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ナチュラルウーマン（UNA MUJER FANTASTICA）
（2017年 チリ・ドイツ・スペイン・アメリカ）
監督：セバスティアン・レリオ
出演：ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ、アリ
ン・クーペンヘイム、ニコラス・サベドラ
＊新宿シネマカリテほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://naturalwoman-movie.com/
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＜ストーリー＞
ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌うマリーナ（ダニエラ・ヴェガ）。
年の離れた恋人オルランド（フランシスコ・レジェス）と幸せな日々を送って
いたが、ある日突然オルランドが自宅で倒れ、そのまま亡くなってしまう。悲
しみに暮れるマリーナだったが、トランスジェンダーというだけで警察からあ
らぬ疑いをかけられ、遺族によってオルランドと暮らしていた部屋を奪われ、
葬儀への参列も拒否されてしまう……。
＜レビュー＞
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愛する人の死を通して直面する自分探し
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『グロリアの青春』で知られるセバスティアン・レリオ監督が、トランスジェ
ンダーの歌手ダニエラ・ベガをヒロインに迎えて描いた作品。
オープニングに映る雄大なイグアスの滝の風景。そこを訪れようと計画してい
たのが、ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌うマリーナと、年の離れた
恋人オルランドのカップル。
ちょうどマリーナの誕生日で、オルランドは食事とダンスでお祝いをします。
まさに幸せの絶頂。だが、まもなくオルランドは自宅で倒れ、病院に連れて行
ったものの、そこで亡くなってしまいます。
マリーナはトランスジェンダー。そのため様々なトラブルが降りかかります。
オルランドは死の直前に階段から転落して傷があったため、警察は2人の間に何
かあったのではないかと考え、マリーナにあらぬ疑いをかけます。表面的には
女性警察官が「私はあなたの味方」などというのですが、そこにはトランスジ
ェンダーに対する偏見が見え見えです。
一方、家族との間でもトラブルが起きます。マリーナはオルランドと暮らして
いた部屋からすぐに出て行くように告げられ、葬儀への参列も拒否されてしま
います。
オルランドはマリーナが原因で妻と離婚しています。元妻は、あくまでも「夫
を別の女に奪われた妻」であり、トランスジェンダーに対する偏見などないよ
うに振る舞います。だが、こちらもその言動の端々からマリーナをさげすみ、
差別していることがうかがえます。さらにオルランドの息子に至っては差別を
隠そうともしません。
オルランドの弟のように、マリーナに理解のある人物もいますが、それはあく
までも少数派。そうした冷たい仕打ちに対して、マリーナは、憤り、悲しみ、
苦しみ、絶望します。そうした彼女の心理をセバスティアン・レリオ監督は繊
細に表現します。セリフ以外の彼女の表情や行動で、それを描写していきます。
南米の映画にはよく見られますが、現実と非現実が併存しているのもこの映画
の特徴。様々なトラブルに遭い、逆境を強いられたマリーナの状況を表現する
のに、現実にはあり得ないような暴風を彼女に浴びせるシーンは、その代表例。
クラブで演じられる幻想的なミュージカル・シーンなどもあります。
何よりも面白いのは、死んだはずのオルランドが何度も彼女の前に登場すると
ころ。まるでゴースト映画のような場面です。
サスペンス的な要素もあります。オルランドがサウナのロッカーに何かを隠し
たのではないかという謎が、ドラマが進むにつれて膨らみます。マリーナがト
ランスジェンダーの特徴を生かして、その謎を追求するシーンはなかなかスリ
リングです。
マリーナは、周囲から「お前は何者だ？」と問われ、自分自身も「私は何者な
の？」と答えに困っています。マリーナが鏡を見る場面が何度か登場します。
それはまさに、自分が何者かを探し求める彼女の姿勢の表れです。
それが、オルランドの死によって降りかかった様々なトラブルを通して、次第
に明確な結論へと到達していきます。「私は人間」であり、何よりも「私自身
なのだ」と。つまり、このドラマはマリーナのアイデンティティ獲得のドラマ
なのです。
それを象徴するように、マリーナはラストで神々しいまでの歌声を披露します。
その歌声から、すべての迷いを吹っ切り、自分らしく生きることを選択したマ
リーナの強い意思が伝わってきます。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年4月18日（水）シネスイッチ銀座にて。午後7時10分の回
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