Vision

Vision

（2018年　日本・フランス）（上映時間1時間50分）
監督・脚本・編集：河瀬直美
出演：ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、美波、森山未來、白川
和子、ジジ・ぶぅ、田中泯、夏木マリ
＊丸の内ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ　http://vision-movie.jp/
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＜ストーリー＞
奈良県の吉野にある山深い森。フランスの女性エッセイスト、ジャンヌ（ジュ
リエット・ビノシュ）が、人類のあらゆる苦痛を取り去ることができるという
幻の薬草"ビジョン"を求めてやってくる。地元で暮らす山守の男・智（永瀬正
敏）と出会うが、彼は薬草のことを知らなかった。一方、謎めいた老女アキ
（夏木マリ）は、誰かがやってくることを予感していたようで、ビジョンにつ
いても何かを知っているらしかった。ジャンヌと智は次第に心を通わせるのだ
が……。

＜レビュー＞
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森を舞台にした謎に満ちた美しい物語
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ここのところ『あん』『光』と比較的わかりやすい映画を撮ってきた河瀨直美
監督。しかし、今回は難解。人によってどうとでも解釈できそうな映画です。
もともと河瀨監督は、こういうタイプの作品が多かったので、今回は原点に回
帰したといえるかもしれません。

舞台となるのは、奈良県の吉野にある山深い森。そこで暮らす智という男が森
の手入れをしています。そんな中、フランスの女性エッセイストのジャンヌが、
助手とともにやってきます。ジャンヌは、人類のあらゆる苦痛を取り去る幻の
薬草「ビジョン」を求めてやってきたといいます。

20年前にこの地にやってきたという智は、いかにもワケ風。しかし、それ以上
に謎だらけなのが近くに住む老女アキ。彼女は盲目ですが、鋭い感覚を持つよ
うで、誰かがやってくることを予感していました。ビジョンについても何かを
知っているらしい。しかも、「自分は1000年前に生まれた」などと不思議なこ
とを言うのです。そして、ジャンヌも何か秘密を抱えている模様。途中で何度
も挟まれる意味不明な短いショットから、それが類推できます。

このようにサスペンス的要素を持ちつつも、一筋縄ではいかない物語。ジャン
ヌと智は少しずつ親密な関係になります。同時に、森には何か大きな異変が起
きつつあることが語られます。さらに、アキが森に姿を消します。ジャンヌは
いったんフランスに帰り、秋になって再訪します。その間に智は、森でケガを
していた鈴という青年を助けます。彼はそのまま残り、智の仕事を手伝います。

後半も謎だらけです。鈴が姿を消したり、謎の東洋人男性が何の脈絡もなく登
場したり、智がいつも山に連れて行っていた犬が、謎の死を遂げたり。そうか
と思えば、「人間の脳には攻撃性の残った部分がある」なんてセリフも飛び出
します。そのせいで人間だけが戦争をしたり、虐殺をするといいます。

この謎だらけの世界が、このまま最後まで続くのか？　しかし、後半30分ほど
には意外な事実が提示されます。ここは、ネタバレになるので伏せておきます
が、映画の冒頭に登場した猟師が引き起こした悲劇にまつわるドラマです。そ
こに、ジャンヌ、鈴、謎の東洋人、アキなどが絡んできて、多くの謎が一つに
つながります。

この映画は何を伝えようとしているのか。観客それぞれが自分で想像力を働か
せて解釈するしかありません。自然讃歌、悲恋、母と子の絆、人間の残酷さ、
孤独と絆など、人によって異なる多様なメッセージを受け取れるはず。

自ら河瀬作品への出演を希望したというジュリエット・ビノシュ、怪演という
表現がぴったりの夏木マリなど、役者たちの演技もこの映画の魅力、そして何
よりも全編を通して、吉野の森の様々な表情がまるでアート作品のように鮮烈
に描写されています。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆
（80点）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（田中ひろあき）

〔鑑賞データ〕
2018年6月8日（金）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時30分の回

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