|
ラブレス（NELYUBOV）
（2017年 ロシア・フランス・ドイツ・ベルギー）（上映時間2時間7分）
監督・脚本：アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演：マリヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン、マトヴェイ・ノヴィ
コフ、マリーナ・ヴァシリヴァ、アンドリス・ケイス、アレクセイ・ファテ
ィーフ、セルゲイ・ボリソフ、ナタリア・ポタポヴァ
＊新宿バルト9ほかにて全国公開
ホームページ http://loveless-movie.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
一流企業で働くボリス（アレクセイ・ロズィン）と美容サロンを経営するジ
ェーニャ（マリヤーナ・スピヴァク）は離婚協議中の夫婦。2人にはすでにそれ
ぞれ別々のパートナーがいて、一刻も早く新生活を始めたいと考えていた。12
歳の息子アレクセイをどちらが引き取るかで言い争い罵り合う2人。そんな中、
学校に行ったはずの息子がそのまま行方不明になってしまう……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
子供の失踪事件を通して見える愛の不在
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『父、帰る』『裁かれるは善人のみ』などで世界的に評価の高いロシアのアン
ドレイ・ズビャギンツェフ監督による2017年のカンヌ国際映画祭審査員賞受賞
作です。
冒頭で最初に映る冬の森の風景。凍てついた寒々としたその映像が、映画全体
の空気感を支配します。それ以降も、隅々まで計算された詩的で緊張感にあふ
れたショットが次々に登場します。
その森を通るのが、学校帰りの12歳の少年アレクセイ。両親は一流企業で働く
ボリスと美容サロンを経営するジェーニャ。2人は離婚協議中で口論ばかりして
います。2人にはすでにそれぞれ別々のパートナーがいて、一刻も早く新生活を
始めたいのですが、まだ家が売れないために同居を続けています。
2人の目下の最大の問題は、アレクセイをどちらが引き取るか。そのことについ
て、激しく言い争い罵り合います。「自分が引き取る」と言って譲らないので
はなく、新生活に邪魔だから「そちらが引き取れ」と押しつけ合っているので
す。アレクセイはそれを聞いて涙を流します。
その直後、学校に行ったはずのアレクセイが行方不明になってしまいます。さ
すがに両親は警察に通報しますが、多忙な警察は「事件性が確認できない以上
すぐには動けない」と言って、ボランティアの人々に頼ることを勧めます。ロ
シアでは警察に代わって（時には協力しながら）、こうしたケースに積極的に
関わるボランティア団体が活躍しているようです。
ボランティア団体は、夫婦の自宅マンションの周辺を捜索し、さらに同級生か
らの情報に基づいて廃墟となったビルの内部を捜しますが、アレクセイは見つ
かりません。
このドラマは、息子の失踪によって変化する両親の心理を描き出します。とい
っても、安直に夫婦の愛が再生するようなことはありません。混迷する捜査と
同様に、両親の心理も迷走し複雑な様相を呈するようになります。
全体を貫くのは、タイトルにもある「愛の不在」。ボリスもジェーニャも、息
子のアレクセイへの愛を失っています。それが息子の失踪によって変わるかと
いえば、そんな単純なことにはなりません。
もちろんボリスとジェーニャとの夫婦愛もとうに失われています。また、一見
仲睦まじそうな、2人と新たなパートナーとの間も、ひと皮むけば何やら危うげ。
前半でそれぞれのカップルのベッドシーンが、けっこう長目に描かれるのです
が、そこにズビャギンツェフ監督の懐疑的な視線を感じてしまいます。「お前
ら、そんなに仲良くしてるけど、ホントは脆い関係なんじゃないの？」と。
アレクセイは無事に見つかるのか。その答えは明確には提示されません。ある
ことに対するボリスとジェーニャの反応から、観客それぞれが推し量るしかあ
りません。
それでも、その後の後日談が心を直撃します。数年後に新生活を始めているボ
リスとジェーニャ。背後に流れるのはウクライナ紛争をめぐる混乱を報じるニ
ュース。それを通して、ボリスとジェーニャだけでなく、世界中から愛が消え
てしまっている現状が突きつけられます。
単なる一家族のドラマを超越した深みのあるドラマになっていると思います。
幸せや愛についての重たい問いかけが残る映画です。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（87点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年4月7日（土）YEBISU GARDEN CINEMAにて。午前11時の回
[「ら」のページ]
|
|