|
運命は踊る（FOXTROT）
（2017年 イスラエル・ドイツ・フランス・スイス）（上映時間1時間53分）
監督・脚本：サミュエル・マオズ
出演：リオル・アシュケナージ、サラ・アドラー、ヨナタン・シレイ
＊ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/foxtrot/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
ミハエル（リオル・アシュケナージ）とダフナ（サラ・アドラー）夫妻のもと
に、息子ヨナタンが戦死したという知らせが届く。ダフナはショックのあまり
気を失い、平静を装うミハエルも役人の対応にいら立ちを募らせる。そんな中、
戦死したのは同姓同名の別人だったと伝えられる。ダフネは安堵するが、ミハ
エルは怒りをぶちまけ、息子をすぐに呼び戻すよう要求する。一方、そのヨナ
タンは、戦場の緊迫感からは程遠い閑散とした検問所で、仲間の兵士たちと間
延びした時間を過ごしているのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
運命の不条理さを社会批判とともに描く
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『レバノン』で第66回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したイスラエルのサ
ミュエル・マオズ監督の8年ぶりの長編。この映画もヴェネチア国際映画祭で審
査員グランプリを獲得しました。
ドラマはおもに3つのパートから構成されます。最初に登場するのは、ミハエル
とダフナ夫妻。そこに軍人たちが、彼らの息子ヨナタンが戦死したと知らせに
来ます。
妻のダフナはショックのあまり気を失います。それに対して夫ミハエルは平静
を装いますが、次第に苛立ちを募らせていきます。軍人たちは、表面的には彼
らに同情する態度を見せますが、まるでルーチンワークのように次々と指示を
出します。また、夫妻の親戚や施設にいる認知症のミハイルの母の態度も、彼
を混乱させます。そして、ついにミハイルはブチ切れます。
混乱と怒りの渦中に叩き落されたミハエルの心情を描く映像がユニークです。
ゆっくりと左右に振られるカメラ。アップの多用。何よりも印象深いのが、ミ
ハエルを頭の上から映した映像です。こうした映像は、サスペンスフルで不穏
な空気を生み出す効果も発揮しています。
そんな中、ヨナタンの戦死は誤報だったとことがわかります。母のダフネは心
から安堵しますが、ミハエルは怒りをぶちまけ、ヨナタンをすぐに呼び戻すよ
うに要求します。
さて、では当のヨナタンは何をしているのか。ここからはヨナタンの日常を描
く2つめのパート。彼は国境の検問所で、仲間の兵士とともに任務に就いていま
す。彼らの前を通るのは一頭のラクダ。ヨナタンは、戦場の緊迫感からは程遠
い閑散とした検問所で、間延びした時間を過ごしていたのです。ヨナタンたち
は、自分たちが何のために何と戦っているのかわからなくなってきます。
そんなヨナタンたちを描く映像も、相変わらずユニーク。徐々に傾く彼らの住
居のトレーラー、調子の悪いラジオなどのアイテムも、効果的に使われます。
間延びした日常と同時に、どこか不穏な雰囲気も漂います。
その不穏さがやがて現実のものになります。ある夜、彼らは国境を越えようと
する一台の車をチェックします。それは簡単な取り調べのはずだったのですが
……。
その後、ヨナタンは帰宅の途に就きます。その車中で、彼は自らが描いた漫画
を取り出します。その漫画がひとしきり物語を紡ぎ出し、3パートめに突入しま
す。そこにはダフナとミハエル夫妻が再び登場。しかし、最初の頃とは違いま
す。またしても何かが起きたようです。
この終盤の夫妻の演技が圧巻。まるで濃密な舞台劇を見ているかのようです。
そこでは、これまでずっとミハエルの心の傷となっていた過去の出来事も暴露
されます。
この映画で描かれるのは運命の不条理さ。避けがたい運命に翻弄される人々の
姿を、イスラエルや世界の現状への批判を込めつつ描いています。ドラマの最
後には、ヨナタンに起きた異変が描かれ、運命の不条理さをさらに強く印象付
けます。
わかりやすい映画ではないし、人によって評価は分かれるでしょうが、他の映
画にはない不思議な魅力を持った作品なのは間違いがありません。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（86点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年10月7日（日）ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午後2時5分の回
[「う」のページ]
|
|