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スリー・ビルボード
（THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI）
（2017年 イギリス・アメリカ）（上映時間1時間56分）
監督・脚本：マーティン・マクドナー
出演：フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェ
ル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ、
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ルーカス・ヘッジズ、ケリー・コンドン、
ダレル・ブリット＝ギブソン、ジェリコ・イヴァネク、キャスリン・ニュート
ン、サマラ・ウィーヴィング、クラーク・ピータース、サンディ・マーティン、
アマンダ・ウォーレン
＊TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開
ホームページ http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
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＜ストーリー＞
アメリカ、ミズーリ州の田舎町エビング。娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ
（フランシス・マクドーマンド）は、町はずれの巨大な広告看板に、犯人を捕
まえられない警察に対する抗議のメッセージを載せる。名指しされた署長のウ
ィロビー（ウディ・ハレルソン）は困惑しながらも冷静に対応する。だが、部
下のディクソン巡査（サム・ロックウェル）はミルドレッドへの怒りを露わに
する。署長を敬愛する町の人々とミルドレッドの間にも大きな溝が生まれ、事
態は思わぬ方向へ進んでいく……。
＜レビュー＞
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娘を殺された母と警察の人間たちの内面を描き出す
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娘をむごたらしく殺された母親ミルドレッド・ヘイズが主人公。アメリカ、ミ
ズーリ州の田舎町エビング（架空の田舎町ですが実際にありそう）に住む彼女
が、町はずれの巨大な広告看板を目にするところからドラマが始まります。
まもなく彼女は、そこにあるメッセージ広告を出します。事件から７か月経っ
ても、いまだに犯人を捕まえられない警察に対する抗議のメッセージです。そ
の行動が巻き起こした騒動を描くドラマです。
というと、亡き娘のために立ち上がるけなげな母親ＶＳ悪徳警察、という図式
を思い浮かべるかもしれませんが、そんな単純な構図は、あっさりと排除して
います。むしろ、登場人物の多様な内面を描き出します。
ミルドレッドは、青いジャンプスーツとバンダナを身に着け、警察の人間や住
民たちに向かっていきます。時には、まるで狂犬のような振る舞いで、どんど
ん暴走していきます。悲劇のヒロインとはほど遠い言動。
しかも、ミルドレッドが娘の死に執着するのは、娘への愛情からだけでなく、
事件直前の自分の言葉に対する悔恨の情があります。自分があんなことを言わ
なければ……という痛切な思いです。
彼女の表情は大きくは変化しません。どちらかというと硬い表情が多いのに、
怒り、悲しみ、悔恨、抑えきれない衝動などの様々な感情がリアルに伝わって
きます。何といっても演じるフランシス・マクドーマンドの演技がスゴイ。
警察署長のウィロビーの人物造型も見事です。彼はけっしてミルドレッドから
非難されるような男ではありません。殺人事件の捜査もきちんと行っています。
彼は、ミルドレッドの行動に困惑しながらも冷静に対応します。だが、そんな
彼にも大きな葛藤があります。
そして、この映画のもう一人の中心人物がウィロビーの部下のディクソン巡査。
彼はウィロビーと違い人種差別的で、暴力的で、すぐにキレやすい人物。しか
し、やがて彼のそうした性質は、生い立ちから来るもので、本質的なところで
はまったく違う顔があることが明らかになってきます。
中盤になると、衝撃的な事件が起きて、ミルドレッドは完全な憎まれ役になっ
てしまいます。それでも彼女は黙っていません。そして、それがまた大事件を
巻き起こします。
ドラマは、観客の予想をことごとく裏切っていきます。しかし、それに納得さ
せられてしまいます。監督・脚本のマーティン・マクドナーは、もともと戯曲
で名を上げた人物。想像を超えた展開や含蓄あるセリフに、その片鱗が十分に
うかがえます。
この映画には多くの要素が詰め込まれています。憎悪や暴力があれば、それと
裏腹の愛や良心、心の触れ合いなども詰め込まれています。アメリカの現状も
チラリチラリと示し、はてはシニカルな笑いまで用意されています。これだけ
のものを詰め込んで窮屈さを感じさせないのも、大きな魅力だと思います。
ラストは車の中のミルドレッドとディクソン。彼らの明確なその後は示しませ
んが、そこに微かな希望を感じました。彼らの胸で大きくなりつつあるものは、
憎悪ではなく愛なのではないでしょうか。
脚本、演出、演技ともに一級品！ 深くて、味のある作品です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）
（94点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年2月3日（土）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時40分の回
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