むしろ、ラストのカタ
ルシスへ向けた効果的な布石になっています。

その後は、2年前にさかのぼってヴェロニカが麻薬組織にジリジリと迫り、そ
の反撃を食らうまでを抑制的なタッチで描いていきます。
そこでは、麻薬に挑むジャーナリストという硬派の側面と同時に、彼女の人間
らしさも描かれています。相手の反撃に畏怖し、弱みを見せたり、家族のこと
を心配したりする。女性として、母としての心の揺れもしっかりと描いていき
ます。

まあ、とにかく巧みな演出ですよ。別に驚くようなことは何もないのに、自然
に引き込まれてしまう。「この素材なら、こういう撮り方しかないよなぁ〜」
と納得させられる演出は、さすがに職人芸という感じ。

しかも、主人公のヴェロニカを演じるのが実力派のケイト・ブランシェットで
すからねぇ〜。危険も顧みず、周囲をハラハラさせながら、ドンドンと突撃取
材をしていく強さ。それとは逆に、自分はもちろん家族にまで危険が及びそう
になり、震えおののく弱さ。その両方を同時に演じられる女優さんは、そうそ
ういますまい。見事です。

過剰な演出がないとはいえ、クライマックスの銃撃シーンはさすがに息を飲み
ます。暴力の恐ろしさ、そしてそれに立ち向かう勇気。そういうものがしっか
りと伝わってきます。
だから、ラストの駆け足のナレーションによる後日談も違和感なく耳に入って
くる。そこでヴェロニカの悲劇がけっしてムダにならなかったことを知り、観
客は悲しみにくれながらも、ホッと胸をなでおろすのです。 (^。^;)

徹頭徹尾バランスの良い映画でした。エンターティメントにズンズン走ること
も、逆に世の中を告発しまくって社会派に徹することもない。その分、中途半
端で物足りなく感じる人もいるでしょうが、やっぱりこの素材ならこういう撮
り方だよねぇ〜。実話の重さをよくわかった演出だよねぇ〜、と納得してしま
ったのでした。

ラストのナレーションにもあるように、世界中でヴェロニカと同じように果敢
に危険な取材に挑み、命を落としていったジャーナリストがたくさんいるので
す。そのおかげで、世の中が良くなった例が数え切れないのです。「イラクな
んて危ないところに行って、危険な目にあうのは自業自得だぜ」な〜んて言っ
てる人は、この映画を観てもういっぺん考え直してみましょうね。

ところで、この映画、同じくシュマッカー監督作品『フォーン・ブース』に主
演していたコリン・ファレルがカメオ出演しているというのだが、全然気がつ
かなかったゾ。どこに出てたの? 教えて! 教えて!

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆(+1/2★)【かなりオススメ。観たほうがいいんじゃない?】
(実話の重さをふまえてつくられた完成度の高い映画。ジャーナリストとして
だけでなく、ヴェロニカの女性としての生き方も伝わってきます。)
                          <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2004年7月1日(木)恵比寿ガーデンシネマにて。午後4時50分の回。


[レビュートップページ][「う」のページ]