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鈴木家の嘘
（2018年 日本）（上映時間2時間13分）
監督・脚本：野尻克己
出演：岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、吉本菜穂子、宇野祥平、山岸
門人、川面千晶、島田桃依、金子岳憲、政岡泰志、岸本加世子、大森南朋
＊新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開
ホームページ http://www.suzukikenouso.com/
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＜ストーリー＞
長年引きこもり生活を送っていた鈴木家の長男・浩一（加瀬亮）が、ある日突
然、自ら命を絶つ。母の悠子（原日出子）はショックのあまり意識を失う。四
十九日ぶりに目を覚ました悠子は、記憶を失い浩一が亡くなったことを覚えて
いない。娘の富美（木竜麻生）はとっさに「お兄ちゃんは引きこもりをやめて、
アルゼンチンでおじさんの仕事を手伝っている」と嘘をつく。父の幸男（岸部
一徳）もこの嘘に加担し、必死にアリバイ作りを始めるのだが……。
＜レビュー＞
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母に嘘をつく父と娘。笑いにまぶして家族を描く
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引きこもりだった青年が自死してしまう。遺された家族はどうなるのか……。
とくれば、暗く重たい映画になるのは必至でしょう。しかし、この映画はその
予想を見事に裏切ってくれます。
いきなりショッキングなシーンから映画は始まります。父・幸男、母・悠子、
長男・浩一、長女・富美の4人家族の鈴木家。そのうち長年引きこもりを続けて
いた光一が、自分の部屋で首を吊ります。これ以上ないほどの暗く重たいシー
ンです。しかも、まもなく悠子がその場面を目撃してショックのあまり意識を
失ってしまいます。
ところが、ドラマは意外な方向へと滑り出します。悲劇の真っただ中にいるは
ずの鈴木家と周辺の人々が、ユーモラスに描かれるのです。幸男、富美、そし
て悠子の弟でアルゼンチンのエビを扱うビジネスをしている吉野博、幸男の妹
の鈴木君子。特に君子のあけすけで強烈なキャラと、博のいかにもお気楽な天
然キャラが、数々の笑いを生み出していきます。
二度と意識が戻らないことも懸念された悠子ですが、光一の四十九日の日に突
然、目覚めます。その目覚め方も爆笑モノ。入院患者の孫の男の子が見ている
中でベッドから転がり落ち、床を這って男の子の元まで行きます。まるでホ
ラー映画のようなシーン。と思ったら、男の子が手に持っていた食べ物（お菓
子？ バナナ？）をパクリ。ここも思わず笑ってしまうシーン。
ただし、悠子は倒れる直前の記憶を失っています。つまり、光一の自殺のこと
も何も覚えていなかったのです。「光一はどこ？」という悠子の問いに、富美
はとっさに言ってしまいます。「お兄ちゃんは引きこもりをやめて、アルゼン
チンでおじさんの仕事を手伝っている」と。そして、鈴木家や親戚の人々は嘘
をつきとおすことにして、必死にアリバイ作りを始めるのです。
そのアリバイ工作が笑えます。幸男はチェ・ゲバラのＴシャツを調達し、光一
がアルゼンチンから送ってきたように装います。また、富美は光一からの手紙
をでっち上げます。
とはいえ、この映画、ただ笑えるだけではありません。笑いの中から、次第に
テーマがくっきりと浮き上がってきます。それは、自死によって遺された家族
の苦悩を通して、家族というものの実像に迫ることです。
富美は、自分と同じく近しい者が突然亡くなった人々の集まりに参加します。
そこでは、他の遺族の生々しい証言が観る者の胸をグサリとえぐります。ただ
し、この集会でも強烈なキャラのおばさんを登場させて、笑いを誘うあたりの
心憎いバランス感覚が、この映画の真骨頂でしょう。
やがて、悠子に対する嘘は終わりを迎えます。そこからは家族の苦悩と葛藤が
描かれます。悠子は「あの時、留守にしなければ」と悔やみ、富美は光一に対
して禁断のひと言を放った自責の念に苦しみます。そんな2人が絡み合う川での
シーンは、思わず涙せずにはいられませんでした。
最後には家族の再生を無理なく印象付け、温かで優しい余韻を残してドラマは
終わりを迎えます。
この映画は、野尻克己監督のオリジナル作品。野尻監督は橋口亮輔、石井裕也、
大森立嗣などの数多くの作品で助監督を務めてきました。シリアスと笑いの絶
妙なブレンド加減は、劇場映画初監督作とは思えない見事な手腕です。
役者たちも素晴らしい。岸部一徳、原日出子らの貫禄の演技に加え、コメデ
ィー要素を盛り上げる岸本加世子、大森南朋、宇野祥平らのはじけた演技も印
象的です。そして何よりも、瀬々敬久監督の『菊とギロチン』で主演を務めた
木竜麻生の身体の奥からにじみ出してくるような演技が見事です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年11月19日（月）シネスイッチ銀座にて。午後7時の回
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