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ウインド・リバー（WIND RIVER）
（2017年 アメリカ）（上映時間1時間47分）
監督・脚本：テイラー・シェリダン
出演：ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル、グ
レアム・グリーン、ケルシー・アスビル、ギル・バーミンガム、ジュリア・ジ
ョーンズ、マーティン・センスマイヤー
＊角川シネマ新宿ほかにて公開
ホームページ http://wind-river.jp/
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＜ストーリー＞
ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。野生
生物局の職員で地元のベテランハンターのコリー・ランバート（ジェレミー・
レナー）は、ある日、雪の上で凍りついているネイティブアメリカンの少女の
死体を発見する。彼女は亡くなったコリーの娘エミリーの親友ナタリーだった。
すぐにFBIの新人女性捜査官ジェーン・バナー（エリザベス・オルセン）がやっ
て来る。慣れない土地で1人での捜査を担当するジェーンは、コリーに協力を要
請して事件の真相を追うのだが……。
＜レビュー＞
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緊張感漂うサスペンスから見えてくるアメリカの闇
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2015年に製作されたドゥニ・ビルヌーブ監督の『ボーダーライン』は、アメリ
カとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争を背景にしたリアルな犯罪
サスペンス。その脚本を担当したテイラー・シェリダンが、脚本に加え監督も
務めた映画です。今回もアメリカの辺境を舞台にした犯罪サスペンス。
取り上げられた辺境は、ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地
ウインド・リバー。といっても、彼らは昔からこの土地に住んでいたわけでは
ありません。白人たちに追いやられ、そこで暮らすことを余儀なくされたので
す。
そこは雪深い寒々とした土地。激しい吹雪が絶えず町を凍らます。その中で、
地元の野生生物局の職員でベテランハンターのコリー・ランバートは、雪の上
で凍りついているネイティブアメリカンの少女の死体を発見します。彼女は亡
くなったコリーの娘エミリーの親友ナタリー。いったい何が起きたのか？
ドラマは、この少女の怪死事件をめぐるサスペンスを軸に展開します。事件を
探るのは、FBIから派遣された新人女性捜査官のジェーン・バナー。慣れない土
地で1人で捜査を続けることになったジェーンは、コリーに協力を依頼します。
それにしても、何とリアルな映像でしょう。大自然の力強さと過酷さがそのま
まスクリーンに刻まれています。事件発生後、コリーと地元の部族警察長たち
が猛吹雪の中でジェーンの到着を待つシーンや、雪に覆われた大地をコリーや
ジェーンがスノーモービルで疾走し事件の謎を追う姿を観ているうちに、こち
らの心も凍りついてくるようです。
しかし、寒いのは大自然の映像のせいだけではありません。ここには寒々しい
現実があります。ネイティブアメリカンたちが置かれた環境は過酷で、容易に
そこから抜け出せません。貧困、麻薬、性犯罪などが日常と隣り合わせにあり
ます。
そんな荒廃した状況が、この映画には織り込まれています。もちろん、それは
声高な告発ではありません。あくまでもサスペンスとしての醍醐味を提供した
上で、そこから自然にあぶりだす形で観客に突き付けていくのです。
そのサスペンスとしての醍醐味は破格のもの。ゾクゾクするような緊張感が全
編にあふれています。コリー、ジェーン、地元の警察官、住民、労働者たちが
絡み合い、何が起きるかわからない不穏さと危うさを醸し出します。
心に傷を抱えた寡黙なハンターのコリーと、新人ながら情熱と意志で前に進む
ジェーンが、事件の真相に迫る中で心を通わせるあたりの展開も、ドラマに厚
みを加えています。
コリーを演じるのは、『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナー。胸の内に
様々なものを抱えたキャラクターを巧みに演じています。一方、ジェーンを演
じるエリザベス・オルセンもなかなかの熱演。
終盤になって、ついに事件の真相が明らかになります。その構図自体はけっし
て意表を突いたものではありません。しかし、回想シーンから一気に活劇シー
ンに持っていき緊張感をマックスに高めます。
そして、その後にコリーが取った行動が胸をざわつかせます。その根底にある
のは、亡き娘エミリーの存在。感情を押し殺しつつ、自分なりの裁きを下す彼
の心情が痛いほど伝わってくるシーンです。
犯罪サスペンスとして観るだけでも面白いのですが、そこから見え隠れするア
メリカの現実がこの映画をさらに素晴らしい作品にしています。
最後に流れるテロップを見逃さないでください。ネイティブアメリカンの置か
れた状況を象徴的に示す事実です。そして、そこで戦慄とともに思い出すので
す。映画の最初にあった「この映画は事実をもとにして作られている」という
言葉を。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2018年8月3日（金）シネマート新宿にて。午後2時25分の回
[「う」のページ]
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