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愛しのアイリーン
（2018年 日本）（上映時間2時間17分）
監督・脚本：吉田恵輔
出演：安田顕、ナッツ・シトイ、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠
治、品川徹、田中要次、伊勢谷友介、木野花
＊TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
ホームページ http://irene-movie.jp/
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＜ストーリー＞
地方の寒村のパチンコ店で働く宍戸岩男（安田顕）。42歳でいまだ独身の彼は、
年老いた母・ツル（木野花）と認知症気味の父・源造（品川徹）と暮らしてい
た。岩男は、同僚のシングルマザーの愛子（河井青葉）に好意を持つが失恋し、
それをきっかけに姿を消す。そんな中、父の源蔵が急死し葬儀が営まれる。そ
の場に現れた岩男は、フィリピン人の嫁アイリーン（ナッツ・シトイ）を連れ
ていた。岩男はフィリピンで嫁探しツアーに参加していたのだ。だが、母のツ
ルは、溺愛していた息子がいきなりフィリピン人を嫁にしたことが許せなかっ
た……。
＜レビュー＞
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愛のない結婚が招く暴走と人間存在の複雑さ
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新井英樹の漫画を『ヒメアノ〜ル』『犬猿』の吉田恵輔監督が映画化しました。
舞台は地方都市の寒村。主人公は、パチンコ店で働く宍戸岩男。42歳。いまだ
独身の彼が失恋をきっかけに、フィリピンの嫁探しツアーに参加して、フィリ
ピン人嫁のアイリーンを連れてきたことから騒動が巻き起こります。岩男を溺
愛していた年老いた母・ツルは、突然現れたフィリピン娘を歓迎するはずもな
く、なんと岩男の父・源蔵の葬儀の場で猟銃を持ち出し、「自分かこの娘か、
どちらかを撃て！」と岩男に迫るのです。
この映画の登場人物はダメ人間ばかり。中でも、ヒゲ面、無表情、無口、内気
な岩男は見るからにダメ人間。岩男を溺愛するあまり暴走するツルも、これま
たダメ人間です（木野花の鬼気迫る演技には圧倒されるばかり）。こうしたダ
メ人間たちの本音丸出しの破天荒な行状が、渇いた笑いを生み出していきます。
というわけで、前半はコメディー色の強い展開。そんな中、愛のない結婚をし
た岩男とアイリーン、嫁を毛嫌いするツル。彼らがやがて一つの家族になる様
子が描かれる・・・のかと思ったら大間違い。後半に待っていたのは驚きの展
開です。
後半の鍵を握る存在がヤクザの塩崎。アイリーンに近づいた彼は、ツルと結託
して悪事を働きます。そこからは、バイオレンスに満ちた荒々しい展開に突入。
岩男とアイリーンはある種の共犯関係となり、それが二人の距離を縮める皮肉
な様相を呈します。凄まじいエネルギーが登場人物の暴走を加速させていきま
す。心に闇を抱えた岩男は欲望のままに暴走。それを目の当たりにしたアイ
リーンとの憎しみあいが渦を巻き、ついに衝撃的な出来事が・・・。
後半は毒々しさが全開。ただし、暴走の果てに訪れるのは美しいクライマック
ス。「姥捨て」の話を使った雪上でのシーンでは、アイリーンとツル、それぞ
れの思いが伝わってきて思わずグッときてしまいました。
これは紛れもなく風変わりな夫婦のラブストーリーです。ひたすら女が欲しか
った岩男と金が欲しかったアイリーン、お互いの欲望がもたらした愛のない結
婚。それが波乱と暴走の果てに、思わぬ形の愛に転化します。岩男の母ツルと
アイリーンもまた、憎しみあいの果てに、意外な形で心を通わせます。
そうしたドラマを通じて感じるのは人間存在の複雑さです。岩男とツルをはじ
めダメ人間のオンパレードではあるものの、彼らを簡単に断罪することはでき
ません。なぜなら、いずれの登場人物も多面的な表情を見せるからです。例え
ば、岩男のダメさの根底には真面目さや純情さがあります。その裏返しが後半
の暴走です。
岩男に対して異常なほどの愛情を示すツルも同様です。ラスト近くで、彼女が
どうしてそんな母親になったのかが描かれます。それを見れば、ツルが根っか
らの悪人ではないことがわかります。
それ以外の人物も含めて、単純な善悪を超えた多面的な存在としての人間が描
かれます。「これでもか！」と人間の暗部を見せつけられても、目を背けるこ
とができないのはそのせいでしょう。岩男やアイリーン、ツルらに共感はでき
なくても、「それも人間なのだなぁ」と納得させられるのです。それがこの映
画の見どころかもしれません。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年9月16日（日）シネクイントにて。午後1時の回
[「い」のページ]
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