ハッピーエンド(HAPPY END)


(2017年 フランス・ドイツ・オーストリア)(上映時間1時間47分)
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニャン、マチュー・カ
ソヴィッツ、ファンティーヌ・アルデュアン、フランツ・ロゴフスキ、ロー
ラ・ファーリンデン、オレリア・プティ、トビー・ジョーンズ、ヒレ・ペルル、
ハッサム・ガンシー、ナビア・アッカリ、フィリップ・デュ・ジャネラン
*角川シネマ有楽町ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://longride.jp/happyend/
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<ストーリー>
フランス北部の港町カレーの大邸宅に3世帯で暮らすロラン一家。家長のジョ
ルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は高齢のため引退し、娘のアンヌ
(イザベル・ユペール)が家業の建設業を継ぎ、アンヌの息子ピエール(フラ
ンツ・ロゴフスキ)は専務を任されていた。一方、アンヌの弟トマ(マチ
ュー・カソヴィッツ)は医師として働き、若い妻と再婚していた。トマには前
妻との間に13歳になる娘エヴ(ファンティーヌ・アルデュアン)がいて、ある
事件をきっかけにロラン家にやって来る……。

<レビュー>
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問題を抱えた一家の暗部をえぐり出す心がざわつく映画
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人間の暗部を描き出し、観客を居心地悪くさせるミヒャエル・ハネケ監督の新
作。

冒頭に登場するのはスマホ画面の映像。13歳になるエヴという娘が、母親の洗
面風景を撮影しています。画面にはそれを実況する文字が打ち込まれます。そ
こから彼女が口うるさい母親を毛嫌いしていることがわかります。

続いてスマホがとらえるのはエヴのペットのハムスター。なんと彼女はそのハ
ムスターに精神安定剤を飲ませます。しかも、その様子を確認した上で、今度
は母親にまで秘かにそれを飲ませてしまいます。すでにここからハネケ監督の
居心地の悪い世界が展開されます。

こうして母親が入院することになったため、エヴはフランス北部の港町カレー
の大邸宅にやってきます。そこにはロラン一家が3世帯で暮らしています。家
長のジョルジュは高齢のため引退し、娘のアンヌが家業の建設業を継ぎ、アン
ヌの息子ピエールは専務を任されています。一方、アンヌの弟トマは医師とし
て働き、若い妻と再婚しています。そのトマと前妻との間に生まれたのがエヴ
です。

この一家が最初に映る食事風景からして、何やら不穏な感じがします。どう考
えてもみんな何やらどす黒いものを抱え、家族らしい心の通い合いなど皆無。

まもなく各自が抱えた秘密や問題が見えてきます。アンヌはやり手の経営者で
すが、あまりにも頼りない専務の息子ピエールに手を焼いています。建設現場
で起きた事故をきっかけに、両者の確執が表面化します。

家長のジョルジュは認知症気味で、ある晩、勝手に車を運転して出かけ、事故
を起こしてしまいます。それをきっかけに強い自殺願望を抱くようになります。
エヴの父親のトマにも、人には言えない秘密があります。

ロラン家の人々の闇を見つめるエヴ自身も、心に闇を抱えています。それが思
わぬ事態を招き、ますます心の暗黒を広げていきます。

ハネケ監督の視点は、相変わらず冷徹。被写体と距離を置いて、彼らの心の暗
部をスクリーンに刻み付けます。そうやって描かれる人間の暗部を通して、観
客それぞれが様々なことに思いを馳せるように仕向けます、家族とは、愛情と
は、老いることとは、そして人生とは……。

ラストシーンのジョルジュとエヴによる死の共振も、心をざわつかせます。タ
イトルの「ハッピーエンド」があまりにも皮肉。そして、静かな海と地平線が
ますます居心地を悪くさせるのでした。

ハネケ映画ではおなじみのイザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニ
ャンやマチュー・カソヴィッツはじめ実力派キャストの演技はさすがですが、
エヴを演じたファンティーヌ・アルデュアンの演技も堂々たるものです。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(87点)

                                 (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2018年3月4日(日)角川シネマ有楽町にて。午後3時10分の回


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