15時17分、パリ行き(THE 15:17 TO PARIS)


(2018年 アメリカ)(上映時間1時間34分)
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、
ジェナ・フィッシャー、ジュディ・グリア、レイ・コラサーニ、P・J・バー
ン、トニー・ヘイル、トーマス・レノン、ポール=ミケル・ウィリアムズ、ブ
ライス・ガイザー、ウィリアム・ジェニングズ
*丸の内ピカデリーほかにて公開
ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/1517toparis/
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<ストーリー>
2015年8月21日、オランダのアムステルダムからフランスのパリへ向かう高速列
車タリスの中で、銃で武装したイスラム過激派の男が無差別テロを起こそうと
する。その列車にたまたま乗り合わせていたのは幼なじみの3人の青年。米空
軍兵のスペンサー・ストーンとオレゴン州兵のアレク・スカラトス、そして2人
の友人のアンソニー・サドラーは男を取り押さえ、大惨事を防ぐことに成功す
る……。

<レビュー>
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あまりにも大胆な手法で描くダメ青年たちの一瞬の輝き
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クリント・イーストウッド監督の最新作は、2015年に実際に起きたテロ事件を
ネタにした作品。そこでテロ犯人と対決した3人の若者を描いています。

前半は基本的にその3人の成長のドラマが描かれます。白人のスペンサーとア
レクは学校では落ちこぼれの問題児。キリスト教系の学校に転校するものの、
そこでも厳しい指導について行けず、相変わらずの落ちこぼれ状態。そんな中
で、彼らは同じく問題児の黒人少年アンソニーと知り合い仲良くなります。

その中のスペンサーは青年になるとアメリカ空軍の兵士になります。子供時代
にサバゲーや銃器に夢中になっていただけに、敵をぶっ倒したいのかと思った
らそうではありませんでした。戦争で人を救いたいと、レスキュー部隊を志願
するのです。しかし、必死で努力したのに検査ではねられ、違うところに配属
されてしまいます。そこでも彼は落ちこぼれたままです。

一方、オレゴン州兵のアレクはアフガンに派遣されたものの、すでにそこは戦
場ではなく、追いはぎや盗人に警戒する日々。華々しい活躍などできるわけが
ありません。

要するにスペンサーもアレクも、子どもの頃から挫折だらけでイケてない日々
を過ごし、それでも横道にそれたり、暴走することなく、何とか暮らしている
青年です。

そんな2人はアンソニーを誘ってヨーロッパ旅行に出かけます。映画の中盤以
降は旅行先での彼らの姿が描かれます。といっても、大事件が起きるわけでは
ありません。本当にただの旅行です。何でこんなものを延々と見せるのだ?

と思ったのですが、最後まで観て納得しました。この旅行シーンには、彼らが
ヒーローでもなんでもないただの若者だということを、強烈に印象付ける効果
があるのです。

そんな若者がテロ事件で活躍したのは「困っている人を助けたい」「誰かの役
に立ちたい」という、しごく真っ当な考えを持ち続けていたから。「それこそ
が、人間にとって最も大切なものではないのか」というイーストウッド監督の
声が聞こえてきそうです。

終盤、いよいよテロ事件が起きます。銃で武装した男が客たちの前に出現しま
すが、犯人はあっさりやっつけられてしまいます。

その代わりスペンサーは、銃で撃たれた乗客を必死で介抱し、何とか命を助け
ようと奮闘します。まさに彼の「人を救いたい」という思いが、そこにスト
レートに表れているわけです。しかも、この一連の彼の奮闘には、軍で習った
人命救助の方法や柔術の腕前が生かされています。そこから「人生、どんなこ
とでも無駄になることはない」という教訓めいたものも感じられます。

テロをネタにした作品としては異色です。シンプルなヒーロー映画ではないし、
ハラハラドキドキのサスペンスでもありません。むしろ、ダメダメな若者たち
の一瞬の輝きをとらえた青春ロードムービーといえるかもしれません。その中
には、他者を追いやる心の大切さや、人生の摩訶不思議さといったテーマも含
まれています。

彼らが列車に居合わせ、そしてテロを防ぎ、ヒーローになったのは偶然の積み
重ねによるもの。そうなった時に、はたしてあなたは彼らと同じように行動で
きるのか?イーストウッド監督は、そう観客に問いを投げかけているのではな
いでしょうか。

この映画で最も異色なのは3人の若者たちを本人が演じていることでしょう。
もちろんプロの役者ではありません。それが演技の巧拙を越えて、究極のリア
ルさを生み出しています。88歳にしてこんな大胆なことをしてしまうイースト
ウッドの若々しさにはただ脱帽するしかありません。

≪ぽちの満足度≫

★★★☆☆(+1/2★)
(86点)

                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2018年3月2日(金)シネ・リーブル池袋にて。午前9時20分の回


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