素敵なダイナマイトスキャンダル

（2018年　日本）（上映時間2時間18分）
監督・脚本：冨永昌敬
出演：柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子、
中島歩、落合モトキ、木嶋のりこ、瑞乃サリー、政岡泰志、菊地成孔、島本慶、
若葉竜也、嶋田久作、宇野祥平
＊テアトル新宿ほかにて全国公開
ホームページ　http://dynamitemovie.jp/
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＜ストーリー＞
少年時代に、母・富子（尾野真千子）が隣家の息子とダイナマイトで心中した
末井昭（柄本佑）。高校卒業後に、工場に憧れて田舎を飛び出し大阪で就職す
るが、軍隊式の管理に嫌気がさして退社。その後上京し、工場勤務の傍らデザ
イン学校で学び看板会社へ就職。やがてキャバレーの看板描きなどの仕事を経
て、エロ雑誌の世界に足を踏み入れる。編集長として警察との攻防の末にエロ
雑誌の創刊・廃刊を繰り返すのだが……。

＜レビュー＞
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伝説のエロ雑誌編集長の破天荒な人生
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伝説的エロ雑誌編集長・末井昭の自伝的エッセイを基にした青春ドラマ。監
督・脚本は、「パビリオン山椒魚」「乱暴と待機」「南瓜とマヨネーズ」など
の冨永昌敬。一応、フィクションということになっていますが、実在の人物も
登場するなどかなり実際に近いと思われるドラマです。

全体に笑いどころが満載の作品。冒頭は、主人公・末井昭が警察から注意を受
けるシーン。松重豊演じる警察官が、エロ写真について具体的にどこがわいせ
つか指摘を行い、それに末井が低姿勢で対応。そのやり取りが実にユーモラス
です。

ところが、その後は場面が一転。末井の少年時代の出来事。彼の母・富子は結
核を病み、家出した挙句、隣家の息子とダイナマイトで心中してしまいます。
散らばった二人の肉体を人々がかき集める壮絶な場面が描かれます。この事件
が、末井の人生に大きな影響を与えたことを冨永監督は強調します。

この事件を機に、田舎にいづらくなった末井は、高校卒業後に工場に憧れて大
阪で就職。しかし、そこの軍隊式管理に嫌気がさして退社。その後は川崎の工
場に勤めていた父を頼って上京し、工場勤務の傍らデザイン学校で学び看板会
社へ就職します。

やがて末井はキャバレーの看板描きなどの仕事を経て、エロ雑誌のイラストを
描くようになり、そこからエロ雑誌の世界に足を踏み入れます。表紙デザイン、
レイアウト、取材、撮影、漫画と、あらゆる仕事をしながら、編集長としてエ
ロ雑誌を創刊。雑誌は軌道に乗りますが、その頃から警察とのバトルが始まり
ます。

この映画で感心するのは時代のとらえ方。高度経済成長期、学生運動の時代、
バブル時代など末井の活動の背景になった時代が、巧みに描き込まれます。特
に、若き日の彼が影響を受けた反権力の時代やサブカル全盛期の描き方が印象
的。当時の人気ラジオ番組をそのまま登場させるなど、若者たちの間に浸透し
ていたカルチャーもあちこちに登場させています。

末井はそうした世相に影響されて、前衛アートなどに入れ込み、ひたすらとん
がって生きようとします。彼が全身に赤ペンキを浴びてストリーキングに及ぶ
シーンなど、まさに当時の時代性を象徴した行動でしょう。末井が創刊したエ
ロ雑誌では、単にエロだけでなく有名な物書きによる文章をはじめ、多様なネ
タを取り上げていますが、これまたサブカル時代ならではの現象。

エロ雑誌編集部のディテールも面白いところ。テレホンセックスをでっち上げ、
編集部にたくさんの女性を集めて読者の相手をさせるシーンは爆笑モノ。「絶
対に脱がない」という女性を巧みに脱がせようとする丁々発止の攻防もユーモ
ラス。そこで活躍するのがミュージシャン菊地成孔が扮した荒木さん。そう。
写真家・荒木経惟です。

こうして成功を手にした末井の人生ですが、そこにはやはり影の部分もありま
す。妻の牧子がいながら、家庭生活に充たされないものを感じ、あまりにもス
トレートな感情で別の女性に走ります。

かなりの金を稼ぎながら、それを怪しい投資につぎ込んでしまうあたりの行動
も、何やら危うい感じ。それらは彼の貪欲さゆえの行動なのか、それとも幼少
時のトラウマのなせる業なのか。

終盤になって、やはりあの母のダイナマイト心中事件が彼の人生に大きな影響
をもたらしたこと、そして葛藤の果てに彼なりの一つの納得に至ったことが描
かれます。やはり冨永監督は、良くも悪くも、あの事件こそが彼の人生の原点
であると考えているようです。

あまりにもぶっ飛んだ人生なので、そちらの面白さに気をとられてしまいがち
なこともあり、末井の心の内面に深く迫るところまでは行っていない気がしま
す。それでも、破天荒な男の人生を、その時代背景とともに楽しめる映画なの
は間違いありません。末井役の柄本佑のなりきりぶり、牧子役の前田敦子の独
特の魅力も見もの。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆
（84点）


〔鑑賞データ〕
2018年3月24日（土）シネマ・ロサ池袋にて。午前11時45分の回

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