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心と体と（TESTROL
ES LELEKROL）
（2017年 ハンガリー）（上映時間1時間56分）
監督・脚本：イルディコー・エニェディ
出演：アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、
エルヴィン・ナジ、ゾルターン・シュナイダー、タマーシュ・ヨルダーン、イ
タラ・ベーケーシュ
＊新宿シネマカリテほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/
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＜ストーリー＞
ハンガリーのブダペスト郊外の食肉処理場で代理職員として働く若い女性マー
リア（アレクサンドラ・ボルベーイ）。コミュニケーションが苦手な彼女は職
場になじめず、孤独な日々を送っていた。片手が不自由な上司の中年男性エン
ドレ（ゲーザ・モルチャーニ）は、彼女のことを気にかけていたが、不器用な
２人の間には終始気まずい空気が漂っていた。そんなある日、社内で盗難事件
が発生し、全従業員が精神分析医のカウンセリングを受けることになる。する
とマーリアとエンドレが同じ鹿の夢を見ていることがわかる。それをきっかけ
に2人は急接近するのだが…。
＜レビュー＞
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神秘的で詩情にあふれた孤独な男女のロマンス
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長編デビュー作『私の20世紀』でカンヌ国際映画祭カメラドール（最優秀新人
監督賞）を受賞したハンガリーのイルディコー・エニェディ監督が、何と18年
ぶりに発表した長編映画。2017年の第67回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊
賞をはじめ4部門に輝きました。
孤独な男女のラブストーリーですが、それを独特の世界観で描いています。舞
台は現代。しかし、どこか神秘的で詩情にあふれた寓話的な世界です。
最初に映るのは冬の森の中で出会うオス鹿とメス鹿。この2頭の鹿の映像は、そ
の後も何度も登場します。
続いて場面は変わってハンガリーのブダペスト郊外にある食肉処理場。そこに
産休の食肉検査官の代理として、マーリアという若い女性がやってきます。彼
女はコミュニケーションが苦手で職場になじめず、孤独な日々を送っています。
そんな彼女のことを気にかけるのが、片手が不自由な上司の中年男性エンドレ。
かつては家族がいたようですが、今は人生も恋愛もあきらめているようです。
エニェディ監督は、そんな2人の孤独な日常を等身大で描いていきます。大仰な
描写や派手な仕掛けは何もありません。にもかかわらず、それぞれの心の孤独
がひしひしと伝わってきます。特に何事にも無表情を通して、感情を表に出さ
ないマーリアが印象的。光を巧みに使った映像も見逃せません。
やがてある出来事をきっかけに、2人は距離を縮めます。工場の薬品が盗まれ、
その犯人捜しのために、全従業員が精神分析医のカウンセリングを受けること
になります。その中で、マーリアとエンドレは、なぜか2人とも毎晩同じ夢を見
ていることに気づきます。それは冒頭に登場した2匹の鹿の夢。メス鹿はマーリ
ア、オス鹿はエンドレというわけです。
こうして夢の中で鹿となって恋愛していた2人は、現実世界でも距離を縮めてい
きます。そこで、マーリアが次第に変化していく描写が絶品。相変わらず大き
くは表情を変えない彼女ですが、ほんのわずかな表情や行動の変化を見せます。
その微妙な変化が彼女の恋心を端的に表現します。特に、マーリアが人形を使
ってままごとをするシーンが面白い。彼女の恋愛感情の高まりを見事に表現し
ています。
しかし、恋愛経験のないらしいマーリアだけに、なかなか前には進めません。
おまけに、マーリアには潔癖症で、他人と肉体的接触を持つことに恐怖を感じ
ています。それを克服するために、マッシュポテトや食肉処理を待つ牛など、
いろいろなものを触ります。さらにぬいぐるみを買ってきて一緒に寝たり、公
園でカップルをじろじろ観察するなど、珍妙でほほえましい行動が笑いを誘い
ます。
冷徹だったりシニカルな描写もあります。食肉処理場が舞台ということで、血
にまみれた牛の解体シーンなども登場。そうした異質な様々な要素が違和感な
く溶け込んでいます。
終盤には波乱が待っていますが、ラストは温かな温まりを感じさせます。鹿の
消えた森が静かな余韻を残してくれます。
アーリアの複雑な心理を繊細な演技で披露したアレクサンドラ・ボルベーイの
見事な演技が必見。エンドレを演じたゲーザ・モルチャーニの渋い演技も味が
あります。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（89点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年4月15日（日）池袋シネマ・ロサにて。午後1時35分の回
[「こ」のページ]
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