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ラッキー（LUCKY）
（2017年 アメリカ）（上映時間1時間28分）
監督：ジョン・キャロル・リンチ
出演：ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リヴィン
グストン、エド・ベグリー・Ｊｒ、トム・スケリット、ジェームズ・ダーレン、
バリー・シャバカ・ヘンリー、ベス・グラント、イヴォンヌ・ハフ・リー、ヒ
ューゴ・アームストロング
＊新宿シネマカリテほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://uplink.co.jp/lucky/
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＜ストーリー＞
神など信じずに生きてきた90歳の男ラッキー（ハリー・ディーン・スタント
ン）。ひとりで暮らす部屋で目覚めると、コーヒーを飲みタバコをふかし、ヨ
ガのポーズをする。その後は行きつけのダイナーに出かけ、店主のジョーと無
駄話をかわし、クロスワード・パズルを解く。そして夜はなじみのバーで酒を
飲む。そんな中、ある朝、突然気を失ったことをきっかけに、自らの人生の終
わりを意識し始めるのだが……。
＜レビュー＞
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ハリー・ディーン・スタントンが見せた最後の存在感
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『エイリアン』（1979年）、『パリ、テキサス』（1984年）などで知られる個
性派俳優のハリー・ディーン・スタントン。2017年9月に他界した彼の最後の主
演作です。
主人公の90歳の男ラッキーは、ひとり暮らし。一度も結婚したことがなく、家
族もいないとのこと。毎朝、彼は目覚めるとコーヒーを飲み、タバコをふかし、
ヨガのポーズをします。身支度をすると行きつけのダイナーに出かけて、店主
のジョーと無駄話をかわし、クロスワード・パズルを解きます。
その後、彼は帰宅途中にある場所にさしかかると「クソ女め」とつぶやきます。
いつもの店でタバコや牛乳を買った後は自宅に戻り、クロスワード・パズルを
解きながら、テレビのクイズ番組を見ます。そして夜になると、なじみのバー
へ行き、カクテルを飲み店主や客と会話をします。
こんなふうにルーティンの毎日を送るラッキー。ほとんど表情を変えず、見る
からに偏屈で不愛想な老人ですが、けっして孤独ではありません。行きつけの
店の人々をはじめ、町の人々は彼のことをよく知っており、気軽に話しかけま
す。老人だからと余計な気遣いを見せることもなく、お互いに減らず口を叩き
合ったりして、ごく自然に接しています。その様子がとても微笑ましくて、温
かな心持ちになってきます。
ところが、ある日、そのラッキーが倒れてしまいます。医者はどこにも異常が
なく、加齢によるものだと説明します。そのことがきっかけで、ラッキーは自
らの人生の終わりを意識し始めます。
ありがちなドラマなら、そこで別れた家族や友人が突然登場して、ラッキーを
癒してくれるかもしれません。しかし、ラッキーは相変わらずルーティンの毎
日を送るだけです。
そんな中、ラッキーの知人の男（映画監督のデヴィッド・リンチが好演）は可
愛がっているリクガメに遺産相続させようとします。それを任された弁護士は
ラッキーに自らが死にかけた過去を話します。ダイナーのウェイトレスはラッ
キーを心配して家を訪ねてきます。ラッキーは子どもの頃に怖かった暗闇の話
をします。ラッキーと同様に第二次世界大戦に従軍した元軍人の老人は、沖縄
戦で自決を前にした日本人少女の話を語ります。
一つ一つは地味で無関係そうなそれらのエピソードを通して、ラッキーの迷い
の深さとそれが少しずつ解きほぐされていく様子が、ごく自然に描かれていま
す。
極めつけは、ラッキーがいつも買い物に行く店の女性から招待された、彼女の
息子の誕生祝いのシーン。ラッキーは味のある歌声でメキシコの歌を披露しま
す。そこで見せる彼の笑顔が心に染みます。
笑顔のシーンは最後にも用意されます。いつものバーでいつもの偏屈さを見せ
た後に、最上の笑顔を披露するラッキー。それはまさに、彼がすべてをありの
ままに受け入れる覚悟をしたことを示しているのでしょう。
それにしても、ハリー・ディーン・スタントンの存在感ときたら。ほんのわず
かな表情の変化で多くのことを物語るその演技が圧巻です。観終わって温かく、
しみじみとした心持ちになることができました。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年3月26日（月）新宿シネマカリテにて。午後2時5分の回
[「ら」のページ]
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