オー・ルーシー!(OH LUCY!)


●『オー・ルーシー!』(OH LUCY!)
(2017年 日本・アメリカ)(上映時間1時間35分)
監督:平柳敦子
出演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネット
*テアトル新宿ほかにて公開
ホームページ http://oh-lucy.com/
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<ストーリー>
43歳の独身OLの節子(寺島しのぶ)は、ひょんなことから姪の美花(忽那汐
里)に頼まれ、英会話教室に通うことになる。そこで風変わりな講師ジョン
(ジョシュ・ハートネット)と出会い、金髪のかつらをかぶらされて、「ルー
シー」と名付けられる。最初は戸惑う節子だったが、すぐにジョンに恋心を抱
くようになる。ところがジョンは、美花と一緒にアメリカへ帰ってしまう。ど
うしても彼のことが忘れられない節子は、姉である美花の母・綾子(南果歩)
とともに2人を追ってアメリカへ向かうのだが……。

<レビュー>
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リアルで笑えるダメOLの恋の暴走
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第67回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門(学生部門)で上映された平
柳敦子監督による桃井かおり主演の短編映画「Oh Lucy!」。それを平柳監督が
自ら長編化しました。

主人公は退屈で憂鬱な日々を送る43歳の独身OLの節子。ひょんなことからメ
イド喫茶で働く姪の美花に頼まれて、英会話教室に通うことになります。そこ
で風変わりな講師ジョンと出会った節子は、彼に恋心を抱きます。

節子を演じるのは寺島しのぶ。今さらですが、相変わらず素晴らしい演技を見
せてくれます。疲れた顔で駅で通勤電車を待ち、暗い顔で会社のデスクに座り、
物にあふれた乱雑な自分の部屋で暮らす。これからの展望も夢もない節子の現
状が、リアルに伝わってくる演技です。

そして、この映画には笑いがタップリ。何しろ節子が足を運んだ英語教室が怪
しすぎます。風俗店のようなインテリア。受付の女も謎だらけ。そして極めつ
けは、ジョンの指導法です。節子は、金髪のかつらをかぶらされて、「ルー
シー」と名付けられます。にこやかな表情をつくるために、口にピンポン玉の
ようなものを突っ込まれます。そうしたシーンがいちいち笑いを誘います。

そんな中でも、節子がジョンに恋心を抱くところが説得力を持って描かれます。
ハグ魔だというジョンにハグされた時の恍惚の表情ときたら、それだけで彼女
の凍りついた心が急速に溶けていくのがわかります。

ジョンを好きになってウキウキになった節子。しかし、すぐに驚愕の事実が発
覚。なんとジョンは、美花と一緒にアメリカへ帰ってしまったのです。

それを知った節子がヤサグレるシーンも面白いところ。ちょうど会社の先輩が
退職することになり送別会が行われるのですが、そこで彼女は先輩を思いっき
りこき下ろします。それはジョンがいなくなったショックと同時に、自分もま
もなくこの先輩のように、ポイと会社から捨てられるという苛立ちも含んだ言
動でしょう。

それでもジョンが忘れられない節子は、唐突に彼と美花を追ってアメリカに渡
ろうとします。そこには節子の姉である美花の母・綾子も、ついてくることに
なります。実は、この2人、過去にいろいろとあって険悪な関係。となれば、当
然すったもんだの面倒臭い旅になります。そこに笑いが生まれるのと同時に、
複雑な人間模様も見えてきます。綾子を演じる南果歩も絶品の演技です。

アメリカに着いた2人はジョンに会いに行くものの、すでに彼は美花と別れてい
たため、3人はレンタカーを借りて美花がいるらしい場所へと向かいます。

そのあたりからは、ジョンと美花の恋愛模様、そして節子と綾子の屈折した姉
妹関係が描かれます。そこでの節子の暴走ぶりがすごい。最初はジョンと距離
を置いているのですが、途中からブレーキの壊れた車のように突き進みます。
しかし、それもまた人間らしさを感じさせるから、けっして彼女を嫌いにはな
れません。

終盤、美花が現れてからドラマは急展開を見せます。節子の暴走が人を傷つけ、
帰国後は自身にも不幸が襲いかかる節子。しかし、そこである人物が登場して
……。

というわけで、ラストにはそこはかとない希望が感じられます。その人物を演
じたのは役所広司。これまたさすがの演技です。つくづく名優たちの良さを余
すところなく引き出した映画です。正直なところ、唐突だったり、十分に描き
きれていないところもあるように思える作品ですが、それでも平柳監督の才能
はしっかりと感じ取れました。

この映画に登場するのは、節子をはじめみんな心に傷を抱えたり、疲れた人生
を送っている人々。そうした人たちを包む温かな視線が、何よりも心地よい余
韻を残してくれる作品です。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(86点)
                            (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2018年5月1日(火)テアトル新宿にて。午後2時30分の回


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