|
ファントム・スレッド（PHANTOM THREAD）
（2017年 アメリカ）（上映時間2時間10分）
監督・脚本：ポール・トーマス・アンダーソン
出演：ダニエル・デイ＝ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴ
ィル、カミーラ・ラザフォード、ジーナ・マッキー、ブライアン・グリーソン、
ハリエット・サンソム・ハリス、ジュリア・デイヴィス、フィリス・マクマー
ン、サイラス・カーソン、リチャード・グレアム
＊シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開
ホームページ http://www.phantomthread.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
1950年代のロンドン。英国ファッション界の中心的存在として社交界から脚光
を浴びる天才的仕立て屋のレイノルズ・ウッドコック（ダニエル・デイ＝ルイ
ス）。ある日、彼は若いウェイトレスのアルマ（ヴィッキー・クリープス）に
出会い、彼女を新しいミューズとして迎え入れる。彼女のモデルとしての"完璧
な身体"にインスピレーションを得て、次々にドレスをつくるレイノルズ。だが、
アルマはレイノルズの態度に不満を募らせていく……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
デザイナーとミューズのゆがんだ愛の行き着く先は
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オートクチュールのトップデザイナーと彼のミューズを描いた愛のドラマ。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』のポール・トーマス・ア
ンダーソン監督が、変わった魅力を持つ作品に仕上げています。
1950年代のロンドンが舞台。主人公は、英国ファッション界の中心的存在とし
て社交界から脚光を浴びる天才的仕立て屋のレイノルズ。最初に彼が登場する
シーン。ただヒゲをそったり、身支度をしているだけなのに、そこから早くも
彼の人となりが伝わってきます。
レイノルズは、有能で仕事はできるが神経質で自己中心的で気難し屋。そして、
彼のそばには姉のシリルが常にいて、雑事を一手に取り仕切っています。同時
に、結婚に縛られたくないレイノルズは独身ですが、仕事のミューズとして若
い女性をそばに置いています。しかし、時間が経てば熱が冷めるのは自明の理。
今も一人の女性に飽きて、シリルが彼女とサヨナラさせる算段をしています。
そんな時に出会ったのが、アルマという女性。朝食を食べるために入ったレス
トランでウェイトレスをしていた彼女に、レイノルズは心を奪われてしまいま
す。その時のレイノルズの満面の笑みときたら。普通の役者が演じたら、ただ
の女たらしですが、何しろ演じているのは『マイ・レフトフット』『ゼア・ウ
ィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』で3度のアカデミー主演男優賞を受賞し
ている名優ダニエル・デイ＝ルイス。アルマと注文のメニューについて話して
いるだけなのに、それが2人の恋心をそのまま表してしまいます。
レイノルズがアルマのドレスを採寸するシーンも、なまじのキスシーンやベッ
ドシーンなどよりも、2人のロマンスを盛り上げます。官能的で、美しいシーン
です。
アルマはレイノルズの新しいミューズとなり、彼の家に住むようになります。
最初はお互いにラブラブな関係ですが、過去のミューズ同様に次第に関係がギ
クシャクしだします。朝食の時にアルマが大きな音を立てるのが癇に障るレイ
ノルズ。彼の自己中の根底には絶対に譲れない美意識や、厳格な生活のルール
があります。それを侵すものは誰であろうと容赦なく否定します。
こうしてアルマもまた、過去のミューズ同様に捨てられるのかと思いきや、お
っとどっこい。そうはなりません。アルマは敢然とレイノルズと闘うのです。2
人がバトルを繰り広げる場面では、両者がバチバチと火花を飛ばします。
ここで感心するのは、アルマを演じたヴィッキー・クリープス。名優ダニエ
ル・デイ＝ルイスを相手に一歩も引けをとらない演技です。
その後は、アルマが仕掛けた攻撃が誰の侵略も許さなかったレイノルズの領域
を侵略し、彼をぼろぼろにします。レイノルズの愛がゆがんだ愛なら、アルマ
の愛もゆがんだ愛。ゆがんだ愛同士の対決です。ただし、そこで2人が心に抱え
る思いは、観客の誰かが抱いてもおかしくないもの。それゆえ、愛の困難さ、
怖ろしさ、哀しさがリアルに伝わってきます。
この作品を愛についての深いドラマに昇華させている原因は、クラシック音楽
を中心にした格調高い音楽、そしてオートクチュールの世界を華麗に捉えたカ
メラワーク、ハリウッド黄金時代を意識したような映像にもあります。それら
も含めて観応え十分な作品です。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（89点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年6月11日（月）新宿武蔵野館にて。午前10時15分の回
[「ふ」のページ]
|