サバービコン 仮面を被った街(SUBURBICON)


(2017年 アメリカ)(上映時間1時間45分)
監督:ジョージ・クルーニー
出演:マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、ノア・ジュープ、オスカー・
アイザック、グレン・フレシュラー、アレックス・ハッセル、ゲイリー・バサ
ラバ、ジャック・コンレイ、カリマー・ウェストブルック、トニー・エスピノ
サ、リース・バーク
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
ホームページ http://suburbicon.jp/
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<ストーリー>
1950年代のアメリカ。アメリカン・ドリームを絵に描いたような明るく平和な
街サバービコン。そこに住むロッジ家では、父ガードナー(マット・デイモ
ン)、車いす生活を送る母ローズ(ジュリアン・ムーア)、幼い息子のニッ
キー(ノア・ジュープ)が暮らしていた。ある日、彼らの隣家に黒人一家が引
っ越してくる。初めての黒人住人に、周囲はにわかに騒然となっていく。そん
な中、ロッジ家に強盗が押し入り、ローズが亡くなってしまう。やがてローズ
の双子の姉マーガレット(ジュリアン・ムーア=二役)が、ニッキーの母親代
わりとなって面倒を見るようになるのだが……。

<レビュー>
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理想の街で起きた人種差別暴動と強盗事件
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映画監督としても活躍する俳優ジョージ・クルーニーの監督最新作。脚本は
『ノーカントリー』『ファーゴ』など数々の監督作でおなじみのジョエル&
イーサン・コーエン兄弟。ジョージ・クルーニーらも共同脚本として加わって
います。

舞台は1950年代のアメリカのサバービコン。この街がいかに理想的な街である
かが、冒頭に軽快かつ朗らかに紹介されます。最初に登場する郵便屋の満面の
笑顔が、この街の素晴らしさを体現しているようです。

しかし、その直後、彼の笑顔は凍りつきます。郵便を届けた先の住人は黒人。
この街は完全な白人だけのコミュニティー。そこに初めて黒人が移住してきた
のです。その日から、周囲はにわかに騒然となっていきます

どうやら、この一件は1950年代に実際に起きた人種差別暴動をモチーフにした
ようです。それならば、いきなり住民が黒人一家に牙をむくのではなく、最初
は「ウェルカム!」と大歓迎しつつも、少しずつその裏のどす黒い闇が見えて
くる……といった展開にしたほうがよかったかも。

ただし、この映画にはそんな余裕はないのでしょう。なぜなら、この人種差別
ネタに加えて、もう一つの事件が描かれるからです。それは、引っ越してきた
黒人一家の隣に住むロッジ家をめぐるあれこれ。

ロッジ家の家族は、仕事一筋の父ガードナー、車いす生活を送る母ローズ、幼
い息子のニッキー。そして、ローズには双子の姉マーガレットがいます。

ある日、そのロッジ家に強盗が入ります。強盗は、家族を縛ってクロロホルム
をかがせ意識を失わせます。ところが、クロロホルムの量が多かったことから、
ローズが亡くなってしまいます。やがてマーガレットが、ニッキーの母親代わ
りとなって面倒を見るようになります。

この事件、最初から怪しさが満点です。ガードナーを演じるマット・デイモン
の無表情さ、マーガレットを演じるジュリアン・ムーア(ローズと二役)のハ
ジケた演技からも、それが伝わってきます。事件後、警察が容疑者の面通しを
行うのですが、そこでのガードナーとマーガレットの態度から、事件の真の黒
幕は誰かがほぼわかってしまいます。

とはいえ、それがわかってからも興味が失われることはありませんでした。無
能を装いつつ事件の真相に迫っていく警察官。死んだローズにかけられていた
保険金をめぐって暗躍するクセモノの保険調査員(『インサイド・ルーウィ
ン・デイヴィス 名もなき男の歌』のオスカー・アイザックがいい味出してま
す)。こわもてだがオマヌケな実行犯の二人組。事件によって追いつめられる
ニッキーを守ろうとする叔父。そして、ガードナーとマーガレット。

そういうバラエティーに富んだ人々を、ブラックユーモアも交えつつ、シニカ
ルな視線で描いていきます。そのあたりは、いかにもコーエン兄弟が関わった
脚本らしいところ。1950年代らしい街並みや音楽の使い方なども見どころです。

ニッキーと隣家の黒人一家の息子との交流を描き、子供目線の描写をたくさん
取り入れているのもこの映画の特徴。それが大人たちの上っ面だけの理想や嘘、
欲望、本音などをより際立たせます。

終盤は怒涛の展開。人種差別暴動が最高潮に達する中で、強盗事件をめぐるあ
れこれも急展開を見せます。そのあたりの畳みかけ方は、スリリングでかなり
の恐さです。特に、ベッドの下に隠れたニッキーの目線で惨劇を描いたところ
のハラハラドキドキ感は、かなりのもの。

強盗事件の顛末は、かなりエグいホラー的世界ですが、ラストの少年たちのキ
ャッチボールに少しだけ救われた気がしました。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(84点)


                            (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2018年5月9日(水)TOHOシネマズ新宿にて。午前9時50分の回


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