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ザ・スクエア 思いやりの聖域（THE SQUARE）
（2017年 スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク）（上映時間2時間31分）
監督・脚本：リューベン・オストルンド
出演：クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノ
タリー
＊ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほかにて公開。
全国順次公開
ホームページ http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/
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＜ストーリー＞
現代アートを扱う美術館のキュレーターとして知られるクリスティアン（クレ
ス・バング）。彼は次の展覧会で、人々の思いやりをテーマにした「ザ・スク
エア」という作品を展示する計画だった。そんな中、スマホと財布を盗まれて
しまったクリスティアンは、GPS機能を使って犯人の住むマンションを突き止め
ると、全戸に脅迫めいたビラを配って犯人を探そうとする。だが、その行動が
彼を予想外の状況に追い込んでしまう……。
＜レビュー＞
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観客に高見の現物を許さない矛盾の数々
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前作『フレンチアルプスで起きたこと』で一躍注目を集めたスウェーデンのリ
ューベン・オストルンド監督の作品。2017年の第70回カンヌ国際映画祭で最高
賞のパルムドールを受賞しました。
主人公のクリスティアンは有名美術館のキュレーター。バツイチだが2人の娘を
持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えます。ただし、彼の美術館が扱う
のは現代アート。クリスティアンは現代アートの展示には多額の資金が必要で、
金集めが大変であることを語ります。難解なコンセプトや社会的メッセージを
持つ作品も多い現代アートが、金まみれの世俗的な環境に置かれているという
のは矛盾にも思えますが、この映画ではこうした様々な矛盾が描かれます。
中でも矛盾だらけなのがクリスティアン。彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」
という作品を展示する計画。それは地面に正方形を描き、その中では「すべて
の人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテー
マにした作品です。その背景には、今の世の中の利己主義や貧富の格差への批
判があるのですが、肝心のクリスティアンは、トラブルをきっかけにそうした
姿勢とは矛盾する行動をとるようになります。
そのトラブルとは、スリに遭いスマホと財布を盗まれてしまうというもの。ク
リスティアンは、GPS機能を使って犯人の住むらしいアパートを突き止めると、
脅迫状めいた手紙を全戸に配ります。思いやりのかけらなどない直情的行動で
す。
オストルンド監督の映画にはシニカルな笑いが満ちています。特に印象深いの
が異物を投入した笑い。例えば、トークショーで卑猥で乱暴な言葉を発する男
を参加者に加えたり。あるいは、クリスティアンにインタビューした女性記者
の家に、人間同様に暮らすチンパンジーを投入したり。
その記者とクリスティアンは関係を持ってしまうのですが、「絶対に寝ない
ぞ」と発言した直後に寝てしまうという節操のなさ。そして、後日彼はその女
性記者から「権力をひけらかして女を誘惑している」と非難されるのでした。
クリスティアンのスマホと財布は、意外なほどあっさりと戻ってきます。だが、
そこからが本当のトラブル。例の脅迫めいた手紙のせいで、クリスティアンは
面倒くさいことに巻き込まれていきます。
そして、彼はもう一つのトラブルに巻き込まれます。展覧会のＰＲをめぐって、
ＰＲ会社が仕掛けた動画があまりに過激だったため、世間の痛烈な批判を浴び
てしまうのです。
こうしてクリスティアンどんどん追い詰められていきます。最初は、高みの見
物でそれを眺めていた観客も、次第に他人事ではいられなくなってきます。
それが頂点に達するのが、終盤のパーティーシーン。出現するのはゴリラ人間。
出席したセレブ達の恐怖が観客にも伝播します。もはや高みの見物や無関心は
許されない世界に突入するのです。
当然ながら安直なハッピーエンドなどは用意されていませんが、悲惨なエンデ
ィングでもありません。「間違ったらそれを直して前に進めばいい」。そんな
ある人物の言葉を受けたクリスティアンの行動が示唆に富んでいます。とにか
く超個性的でインパクトの強い映画です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年4月29日（日）ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午前11時25分の回
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